俺の幼馴染(男)が俺のこと大好きなのに、告白してこない。

それからは大変だった。
 出し物は、ほとんど満場一致で告白カフェに決まった。
 ただのカフェじゃなく、利用した人が告白できるような場所をセッティングする。
 成功した人は盛大に祝って、特別メニューを提供する。万が一うまくいかなくても、そのまま帰らせるんじゃなくて、甘いドリンクと一緒に「お疲れさま」って声をかけることにした。
 ――せめて、ちゃんと思い出にはなるように。

 告白できるブースは、恋リアを大いに参考にした。
 仕切りで区切られた半個室に、少しだけ照明を落とす。真正面で向き合う席。逃げ場のない距離。
「これ、緊張やばくない?」
「むしろそれがいいんじゃね?」
 そんなことを言いながら、机の位置を何度も調整する。

 放課後の教室は、やけに騒がしかった。
 装飾班が壁に飾りを貼って、調理班がメニューを考えて、誰かがふざけて怒られて。大変だけど、悪くない。

 高校二年の文化祭は、一生に一回だけだ。
 心なしか、誰もが落ち着かない様子だった。クラスの出し物が告白カフェというのを差し引いても、恋愛の噂をよく聞くようになっていた。

 隆也も練習が大詰めのようで、二人で話す機会は減っていた。
 本番を一週間後に控えた日。
「よ、お疲れ。隆也も今帰り?」
 たまたま下駄箱で帰り際の隆也を見つけて、自然と同じ方向に歩き出す。

「いよいよ来週だな、文化祭。ライブは二日目だよな?」
「ああ。でも、樹も忙しいだろうし、無理しなくて大丈夫だから」
「絶対行くって。今年は絶対見たい」
 ちらりと横目で隆也を見ると、口許が笑っていて、今なら言える気がした。

「……なあ、ずっと聞きたかったんだけど」
 歩きながら、ぽつりと口を開く。
「隆也がベース始めたのってさ。中学の時、俺がやれって言ったからだよな」
「……覚えてたのか」
「覚えてるに決まってんだろ。俺が言ったのに、続けられなくてさ。…ごめん」
「……別に気にしてないよ。今こうやって楽しいし」
「……そっか」
 それだけのやり取りなのに。心臓の音が、やけにうるさい。
「……なあ、隆也」
「ん?」
「俺と友達になって、良かった?」
足が、止まる。隣で、隆也も足を止めた。

「なんだよ、急に」
「……なんかさ」
 うまく言葉が出てこない。
「いつも、俺ばかり何かしようって言ってる気がして。隆也は、無理して合わせてくれてるんじゃないかって」
「……そんなことない。俺がしたくてしてる」
「……そっか」
 だったら。
 ――なんで、言わねえんだよ。お前、俺のこと好きなんじゃねえのかよ。
 胸の奥に、黒いものが広がる。

「……なあ、もし俺が、隆也を好きだって言ったらどうする?」
一瞬の沈黙。
告白されたかった。ただ、それだけ。隆也の気持ちが聞きたかった。

「……冗談でもそういうこと言うな。俺たちは幼馴染だろ」
 ブレザーを着ているのに、心の声は聞こえない。

 冗談なんかじゃ、ないのに。やっぱり、隆也の考えてること、全然分かんねえ。
「……樹? お前どうした」
「幼馴染“だから”だろ」
「……何言って」
「……本当にただの幼馴染だと思ってる?」
 一瞬、怯む。自分でも分かる。言い方がきつくなる。
 違う、こんなことが言いたいんじゃないのに。でも、止められない。

「幼馴染だと思ってるの、隆也だけだよ。俺はもう……お前のこと幼馴染だなんて思ってない」
「………………」
 言ってから気付く。あれ、この言い方じゃ、拒絶してるみたいじゃねえか。

「……ごめん」
 隆也はきびすを返して、いつもとは違う道へ駆けていく。

「くそ……」
 ひとり取り残された俺は、立ち尽くしていた。
 何でだよ。何で伝わらないんだよ。
 俺は隆也が好きで、隆也も俺が好きなはずなのに。
 それだけじゃ、足りない。そんな当たり前のことを、今さら思い知らされる。

 告白してこないってことは、その程度ってことかよ。
「あーあ、ばかみてえ」
 よく考えたらおかしかったんだ。女子にモテて、告白されて。それでいいじゃねえか。
 なんで、隆也にこだわってる? なんで、あいつに告られる必要がある?
「……もう、どうでもいいか」
 ぎゅっと、力を込めて。そして、ゆっくりと手を離した。

 それから文化祭まで、二人で話す機会はなかった。
 俺は実行委員の仕事で、隆也は練習で忙しかったし、小野田と榊原を含めた四人で話す機会も減っていた。
 だから、俺と隆也の気まずい空気に気付かれることはなかった。
 小野田は少し勘付いてたみたいだけど、口に出してはこなかった。