「たーまやー!」
「あ、おい、たこ焼きはひとり一個だぞ」
「俺フランクフルト買ってくるわ」
榊原たちの声が、すぐ横で弾ける。花火を見ていたのは最初だけで、今は屋台飯を取り合っている。
夜空には、次々と花が咲いている。赤、青、黄色。一瞬光って、すぐに消える。見上げているはずなのに、頭の中は別のことでいっぱいになっていた。
――もし、鳴海の告白がうまくいったら。
「……」
どうしたらいい。俺は、どうしたいんだろう。
「あれー、隆也!」
榊原の声に、はっとする。
少し離れた場所から、隆也と鳴海が歩いてくるところだった。鳴海は昼間と同じ浴衣を着ていて、隆也はいつも通りの私服。その並びが、妙に現実味を持って目に入る。
「なんだ、お前も来てたのかよー……、って、そっちは?」
軽い調子の会話の中で、鳴海がこっちを見る。
「樹クン、ちょっと話せる?」
――心臓が、跳ねた。
人混みから少し離れたところに行くと、鳴海が振り返った。
「ダメやったよ」
「え?」
「告白。もうー、言わせんでや」
「……そう、なんだ」
「好きな人がおるんやって」
「……え?」
隆也に、好きな人? なんだ、鳴海にはそう言ったのか。
「……そっか」
うまく反応できないまま、言葉だけが落ちる。
鳴海が、じっとこっちを見る。
「それでさ、言おうか迷ったんやけど。……自分、隆也くんから好かれてる自覚あるやろ」
「……」
「なのに気づかないフリして、都合よくつこてる。ずるいと思わん?」
「…………」
何も言い返せない。そう思われても仕方ない、よな。
鳴海は、少し肩をすくめた。
「ほんま、不器用やなあ」
ぽつりと呟いた。責めるでもなく、笑うでもなく。
それだけで、何もかも見透かされた気がした。
「で、自分はどうなん?」
「……え、何が」
「冗談言わんでや。隆也クンのこと、どう思ってるのって話」
「…………」
俺が、隆也のことを……?
これまでは、ただの幼馴染だった。心の声が聞こえて、俺のこと好きだって知って。悪くは思わなかった。むしろーー。
――あれ? なんで俺、あいつに「好き」って言ってほしいと思ったんだ?
「……まじか」
気づいた瞬間、言葉が漏れていた。
「まじか、はこっちの台詞やわあ。ここまでニブチンやと大変やね、二人とも」
軽く笑って、手をひらっと振る。
「ま、おじゃま虫はここらで退散するわ。あとは頑張りや」
そのまま、振り返らない。
遠ざかる背中を見ながら、息を止めていたことに気づいた。
鳴海と別れてもといた場所に戻ると、今、一番話したくない相手が立っていた。
「樹、大丈夫か? 今、鳴海が出てきたけど……」
「……お前、鳴海に告られたの?」
自分でも驚くくらい、間を置かずに出た言葉だった。
隆也が、ほんの少し目を見開く。
「鳴海から聞いた」
「……そっか」
はあ、と小さく息を吐く隆也。その何でもない仕草に、なぜかイラついた。
「……断ったよ」
「なんで?」
また、すぐに聞き返していた。
「……ごめん。俺、前に噓ついた」
視線を逸らしたまま、隆也が続ける。
「樹、前に聞いただろ。好きなやついるかって」
「……」
「……ほんとは、いるんだ」
一瞬、言葉が詰まる。
「ずっと、好きなやつが」
心臓が、嫌な音を立てる。
「…じゃあ、なんで鳴海とデートしたんだよ?」
「……こうでもしたら、忘れられると思ってた」
言い訳じみた言葉に、本気なんだと感じる。
「……で、忘れられたのかよ」
「……無理だった」
はっきりしない言い方に、腹が立って。でも、なんで腹が立っているのか分からない。
「じゃ、じゃあ」
思い切って聞く。
「……告白とか、しないのかよ」
「しない」
即答だった。
「言っても困らせるだけだし、俺の気持ちを押し付けたくない」
そこで、初めて目が合った。
「……そいつには、幸せになってほしい」
――噓つき。頭の中では、あんなに俺のことばかり考えてるくせに。
「……」
何も言えない。言わない方がいい、って分かってる。分かってるのに、言ってしまいそうになる。
じゃあ、なんで。なんで、そんな顔してんだよって。
「樹、隆也―! もう駅までの道すげえ混んでるからさ、ファミレス行かね?」
榊原たちが走ってきて、空気が一気にほどける。
そのまま、会話を続けることはなかった。
花火大会が終わった後も、夏休みは続いていった。
始業式の前日、夏休みの最終日。
部屋でダラダラ過ごしていると、姉がノックもなしに部屋に入ってきた。
「樹―! 隆也くん来たけど」
「……頭痛いから会えない」
「はあ? さっきまでピンピンしてたじゃない」
「とにかく、今は会えないから。帰ってもらって」
「はあ……あんたねえ」
姉が呆れた顔でこっちを見る。
「何があったか知らないけど、そんな態度とってたら友達なくすよ」
「……」
――友達。
姉が言った言葉が、深く胸に突き刺さる。
玄関先で隆也と姉が話している声が微かに聞こえたけど、少ししたら静かになった。
しばらくして、スマホが震えた。隆也からだった。
『頭痛、大丈夫か?』
少し間を置いてから、返信を打つ。
『ごめん。家来てもらったのに。寝たら良くなった』
『よかった。明日の朝も同じ時間でいいか?』
俺は了解の意味のスタンプを押す。すぐに既読がついた。
「……分かんねえ」
鳴海にはああ言われたけど、自分の気持ちなんて、まだはっきりしない。
でも、隆也が鳴海に取られると思ったら、堪らなくイライラしたのは事実で。
心の声が聞こえても、隆也の気持ちはいつまでも分からないまま。
本当の気持ちを、分かった気になってるだけ。俺は何一つ、隆也に伝えてもらっていない。
俺はやっと、隆也が好きだって分かったのに。
夏休みが開けても、まだ残暑が厳しかった。
隆也を好きだと自覚してからは、心の声を聞くのが怖くて、ブレザーを着なかった。
「あ、おい、たこ焼きはひとり一個だぞ」
「俺フランクフルト買ってくるわ」
榊原たちの声が、すぐ横で弾ける。花火を見ていたのは最初だけで、今は屋台飯を取り合っている。
夜空には、次々と花が咲いている。赤、青、黄色。一瞬光って、すぐに消える。見上げているはずなのに、頭の中は別のことでいっぱいになっていた。
――もし、鳴海の告白がうまくいったら。
「……」
どうしたらいい。俺は、どうしたいんだろう。
「あれー、隆也!」
榊原の声に、はっとする。
少し離れた場所から、隆也と鳴海が歩いてくるところだった。鳴海は昼間と同じ浴衣を着ていて、隆也はいつも通りの私服。その並びが、妙に現実味を持って目に入る。
「なんだ、お前も来てたのかよー……、って、そっちは?」
軽い調子の会話の中で、鳴海がこっちを見る。
「樹クン、ちょっと話せる?」
――心臓が、跳ねた。
人混みから少し離れたところに行くと、鳴海が振り返った。
「ダメやったよ」
「え?」
「告白。もうー、言わせんでや」
「……そう、なんだ」
「好きな人がおるんやって」
「……え?」
隆也に、好きな人? なんだ、鳴海にはそう言ったのか。
「……そっか」
うまく反応できないまま、言葉だけが落ちる。
鳴海が、じっとこっちを見る。
「それでさ、言おうか迷ったんやけど。……自分、隆也くんから好かれてる自覚あるやろ」
「……」
「なのに気づかないフリして、都合よくつこてる。ずるいと思わん?」
「…………」
何も言い返せない。そう思われても仕方ない、よな。
鳴海は、少し肩をすくめた。
「ほんま、不器用やなあ」
ぽつりと呟いた。責めるでもなく、笑うでもなく。
それだけで、何もかも見透かされた気がした。
「で、自分はどうなん?」
「……え、何が」
「冗談言わんでや。隆也クンのこと、どう思ってるのって話」
「…………」
俺が、隆也のことを……?
これまでは、ただの幼馴染だった。心の声が聞こえて、俺のこと好きだって知って。悪くは思わなかった。むしろーー。
――あれ? なんで俺、あいつに「好き」って言ってほしいと思ったんだ?
「……まじか」
気づいた瞬間、言葉が漏れていた。
「まじか、はこっちの台詞やわあ。ここまでニブチンやと大変やね、二人とも」
軽く笑って、手をひらっと振る。
「ま、おじゃま虫はここらで退散するわ。あとは頑張りや」
そのまま、振り返らない。
遠ざかる背中を見ながら、息を止めていたことに気づいた。
鳴海と別れてもといた場所に戻ると、今、一番話したくない相手が立っていた。
「樹、大丈夫か? 今、鳴海が出てきたけど……」
「……お前、鳴海に告られたの?」
自分でも驚くくらい、間を置かずに出た言葉だった。
隆也が、ほんの少し目を見開く。
「鳴海から聞いた」
「……そっか」
はあ、と小さく息を吐く隆也。その何でもない仕草に、なぜかイラついた。
「……断ったよ」
「なんで?」
また、すぐに聞き返していた。
「……ごめん。俺、前に噓ついた」
視線を逸らしたまま、隆也が続ける。
「樹、前に聞いただろ。好きなやついるかって」
「……」
「……ほんとは、いるんだ」
一瞬、言葉が詰まる。
「ずっと、好きなやつが」
心臓が、嫌な音を立てる。
「…じゃあ、なんで鳴海とデートしたんだよ?」
「……こうでもしたら、忘れられると思ってた」
言い訳じみた言葉に、本気なんだと感じる。
「……で、忘れられたのかよ」
「……無理だった」
はっきりしない言い方に、腹が立って。でも、なんで腹が立っているのか分からない。
「じゃ、じゃあ」
思い切って聞く。
「……告白とか、しないのかよ」
「しない」
即答だった。
「言っても困らせるだけだし、俺の気持ちを押し付けたくない」
そこで、初めて目が合った。
「……そいつには、幸せになってほしい」
――噓つき。頭の中では、あんなに俺のことばかり考えてるくせに。
「……」
何も言えない。言わない方がいい、って分かってる。分かってるのに、言ってしまいそうになる。
じゃあ、なんで。なんで、そんな顔してんだよって。
「樹、隆也―! もう駅までの道すげえ混んでるからさ、ファミレス行かね?」
榊原たちが走ってきて、空気が一気にほどける。
そのまま、会話を続けることはなかった。
花火大会が終わった後も、夏休みは続いていった。
始業式の前日、夏休みの最終日。
部屋でダラダラ過ごしていると、姉がノックもなしに部屋に入ってきた。
「樹―! 隆也くん来たけど」
「……頭痛いから会えない」
「はあ? さっきまでピンピンしてたじゃない」
「とにかく、今は会えないから。帰ってもらって」
「はあ……あんたねえ」
姉が呆れた顔でこっちを見る。
「何があったか知らないけど、そんな態度とってたら友達なくすよ」
「……」
――友達。
姉が言った言葉が、深く胸に突き刺さる。
玄関先で隆也と姉が話している声が微かに聞こえたけど、少ししたら静かになった。
しばらくして、スマホが震えた。隆也からだった。
『頭痛、大丈夫か?』
少し間を置いてから、返信を打つ。
『ごめん。家来てもらったのに。寝たら良くなった』
『よかった。明日の朝も同じ時間でいいか?』
俺は了解の意味のスタンプを押す。すぐに既読がついた。
「……分かんねえ」
鳴海にはああ言われたけど、自分の気持ちなんて、まだはっきりしない。
でも、隆也が鳴海に取られると思ったら、堪らなくイライラしたのは事実で。
心の声が聞こえても、隆也の気持ちはいつまでも分からないまま。
本当の気持ちを、分かった気になってるだけ。俺は何一つ、隆也に伝えてもらっていない。
俺はやっと、隆也が好きだって分かったのに。
夏休みが開けても、まだ残暑が厳しかった。
隆也を好きだと自覚してからは、心の声を聞くのが怖くて、ブレザーを着なかった。
