「……は?」
隆也が間の抜けた声を出す。無表情な隆也にしては珍しい、困惑した表情。
一拍遅れて、俺の心に戸惑いが広がる。
心の声と一緒に、隆也の鼓動も聞こえる気がした。いつもより少し速い鼓動。
鳴海は気にした様子もなく、ぐっと顔を近づけた。
「冗談ちゃうで。ほんまにタイプ。顔もやけど、さっきの演奏、めっちゃかっこよかったし」
「ちょ、近いって」
隆也がわずかに体を引く。
(近い……。初めてだ、こんなこと)
心の声に、胸がざわつく。“初めて”。当たり前だ。こんなふうに、真正面から好意を向けられるなんて。
俺は、一度もされていない。
「で、どやの? デート」
鳴海は手を離さないまま、にこにこと首を傾げる。
隆也は困ったように言った。
「いや……急すぎて理解が追いつかないんだが」
(無理だろ)
ほとんど反射みたいな心の声。なのに。
(……でも)
その続きが聞こえない。隆也がゆっくりと手を離す。鳴海を拒むというより、距離を整えるみたいな仕草だった。強く振り払うこともできたはずなのに、そうしない。俺は、胸がざわざわした。
なんでだよ。“無理”なら、はっきり切ればいいだろ。その一瞬の引っかかりが、やけに鮮明に響く。胸の奥が、ぎゅっと締まった。
「あはは、慣れてないんや、かっこいいのに。ギャップあるのもええなあ」
俺が思っていても言わなかったことを、鳴海はあっさり口にする。
「……あと、夏休みは練習あるし、時間つくるの難しい」
「じゃ、練習終わるの待っててもええ? 連絡先交換しよ」
「それは、いいけど……」
よくねえだろ。隆也も隆也だ。よく知らないやつといきなり連絡先交換するなんて、何考えてるんだ。
……いや、もともと鳴海と知り合ったのは、俺だったな。その流れで連絡先まで交換してる。俺が言えることじゃなかった。
「あ、あのさ。俺も練習見に行っていい? 隆也の練習見たいし」
「えー、別にええけど。デートは邪魔せんでな?」
「でっ……」
デート。恥ずかしげもなく言い放つ鳴海に、俺は内心めちゃくちゃ嫉妬していた。なんで、そんな簡単に言えるんだよ。
「何時に終わるか分からないけど、それでもいいなら」
「やったー、楽しみにしとるな」
鳴海は満面の笑みでもう一度隆也に体を押し付けた。ほとんど抱きつくみたいな体勢。おい、近すぎだろ。
「今日はほんま来て良かったわあ。またな、隆也クン。樹くんも」
鳴海は帰り際、にこにこ隆也に手を振って帰って行った。
静かになった楽屋で、隆也を振り返る。
「……隆也」
「ん?」
「大丈夫なのかよ、よく知らないやつが練習見に来るなんて」
「あー……まあ、音楽好きなやつに見てもらえるのは貴重だしな」
「……」
だったら俺でもいいだろ。喉まで出かけて、飲み込む。また、胸がぎゅっと締まる。
「俺も鳴海が男を好きなんて知らなかったんだ。隆也のこと好きになるなんて……」
「……まあ、びっくりはしたけど。別に悪いやつじゃなさそうだし」
「……それは、そうだけど」
女子に絡まれて動けなかった俺に、鳴海が助け舟を出してくれたのを思い出す。趣味も合うし、悪いやつじゃないってのは本当だ。
じゃあ俺は、何に引っかかっているんだろう。友達動詞が仲良くなるのは、いつもだったら嬉しいはずなのに。
さっきから、隆也が鳴海を受け入れるような発言を聞くたび、モヤモヤしている自分がいた。
数日後、俺は軽音部の練習を見るために学校へ来ていた。
その日は今年一の最高気温だとかで、ブレザーを持ち歩くには、正直最悪の日だった。腕にかけるだけでも暑いし、かばんに入れればかさばる。それでも、持ってきた。隆也の心の声を、聞くためだ。
無理やり押し込んだブレザーの重みを感じながら、校舎に入る。
部室には、すでに人が集まっていた。見慣れた軽音部のメンバーに混じって、他校の生徒の姿もある。
夏休みで、部活によっては他校の生徒も来られるのだ。
その中に、鳴海の姿もあった。俺に気づくと、軽く手を上げる。
「やほー、樹クン」
「暑いのによく来たな、鳴海も」
「隆也クン見に来たんだもーん」
甘えた声。鳴海と話していると、軽音部の女子に話しかけられた。
「あれ、樹くん! なに、鮫島くんの練習見に来てたのー?」
「オーディションにも来てたよね?」
ライブハウスの時のデジャブかよ。ま。質の悪いナンパよりはずっとマシだけど。
練習が始まる前、部長からオーディションの結果が発表される。ざわつく空気の中で、名前が呼ばれて。隆也のバンドも、合格だった。
「隆也、おめでと……」
「隆也クン! オーディション合格ほんますごいわ、やったなあ!」
「これ、良かったら食べて?」
鳴海が差し出したお菓子を、隆也が受け取る。笑いながら、当たり前みたいにやり取りしてる。
好意をあんなに素直に向けられるなんて。その距離の近さに、胸の奥がざわついた。
「隆也、おめでとう。やったな」
「ありがとう」
安心したような顔。練習していたのを知っているから、俺も嬉しい。
「なあ、隆也クン。あのバンド、新曲出たん知ってる? 今レコードショップでフェアやってるんよ。この後一緒に行かへん?」
「だ、だったら俺も……」
「無理せんでええよ。樹クンは女子たちと話すのが楽しそうみたいやし」
何だよ、その言い方。胸がずきんと痛む。
「じゃ、スタバも行こ。ボク、期間限定のシェイク飲みたいねん」
「またな、樹」
「……分かったよ」
隆也がどんな顔をしているのか見られなかった。
でも、俺は天宮樹。このくらいでへこたれる男じゃない。
二人とは逆方向に帰る振りをして、Uターンでついていく。
尾行するなんて俺らしくないけど、足は止められなかった。
ブレザーが入った鞄を持って、心の声が聞こえる距離を保ちながら、二人にバレないようについていった。
ショッピングモールのレコードショップに立ち寄る二人。
「え、ほんま!? ボクもこのバンド好きやねん」
「ベースラインがいいよな」
……なんだよ、隆也も普通に楽しそうじゃねえか。
ついこの間、隆也にイヤホンを貸してもらって一緒に音楽を聴いたことを思い出す。あの時の俺と隆也が、今の鳴海と隆也に重なって。
「……隆也が誰にでも優しいなんて、今に始まったことじゃねえし」
自分に言い聞かせるみたいに呟く。
フードコートはエアコンが効いていて、ブレザーを着ても何とか暑さには我慢できそうだった。
スタバから出てきた二人はトレイを持って、席を探している。俺は二人の死角になる席を見つけ、柱の陰から背中を見つめる。会話は、ギリギリ聞こえる距離。
「くそ、でもこれじゃ遠すぎるか…」
(シェイク、甘そうだな)
聞こえた。隆也の心の声。
ブレザーが見えないように、ウインドブレーカーのフードを被ってマスクもつける。通りがかった親子に白い目で見られた気がするが、気にしている余裕はない。
「隆也クン、改めてなんやけど。今日はデートしてくれてありがとうー」
「……これがデートなのか分かんねえけど」
「デートやで、ボクにとっては。好きな人と一緒におられるんやもん」
(……好きな人、か)
隆也の声。思わず、指に力が入る。
「……鳴海はさ。俺のどこが好きなの?」
「えー、聞きたい?」
もったいぶったように、ストローから口を離す。
「この前も言ったけど、まず顔やろ。ボクのタイプど真ん中。それに、ベースもかっこよかったしーー」
隆也は眉ひとつ動かさずに聞いている。
「あとは、優しいところ」
「……?」
まだ出会って少ししか一緒にいないのに、どうして分かるんだよ。隆也も俺と同じことを思ったのか、不思議そうな顔をしている。
「だってさ、こうやってボクと会ってくれてるやん。優しい証拠やで」
そうだ。隆也は、いつでも優しい。
「……自信がないだけだ」
隆也が、ぽつりと呟く。
(本当に好きなやつには、気持ちを伝える勇気もない)
好きなやつ、という言葉に心臓が跳ねる。
「ええやん、人間くさくて。自信なんてみんなないやろ」
「……」
「ボクも怖いよ? 今こうやって話してるのも。せやけど、言わないと伝わらんこともあるやろ」
「……」
鳴海の言葉が胸に刺さる。隆也の台詞も、俺には衝撃的だった。
自信がない、なんて。隆也の口から初めて聞いた言葉に、戸惑いが隠せない。
だけどそれ以上に、良い雰囲気になっている二人にソワソワした。
フードコートの一角。そこだけ切り取られたように二人の世界になっている。
「……帰るか」
これ以上二人を見ているのは辛かった。
フードコートを抜けて、外に出る。夕方の空気が、やけに冷たい。
「……何やってんだ、俺」
ぽつりと呟く。隆也の声が、頭から離れない。
『本当に好きなやつには、気持ちを伝える勇気もない』
「……好きなやつ、ね」
あいつが、そんなこと思ってるなんて知らなかった。
いつも余裕そうで、誰にでも優しくて。
「……なんだよ、それ」
胸の奥が、じわっと熱くなる。
――じゃあ、その“好きなやつ”って誰だよ。
「俺じゃ、なかったのかよ」
考えた瞬間、すぐに打ち消す。
「……関係ねえだろ」
強めに言い聞かせるみたいに呟いて、ポケットに手を突っ込む。
関係ない。俺には。
……ほんとに? 足が止まる。
さっきのフードコートでの光景が、また浮かぶ。
向かい合って笑う二人。
『言わないと伝わらんこともあるやろ』
鳴海の声まで、やけに鮮明に残っている。
「……うるせえ」
誰に向けたのかも分からないまま、吐き捨てた。
そんなの、分かってる。分かってるけど。
自分から気持ちを伝えたって、いいことなんてなかった。
言って、傷ついて。何かを失って。……だから、やめたはずだ。
誰にでも優しくしていれば、何も壊れない。そうやって、やってきた。
なのに。なんで今さら、こんなこと考えてるんだよ。
……俺は、まだ。
あの時のまま、止まってる。
隆也が間の抜けた声を出す。無表情な隆也にしては珍しい、困惑した表情。
一拍遅れて、俺の心に戸惑いが広がる。
心の声と一緒に、隆也の鼓動も聞こえる気がした。いつもより少し速い鼓動。
鳴海は気にした様子もなく、ぐっと顔を近づけた。
「冗談ちゃうで。ほんまにタイプ。顔もやけど、さっきの演奏、めっちゃかっこよかったし」
「ちょ、近いって」
隆也がわずかに体を引く。
(近い……。初めてだ、こんなこと)
心の声に、胸がざわつく。“初めて”。当たり前だ。こんなふうに、真正面から好意を向けられるなんて。
俺は、一度もされていない。
「で、どやの? デート」
鳴海は手を離さないまま、にこにこと首を傾げる。
隆也は困ったように言った。
「いや……急すぎて理解が追いつかないんだが」
(無理だろ)
ほとんど反射みたいな心の声。なのに。
(……でも)
その続きが聞こえない。隆也がゆっくりと手を離す。鳴海を拒むというより、距離を整えるみたいな仕草だった。強く振り払うこともできたはずなのに、そうしない。俺は、胸がざわざわした。
なんでだよ。“無理”なら、はっきり切ればいいだろ。その一瞬の引っかかりが、やけに鮮明に響く。胸の奥が、ぎゅっと締まった。
「あはは、慣れてないんや、かっこいいのに。ギャップあるのもええなあ」
俺が思っていても言わなかったことを、鳴海はあっさり口にする。
「……あと、夏休みは練習あるし、時間つくるの難しい」
「じゃ、練習終わるの待っててもええ? 連絡先交換しよ」
「それは、いいけど……」
よくねえだろ。隆也も隆也だ。よく知らないやつといきなり連絡先交換するなんて、何考えてるんだ。
……いや、もともと鳴海と知り合ったのは、俺だったな。その流れで連絡先まで交換してる。俺が言えることじゃなかった。
「あ、あのさ。俺も練習見に行っていい? 隆也の練習見たいし」
「えー、別にええけど。デートは邪魔せんでな?」
「でっ……」
デート。恥ずかしげもなく言い放つ鳴海に、俺は内心めちゃくちゃ嫉妬していた。なんで、そんな簡単に言えるんだよ。
「何時に終わるか分からないけど、それでもいいなら」
「やったー、楽しみにしとるな」
鳴海は満面の笑みでもう一度隆也に体を押し付けた。ほとんど抱きつくみたいな体勢。おい、近すぎだろ。
「今日はほんま来て良かったわあ。またな、隆也クン。樹くんも」
鳴海は帰り際、にこにこ隆也に手を振って帰って行った。
静かになった楽屋で、隆也を振り返る。
「……隆也」
「ん?」
「大丈夫なのかよ、よく知らないやつが練習見に来るなんて」
「あー……まあ、音楽好きなやつに見てもらえるのは貴重だしな」
「……」
だったら俺でもいいだろ。喉まで出かけて、飲み込む。また、胸がぎゅっと締まる。
「俺も鳴海が男を好きなんて知らなかったんだ。隆也のこと好きになるなんて……」
「……まあ、びっくりはしたけど。別に悪いやつじゃなさそうだし」
「……それは、そうだけど」
女子に絡まれて動けなかった俺に、鳴海が助け舟を出してくれたのを思い出す。趣味も合うし、悪いやつじゃないってのは本当だ。
じゃあ俺は、何に引っかかっているんだろう。友達動詞が仲良くなるのは、いつもだったら嬉しいはずなのに。
さっきから、隆也が鳴海を受け入れるような発言を聞くたび、モヤモヤしている自分がいた。
数日後、俺は軽音部の練習を見るために学校へ来ていた。
その日は今年一の最高気温だとかで、ブレザーを持ち歩くには、正直最悪の日だった。腕にかけるだけでも暑いし、かばんに入れればかさばる。それでも、持ってきた。隆也の心の声を、聞くためだ。
無理やり押し込んだブレザーの重みを感じながら、校舎に入る。
部室には、すでに人が集まっていた。見慣れた軽音部のメンバーに混じって、他校の生徒の姿もある。
夏休みで、部活によっては他校の生徒も来られるのだ。
その中に、鳴海の姿もあった。俺に気づくと、軽く手を上げる。
「やほー、樹クン」
「暑いのによく来たな、鳴海も」
「隆也クン見に来たんだもーん」
甘えた声。鳴海と話していると、軽音部の女子に話しかけられた。
「あれ、樹くん! なに、鮫島くんの練習見に来てたのー?」
「オーディションにも来てたよね?」
ライブハウスの時のデジャブかよ。ま。質の悪いナンパよりはずっとマシだけど。
練習が始まる前、部長からオーディションの結果が発表される。ざわつく空気の中で、名前が呼ばれて。隆也のバンドも、合格だった。
「隆也、おめでと……」
「隆也クン! オーディション合格ほんますごいわ、やったなあ!」
「これ、良かったら食べて?」
鳴海が差し出したお菓子を、隆也が受け取る。笑いながら、当たり前みたいにやり取りしてる。
好意をあんなに素直に向けられるなんて。その距離の近さに、胸の奥がざわついた。
「隆也、おめでとう。やったな」
「ありがとう」
安心したような顔。練習していたのを知っているから、俺も嬉しい。
「なあ、隆也クン。あのバンド、新曲出たん知ってる? 今レコードショップでフェアやってるんよ。この後一緒に行かへん?」
「だ、だったら俺も……」
「無理せんでええよ。樹クンは女子たちと話すのが楽しそうみたいやし」
何だよ、その言い方。胸がずきんと痛む。
「じゃ、スタバも行こ。ボク、期間限定のシェイク飲みたいねん」
「またな、樹」
「……分かったよ」
隆也がどんな顔をしているのか見られなかった。
でも、俺は天宮樹。このくらいでへこたれる男じゃない。
二人とは逆方向に帰る振りをして、Uターンでついていく。
尾行するなんて俺らしくないけど、足は止められなかった。
ブレザーが入った鞄を持って、心の声が聞こえる距離を保ちながら、二人にバレないようについていった。
ショッピングモールのレコードショップに立ち寄る二人。
「え、ほんま!? ボクもこのバンド好きやねん」
「ベースラインがいいよな」
……なんだよ、隆也も普通に楽しそうじゃねえか。
ついこの間、隆也にイヤホンを貸してもらって一緒に音楽を聴いたことを思い出す。あの時の俺と隆也が、今の鳴海と隆也に重なって。
「……隆也が誰にでも優しいなんて、今に始まったことじゃねえし」
自分に言い聞かせるみたいに呟く。
フードコートはエアコンが効いていて、ブレザーを着ても何とか暑さには我慢できそうだった。
スタバから出てきた二人はトレイを持って、席を探している。俺は二人の死角になる席を見つけ、柱の陰から背中を見つめる。会話は、ギリギリ聞こえる距離。
「くそ、でもこれじゃ遠すぎるか…」
(シェイク、甘そうだな)
聞こえた。隆也の心の声。
ブレザーが見えないように、ウインドブレーカーのフードを被ってマスクもつける。通りがかった親子に白い目で見られた気がするが、気にしている余裕はない。
「隆也クン、改めてなんやけど。今日はデートしてくれてありがとうー」
「……これがデートなのか分かんねえけど」
「デートやで、ボクにとっては。好きな人と一緒におられるんやもん」
(……好きな人、か)
隆也の声。思わず、指に力が入る。
「……鳴海はさ。俺のどこが好きなの?」
「えー、聞きたい?」
もったいぶったように、ストローから口を離す。
「この前も言ったけど、まず顔やろ。ボクのタイプど真ん中。それに、ベースもかっこよかったしーー」
隆也は眉ひとつ動かさずに聞いている。
「あとは、優しいところ」
「……?」
まだ出会って少ししか一緒にいないのに、どうして分かるんだよ。隆也も俺と同じことを思ったのか、不思議そうな顔をしている。
「だってさ、こうやってボクと会ってくれてるやん。優しい証拠やで」
そうだ。隆也は、いつでも優しい。
「……自信がないだけだ」
隆也が、ぽつりと呟く。
(本当に好きなやつには、気持ちを伝える勇気もない)
好きなやつ、という言葉に心臓が跳ねる。
「ええやん、人間くさくて。自信なんてみんなないやろ」
「……」
「ボクも怖いよ? 今こうやって話してるのも。せやけど、言わないと伝わらんこともあるやろ」
「……」
鳴海の言葉が胸に刺さる。隆也の台詞も、俺には衝撃的だった。
自信がない、なんて。隆也の口から初めて聞いた言葉に、戸惑いが隠せない。
だけどそれ以上に、良い雰囲気になっている二人にソワソワした。
フードコートの一角。そこだけ切り取られたように二人の世界になっている。
「……帰るか」
これ以上二人を見ているのは辛かった。
フードコートを抜けて、外に出る。夕方の空気が、やけに冷たい。
「……何やってんだ、俺」
ぽつりと呟く。隆也の声が、頭から離れない。
『本当に好きなやつには、気持ちを伝える勇気もない』
「……好きなやつ、ね」
あいつが、そんなこと思ってるなんて知らなかった。
いつも余裕そうで、誰にでも優しくて。
「……なんだよ、それ」
胸の奥が、じわっと熱くなる。
――じゃあ、その“好きなやつ”って誰だよ。
「俺じゃ、なかったのかよ」
考えた瞬間、すぐに打ち消す。
「……関係ねえだろ」
強めに言い聞かせるみたいに呟いて、ポケットに手を突っ込む。
関係ない。俺には。
……ほんとに? 足が止まる。
さっきのフードコートでの光景が、また浮かぶ。
向かい合って笑う二人。
『言わないと伝わらんこともあるやろ』
鳴海の声まで、やけに鮮明に残っている。
「……うるせえ」
誰に向けたのかも分からないまま、吐き捨てた。
そんなの、分かってる。分かってるけど。
自分から気持ちを伝えたって、いいことなんてなかった。
言って、傷ついて。何かを失って。……だから、やめたはずだ。
誰にでも優しくしていれば、何も壊れない。そうやって、やってきた。
なのに。なんで今さら、こんなこと考えてるんだよ。
……俺は、まだ。
あの時のまま、止まってる。
