俺の幼馴染(男)が俺のこと大好きなのに、告白してこない。

 俺のこと好きだって人間は、なんとなく分かる。
 まず目が違う。俺のこと見てるんだろうなーっていう、熱い視線。話してる時は目が合わないのに、視線をそらすとすぐこっちを見る。
 すぐ赤くなるし、少し言葉を交わしただけで照れたように俯く。そんなのもう、俺のことが好きですって言ってるようなもんだ。
 それに、声も高くなる。緊張してるのがバレバレのうわずった声。とって食ったりしないんだから、そんなに緊張しなくてもいいのにと思ってしまう。
 ――なんでそんなことが分かるかって? シンプルに言えば、俺はモテるから。

 中庭は、普段生徒が立ち入らないけど、告白スポットで有名だ。入学してから、来るのはこれで七度目になる。
 
「あ、天宮くん。来てくれてありがとう」
 花井さんは、緊張したように笑った。
 人の良さそうなたれ目に、小さく整った口元。柔らかい雰囲気の、可愛い子だ。
「ううん。えっと……6組の花井さんだよね。それで、俺に話って?」
 なんて聞くけど、朝、下駄箱に入っていた手紙を見た時点で、内容なんて聞かなくても分かっていた。

 花井さんは顔を赤くして俯いていたが、意を決したように顔を上げる。
「……あのね、天宮くん」
 来た。こういう時の声は、みんな同じだ。

「体育祭の時に天宮くんを見て、かっこいいなって思って……よかったら、付き合ってください」
「……伝えてくれてありがとう」
 
少しだけ間を置いてから、いつもの言葉を口にする。
「でも俺、今誰とも付き合う気ないんだ。ごめん」
 準備していた台詞を口にして、俺は軽く頭を下げる。慣れた動作だ。

「……そっか」
 花井さんは、泣きそうな声で笑った。
「やっぱり、そうなんだね」
 そう言って、振り返らずに去っていく。
 この台詞は、たぶん誰かから聞いたんだろう。俺が、誰に対しても同じことを言っているって。

 俺は天宮樹。高校二年。
 自分で言うのはなんだが、顔はいいほうだと思う。
 生まれつきこげ茶色の髪の毛は毎朝セットしてるし、制服も校則違反にならない程度に着崩している。
 そのおかげか、告白されることも多い。
 告白してきた相手を振る時は、少しだけ申し訳ない気持ちにはなる。だけどそれ以上に、また一つ、自分が認められた気がして――嬉しい気持ちのほうが大きい。

 中学の時は告白をオッケーして、何人かと付き合ったこともある。
 だけど告白された時以上のドキドキは、結局一度も味わえなくて。気が付けば、長くは続かなかった。
 その時繰り返しの末に、分かった。俺は別に、彼女がほしいわけじゃない。
 ――ただ、告白されたいだけなんだって。

 昼休みの学校は騒がしい。
 花井さんを見送った後、屋上に上がる。
「よお色男~」
 肩に腕を回してきたのは榊原。明るく染めた髪の毛に銀色のピアス。見るからにチャラそうだが、頭頂部はプリンになっている。
「まーた告られたんだって? ここまで来るとすげえよな、女子も」
 どこから情報を入手したのか、俺が告白されるたびこうしていじってくる。
「よくやるよなー、樹も。告られたいだけのくせにさあ」
「うっせ。榊原だってそうだろ」
「当たり前だろー! 女子に告られるなんて男のロマンだぜロマン!」
「樹に振られるんじゃ恥ずかしくないから、みんな言いふらして噂になるんだよ」
 スマホから目をそらさずに言うのは小野田。黒縁メガネが絶妙に似合っている。
「また断ったの? 誰とも付き合うつもりないわけ?」
「……付き合うつもりが全くないわけではないけど。告白されるほうが嬉しいかな、やっぱ」
 榊原も小野田も、驚いたように目を見開く。
「はあ~?さすが、モテる男は言うことが違いますなあ!」
 榊原は、見た目は悪くないのに、女子をエロい目で見ていることがバレバレでモテない。
 小野田も顔は整ってるのに、当の本人は現実の女子に興味がない。

「俺も告白されてえ~!!高二の夏だぞ!?俺の青春どこだよ!」
 榊原が叫ぶと、小野田がぼそっと呟く。

「そんなにいいか? 俺は嫁一筋だからな」
「出たゲームオタク。二次元キャラは嫁とは言わねんだよ!」
「うっわ、遅れてる。今時はAIと結婚する時代だぞ」

 小野田も榊原も、自然体でいられる大事な友達だ。俺がモテるからって僻んだりしない。ちょうどいい距離感で接していられる。
 二人のくだらないやりとりに笑っていると、突然、頬に冷たい感触がした。
「つめてっ!」
 振り向くと、無表情の隆也が立っていた。
「……樹、これ好きだろ。購買のそばの自販機にあった」
 頬っぺたに押し付けられたのは、水色のラベルが貼ってあるペットボトル。俺の好きな炭酸ジュース。
「おお、サンキュ」
 受け取ってキャップを開ける。
 こいつは鮫島隆也。小学校の時からの腐れ縁で、俺と同じマンションの別の階に住んでいる。

「そうだ、樹。今日部活ないけど、うち来る?」
 隆也の両親は離婚していて、母親と二人暮らし。専業主婦のうちの母さんと、女手一つで息子を育てる隆也母はなぜか気が合うらしく、小さい頃からよく互いの家を行き来している。
「おー、久しぶりに行こっかな」
 ――そういや、隆也の恋愛話って聞かないよな……。
 甘い炭酸を飲みながら、隆也の横顔を見つめる。
 幼馴染の引け目なしでも、整った顔立ちをしていると思う。切れ長の目にきりっとした眉毛。鼻筋は通っていて、頬骨は男らしい。
 背は高いし、中学まで野球部だっただけあって筋肉質だ。普通にモテるはずなのに、そういう噂はほとんど聞かない。
 無口で無愛想だけど、冷たいわけじゃない。むしろ誰よりも優しいことを俺は知ってる。

 俺なんかより、ずっと――。
 あーあ、ほんと見る目ねえよな女子って。
 そんなこと、絶対言わないけど。俺が学校一のモテ男じゃなくなったら嫌だし。
 俺は心の中で、人生で告白された回数をひとつ増やした。