山岸は
パンシール騒動ですっかりメンタルを削られたらしい。
「放課後、絶対パン買う」
「スマホケースに貼れば俺にもモテ期が……」
とブツブツ呪文のように唱えながら
おとなしく自分の席に戻っていった。
ようやく静かになった。
心臓のバクつきを抑えるように、
机に突っ伏して意識を深い闇へと沈めようとしたその時だ。
「宇佐見くん、ちょっといい?」
……今度は何だよ。
思わず舌打ちしそうになるのを、奥歯で噛み殺す。
眠気と
さっきから収まらない動悸のせいで、イライラしていた。
顔を上げると、
そこには知らない女子生徒が立っていた。
上履きは僕と同じ青色だから、たぶん同学年。
一度でも言葉を交わした記憶があるかすら怪しい。
ていうかたぶん、ない。
「なに」
僕は立ち上がり、億劫な足取りで廊下に出た。
できるだけ手短に終わらせたい。
壁に背を預け、冷めた視線で彼女を見る。
「えっと……好きです。付き合ってください」
テンプレみたいな言葉だった。
彼女は頬を赤らめて俯いているが
僕の胸には一ミリの振動も起きない。
「かっこいいから……ずっと見てました。本当に好きです」
……まただ。
顔だけ見て、好きとかよく言えるな。
顔。
結局、みんなそこから入ってくる。
僕がどんな性格で、
何が好きで、
何に興味がないかなんてどうでもいいんだ。
ただ、
配置された目や鼻の造形が「タイプだった」
というだけの話。
もう何回目かも覚えてないほど聞き飽きた理由。
正直、意味がわからない。
僕は大した顔をしているわけでもないし、
目立つ行動もしていない。
ただ静かに寝ていたいだけなのに、
どうして知らない奴が勝手に「好き」
という重い感情をぶつけてくるのか。
誰かと間違えているんじゃないかとさえ思う。
「ごめん。無理」
それだけ言って、踵を返す。
「理由、聞いてもいい?」
教室に入る直前で、すがるような声が背中に刺さる。
足を止めるのも面倒だったけど
一応振り返る。
「知らないやつと付き合う理由がない」
それだけ言って、教室に戻った。
自分の席に座ろうとしたら糸井が話しかけてきた。
「今の、告白?」
さっきまで前を向いてたはずなのに
いつの間にか僕の方を向いて待っていた。
「うん」
「断ったの?」
「当たり前」
吐き捨てるように答えた瞬間だった。
糸井の端正な唇の端が
ほんの数ミリだけ上を向いた。
一瞬
本当に一瞬。
すぐにいつもの余裕たっぷりな王子様スマイルに戻ったけれど
糸井は明らかに安堵していた。
「そっか」
糸井は少し間を置いて、僕の反応を確かめるように言葉を継ぐ。
「じゃあ、まだ空いてるんだ」
「……は?」
「宇佐見の隣。まだ誰のものでもないってことでしょ」
さらりと、心臓に悪いことを言う。
「モテるね、宇佐見は」
モテるのは、お前だろ。
心の中でだけ毒づきながら、僕は再び机に突っ伏した。
あんな風に、中身も見ずに寄ってくるやつらばかりだ。
それのどこが「モテる」だというのか。
ただの事故みたいなものだ。
……しかも、
それが糸井みたいなイケメンならわかるけど
なんで僕なのかもわからない。
けれど、
前を向く直前に見えた糸井の横顔は
さっきまでの女子に囲まれていた時よりも
ずっと柔らかく、
どこか満足げに見えた。
……あいつの「モテ」の基準も
僕にはさっぱりわからない。
ただ、あいつに「まだ誰のものでもない」と言われた時
さっきまでとは違う種類の熱が、僕の体温をじわりと上げた。
パンシール騒動ですっかりメンタルを削られたらしい。
「放課後、絶対パン買う」
「スマホケースに貼れば俺にもモテ期が……」
とブツブツ呪文のように唱えながら
おとなしく自分の席に戻っていった。
ようやく静かになった。
心臓のバクつきを抑えるように、
机に突っ伏して意識を深い闇へと沈めようとしたその時だ。
「宇佐見くん、ちょっといい?」
……今度は何だよ。
思わず舌打ちしそうになるのを、奥歯で噛み殺す。
眠気と
さっきから収まらない動悸のせいで、イライラしていた。
顔を上げると、
そこには知らない女子生徒が立っていた。
上履きは僕と同じ青色だから、たぶん同学年。
一度でも言葉を交わした記憶があるかすら怪しい。
ていうかたぶん、ない。
「なに」
僕は立ち上がり、億劫な足取りで廊下に出た。
できるだけ手短に終わらせたい。
壁に背を預け、冷めた視線で彼女を見る。
「えっと……好きです。付き合ってください」
テンプレみたいな言葉だった。
彼女は頬を赤らめて俯いているが
僕の胸には一ミリの振動も起きない。
「かっこいいから……ずっと見てました。本当に好きです」
……まただ。
顔だけ見て、好きとかよく言えるな。
顔。
結局、みんなそこから入ってくる。
僕がどんな性格で、
何が好きで、
何に興味がないかなんてどうでもいいんだ。
ただ、
配置された目や鼻の造形が「タイプだった」
というだけの話。
もう何回目かも覚えてないほど聞き飽きた理由。
正直、意味がわからない。
僕は大した顔をしているわけでもないし、
目立つ行動もしていない。
ただ静かに寝ていたいだけなのに、
どうして知らない奴が勝手に「好き」
という重い感情をぶつけてくるのか。
誰かと間違えているんじゃないかとさえ思う。
「ごめん。無理」
それだけ言って、踵を返す。
「理由、聞いてもいい?」
教室に入る直前で、すがるような声が背中に刺さる。
足を止めるのも面倒だったけど
一応振り返る。
「知らないやつと付き合う理由がない」
それだけ言って、教室に戻った。
自分の席に座ろうとしたら糸井が話しかけてきた。
「今の、告白?」
さっきまで前を向いてたはずなのに
いつの間にか僕の方を向いて待っていた。
「うん」
「断ったの?」
「当たり前」
吐き捨てるように答えた瞬間だった。
糸井の端正な唇の端が
ほんの数ミリだけ上を向いた。
一瞬
本当に一瞬。
すぐにいつもの余裕たっぷりな王子様スマイルに戻ったけれど
糸井は明らかに安堵していた。
「そっか」
糸井は少し間を置いて、僕の反応を確かめるように言葉を継ぐ。
「じゃあ、まだ空いてるんだ」
「……は?」
「宇佐見の隣。まだ誰のものでもないってことでしょ」
さらりと、心臓に悪いことを言う。
「モテるね、宇佐見は」
モテるのは、お前だろ。
心の中でだけ毒づきながら、僕は再び机に突っ伏した。
あんな風に、中身も見ずに寄ってくるやつらばかりだ。
それのどこが「モテる」だというのか。
ただの事故みたいなものだ。
……しかも、
それが糸井みたいなイケメンならわかるけど
なんで僕なのかもわからない。
けれど、
前を向く直前に見えた糸井の横顔は
さっきまでの女子に囲まれていた時よりも
ずっと柔らかく、
どこか満足げに見えた。
……あいつの「モテ」の基準も
僕にはさっぱりわからない。
ただ、あいつに「まだ誰のものでもない」と言われた時
さっきまでとは違う種類の熱が、僕の体温をじわりと上げた。
