その日は土曜日だった。
学校が休みの日、僕はいつも通り朝からバイトを入れていた。
その日はシフトを午前中だけにしていたから、昼から予定が空いていた。だから本当は、糸井とどこかに出かけたかった。でも、誘おうとしたら「その日はちょっと用事があるんだ」と、あいつにしては珍しく断られたのだ。
寂しくないと言えば嘘になるけれど、糸井にだって自分の時間は必要だろう。
そう自分に言い聞かせながら、僕は少しだけ重い足取りでバイト先のファミレスのバックヤードに入った。
「おはようございます……」
店長に、今日のシフトを夕方まで伸ばしてもらおうとしたその時。
「おー、宇佐見くん。ちょうど良かった。今日から入る新人君、紹介するよ」
店長が手招きする。
新人?
これで少しは人手不足解消か、なんて思いながら顔を上げた僕は、そのまま固まった。
「……は?」
そこに立っていたのは、見慣れた、そして今一番会いたかった男。
この店の制服を、驚くほどモデルみたいに着こなした糸井が、余裕たっぷりの笑みを浮かべて立っていたのだ。
「サプライズ。今日からよろしくね、……先輩」
糸井は悪戯が成功した子供のような顔で、ピースサインをしてみせた。
「な、……んで。お前、今日用事あるって……」
「そう。今日からここで働くっていう、すごく大事な用事」
店長が離れた隙に、糸井は僕の肩を抱き寄せる。
混乱する僕をよそに、糸井は「宇佐見と一緒にいたいから」と、恥ずかしげもなく理由を並べ立てた。
「だって、ここ人手不足なんだろ?俺が入れば宇佐見の負担も減るし、一緒にいられるし、一石二鳥じゃん」
「お前、そんな理由で……」
「それにさ……」
糸井の瞳からふざけた色が消え、あの夜のような真剣な光が宿る。
「今はまだ完全には無理だけど、養うって言っただろ。宇佐見が壊れるのは嫌なんだ。また無理して体調悪くされたら困るから。
……だからこれからは、一番近くで『監視』させてもらいまーす」
最後はまた、茶化すように笑う。
ずるい。
そんな風に言われたら、僕だって「勝手なことすんな」なんて怒れるはずがない。
あの日言った「養う」という言葉は本気だったんだ。
僕のことを、そこまで本気で守ろうとしてくれている。そのかっこよさに、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「……監視とか、性格悪い」
「えー、宇佐見のために精一杯尽くしてるつもりなんだけどな」
そんな甘いやり取りを始めた矢先、自動ドアが開いて、聞き慣れた
――そして、一番来てほしくない騒がしい声が店内に響き渡った。
学校が休みの日、僕はいつも通り朝からバイトを入れていた。
その日はシフトを午前中だけにしていたから、昼から予定が空いていた。だから本当は、糸井とどこかに出かけたかった。でも、誘おうとしたら「その日はちょっと用事があるんだ」と、あいつにしては珍しく断られたのだ。
寂しくないと言えば嘘になるけれど、糸井にだって自分の時間は必要だろう。
そう自分に言い聞かせながら、僕は少しだけ重い足取りでバイト先のファミレスのバックヤードに入った。
「おはようございます……」
店長に、今日のシフトを夕方まで伸ばしてもらおうとしたその時。
「おー、宇佐見くん。ちょうど良かった。今日から入る新人君、紹介するよ」
店長が手招きする。
新人?
これで少しは人手不足解消か、なんて思いながら顔を上げた僕は、そのまま固まった。
「……は?」
そこに立っていたのは、見慣れた、そして今一番会いたかった男。
この店の制服を、驚くほどモデルみたいに着こなした糸井が、余裕たっぷりの笑みを浮かべて立っていたのだ。
「サプライズ。今日からよろしくね、……先輩」
糸井は悪戯が成功した子供のような顔で、ピースサインをしてみせた。
「な、……んで。お前、今日用事あるって……」
「そう。今日からここで働くっていう、すごく大事な用事」
店長が離れた隙に、糸井は僕の肩を抱き寄せる。
混乱する僕をよそに、糸井は「宇佐見と一緒にいたいから」と、恥ずかしげもなく理由を並べ立てた。
「だって、ここ人手不足なんだろ?俺が入れば宇佐見の負担も減るし、一緒にいられるし、一石二鳥じゃん」
「お前、そんな理由で……」
「それにさ……」
糸井の瞳からふざけた色が消え、あの夜のような真剣な光が宿る。
「今はまだ完全には無理だけど、養うって言っただろ。宇佐見が壊れるのは嫌なんだ。また無理して体調悪くされたら困るから。
……だからこれからは、一番近くで『監視』させてもらいまーす」
最後はまた、茶化すように笑う。
ずるい。
そんな風に言われたら、僕だって「勝手なことすんな」なんて怒れるはずがない。
あの日言った「養う」という言葉は本気だったんだ。
僕のことを、そこまで本気で守ろうとしてくれている。そのかっこよさに、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「……監視とか、性格悪い」
「えー、宇佐見のために精一杯尽くしてるつもりなんだけどな」
そんな甘いやり取りを始めた矢先、自動ドアが開いて、聞き慣れた
――そして、一番来てほしくない騒がしい声が店内に響き渡った。

