「今日も勉強見てくれてありがとうね!」
いつものように二人で勉強をして、俺は昨夜からずっと考えていたセリフを言った。
「葛城、お腹空いてないか?」
「ん? もう夕方だから、ちょっとお腹空いたね」
「それじゃ、ファミレスに行かないか?」
葛城はしばし黙って俺の顔をじっと見た。
「……神乃くんがファミレスに行くの?」
俺がというか、葛城と行きたいのだが? そう思いながらも俺はひとまず頷いた。
しかし、葛城は眉間に皺を寄せて怪訝な表情となった。
「どうしたの? もしかして、何かの罰ゲームをやらされてるの? 特進クラスでもいじめみたいなのがあるの?」
「違うけど?」
「それじゃ、どうしてファミレスになんて……」
どうやら、葛城の中では俺は絶対にファミレスに行かない人種のようだ。
確かに、行ったこともないし、これまでは行こうと思ったこともないけど。
「葛城とまたどこかに行きたいからだよ!」
結局、本音を伝えることになってしまった。
「……僕と?」
葛城がその目を丸くして俺を凝視してくる。
「そう。葛城と……この前、普通じゃない本屋に行ったの、楽しかったし」
俺の顔を凝視しながらしばし何かを考えている様子の葛城がポンっと手を打った。
「もしかして、神乃くんって友達とあんまり寄り道したことない?」
「あんまりというか、あれが初めてだった…」
幼稚園から今日まで、ずっとリムジンでの送り迎えだ。
休日に買い物に行くことはあっても、放課後にわざわざリムジンでどこかに行くことはしない。
駐車場を探すのも一苦労だから。
「そっか! 特進クラスの神乃くんのお友達たちとはどこかに行ってると思ってたけど、みんな塾とか習い事で忙しいのかな?」
確かに、特進クラスのクラスメイトには塾などで放課後も忙しい者たちもいるけれど、俺の友達は割と自由で、そういうものに縛られてはいないと思う。
だが、今は葛城の誤解を解くことは後回しでいいだろう。
とにかく、葛城が俺と一緒にどこかに行ってくれる気があるのかどうかが重要だった。
「……また、一緒に出かけてくれる?」
「それは別にいいけど、やっぱり神乃くんにはファミレスは似合わないと思う。目立つし」
「すごく目立つし」と葛城はなぜか同じ言葉を繰り返した。
そんなに俺は目立つのだろうか? 学校の中では廊下に出れば女子たちに囲まれることは多いけれど、街で囲まれることはないし、大丈夫だと思うのだが?
「行くところは僕が選んでもいい?」
どうやら、葛城は別に俺と出かけるのが嫌というわけではないようだ。
ひとまず俺は安心して頷いた。
「もちろん、いいよ」
しかし、その日はなかなか訪れなかった。
数日待ち、勉強している時にいつどこに行くのか聞いてみようとしたが、忍耐がないと思われるのは嫌で我慢し、一週間経ち、やはり自分から聞こうかと思ったが、やっぱり行きたくないとか言われたらどうしようと思ってやはり我慢し、しかし、もともと我慢強いたちでもないというか、これまでの人生の中で我慢をそれほど必要としない環境で育ったために、十日目にしてつい自分から聞いてしまった。
「葛城、俺と出かける約束、覚えてる!?」
「ちゃんと覚えてるよ。今日、今月のお小遣いがもらえたから、土曜日に水族館に行かない?」
その葛城の言葉で気づいた。
今日から11月だ……つまり、葛城は新しい月に入り、新たにお小遣いをもらえる日を待っていたのだ。
好きな人の財布事情を全く考慮できていないことを俺は改めて反省した。
「特進クラスは土曜日も授業があるから、放課後一緒に出かけるっていうことになるよね?」
あまり葛城を煩わせないように、放課後にお茶にでも行こうということにしていたのだが、水族館でもいいのか? もしかして、別に、放課後という枠じゃなくてもいいのか?
「葛城! 出かけるの、日曜日でもいい?」
「あ、次の土曜日は予定あった? 来週とかにする?」
「日曜日でもいい!?」
休日に会えるなら会いたい! できるだけ長く葛城と一緒にいたい!
「僕は別にいいけど、神乃くんは忙しくないの?」
「忙しくない! 暇! すごく暇してる!!」
たとえ予定があっても、葛城と出かけることのほうが大切だ! 時間は長ければ長いほどいい!!
土曜日に遊びに行ってもいいってことは、六時間くらいは俺と一緒にいても問題ないってことだよな? それなら、日曜日に九時間くらい一緒にいるのもいいよな?
九時間って大人が仕事しているのと同じくらいの時間か? いや、父さんはもっと働いているみたいだけど、一般的な大人なら九時間くらいか?
それって好きな人と同じ会社にいたら、毎日九時間も一緒に同じ空間にいられるってことか?
大人すごいな! 俺も葛城と同じところに勤めたい……
あれ? それって、葛城が特進クラスに来ればいいんじゃないか?
社会人にならなくても割とすぐに一緒にいられるんじゃないだろうか?
「葛城ってどうして特進クラスじゃないの? 俺と一緒に勉強する前から頭よかったよね?」
凡ミスはするけど、基本的に葛城は頭がいいのだ。
頭が良すぎて思考の段階をすっ飛ばすから凡ミスをしているのだ。
俺の質問に葛城は眉尻を下げて、少し言いにくそうに言った。
「この学校って私立だから学費高いでしょ? さらに特進クラスって普通科クラスよりももっと学費が高いから、うちじゃ無理かな」
またお金の問題か!
俺が葛城になかなか誘ってもらえなかったのも! 学校でずっと一緒にいられないのも! お金の問題か!
この社会を作っている大人たちは金の亡者なのか!? 俺の恋のために、お茶も水族館も授業料も無料でいいだろう!!!
いや、それだと、親のお金でBL漫画の主人公ポジションに収まっている俺の強みがなくなっちゃうからダメだ!!
眉目秀麗なのは遺伝子の問題だろうけれど、文武両道なのはうちがお金持ちで両親が惜しみなく俺にお金を使ってくれたおかげだ!
我が家の経済基盤無くしては、葛城は俺にBL漫画の主人公になれるという価値を見出してはくれなかったかもしれない!
となると、この社会のルールをぶち壊すよりは、他の手段で葛城に特進クラスに来てもらうしかない……
「特待生を目指すのはどうだろう?」
「特待生?」
俺の唐突な言葉に葛城は首を傾げた。
そこで俺ははたと気づいた。俺は葛城のことが好きだから一緒にいたい。
つまり、葛城だって好きな人のそばに……日向のそばにいたいだろう。
それなら、特待生になって特進クラスに行きたいとは思わないかもしれない。
「ごめん。余計なこと言ったよな……」
そう謝ると、葛城は首を横に振った。
「んーん。確かに、特待生の試験を受けてみるのもいいかもしれない」
「そうか?」
「うん。僕もできるだけいい公立大学に行きたいしね」
「そっか……」
「至ちゃんはきっと語学は苦手だろうから、僕が通訳になったほうが世界で活躍する時に役に立ちそうだし」
「……」
思わず、歯軋りをしそうになった。歯軋りをしそうになるなんて初めてだ。
落ち着け……と、俺は自分に言い聞かせる。
「特待生を目指すなら、もうそろそろ申請の時期だから、先生に相談しておいたほうがいいよ。それに、俺も協力するから、勉強、頑張ろう」
「ありがとう」と葛城は微笑んだ。
「日曜日の水族館、楽しみにしてるな」
「うん。僕も水族館久しぶりだから楽しみ」
「ところで、どうして水族館なんだ?」
葛城も行くのが久しぶりというなら、水族館が特別好きというわけではないのだろう。
「水族館なら薄暗いからね」
「……もしかして、俺が目立たないように?」
はははっと葛城は笑った。
まるで誤魔化すように。下手な笑い方だった。
「そんなに目立つかな?」
「いつも全女子の視線が釘付けになってるのに気づかないの?」
全女子は言い過ぎだろう。
いつものように二人で勉強をして、俺は昨夜からずっと考えていたセリフを言った。
「葛城、お腹空いてないか?」
「ん? もう夕方だから、ちょっとお腹空いたね」
「それじゃ、ファミレスに行かないか?」
葛城はしばし黙って俺の顔をじっと見た。
「……神乃くんがファミレスに行くの?」
俺がというか、葛城と行きたいのだが? そう思いながらも俺はひとまず頷いた。
しかし、葛城は眉間に皺を寄せて怪訝な表情となった。
「どうしたの? もしかして、何かの罰ゲームをやらされてるの? 特進クラスでもいじめみたいなのがあるの?」
「違うけど?」
「それじゃ、どうしてファミレスになんて……」
どうやら、葛城の中では俺は絶対にファミレスに行かない人種のようだ。
確かに、行ったこともないし、これまでは行こうと思ったこともないけど。
「葛城とまたどこかに行きたいからだよ!」
結局、本音を伝えることになってしまった。
「……僕と?」
葛城がその目を丸くして俺を凝視してくる。
「そう。葛城と……この前、普通じゃない本屋に行ったの、楽しかったし」
俺の顔を凝視しながらしばし何かを考えている様子の葛城がポンっと手を打った。
「もしかして、神乃くんって友達とあんまり寄り道したことない?」
「あんまりというか、あれが初めてだった…」
幼稚園から今日まで、ずっとリムジンでの送り迎えだ。
休日に買い物に行くことはあっても、放課後にわざわざリムジンでどこかに行くことはしない。
駐車場を探すのも一苦労だから。
「そっか! 特進クラスの神乃くんのお友達たちとはどこかに行ってると思ってたけど、みんな塾とか習い事で忙しいのかな?」
確かに、特進クラスのクラスメイトには塾などで放課後も忙しい者たちもいるけれど、俺の友達は割と自由で、そういうものに縛られてはいないと思う。
だが、今は葛城の誤解を解くことは後回しでいいだろう。
とにかく、葛城が俺と一緒にどこかに行ってくれる気があるのかどうかが重要だった。
「……また、一緒に出かけてくれる?」
「それは別にいいけど、やっぱり神乃くんにはファミレスは似合わないと思う。目立つし」
「すごく目立つし」と葛城はなぜか同じ言葉を繰り返した。
そんなに俺は目立つのだろうか? 学校の中では廊下に出れば女子たちに囲まれることは多いけれど、街で囲まれることはないし、大丈夫だと思うのだが?
「行くところは僕が選んでもいい?」
どうやら、葛城は別に俺と出かけるのが嫌というわけではないようだ。
ひとまず俺は安心して頷いた。
「もちろん、いいよ」
しかし、その日はなかなか訪れなかった。
数日待ち、勉強している時にいつどこに行くのか聞いてみようとしたが、忍耐がないと思われるのは嫌で我慢し、一週間経ち、やはり自分から聞こうかと思ったが、やっぱり行きたくないとか言われたらどうしようと思ってやはり我慢し、しかし、もともと我慢強いたちでもないというか、これまでの人生の中で我慢をそれほど必要としない環境で育ったために、十日目にしてつい自分から聞いてしまった。
「葛城、俺と出かける約束、覚えてる!?」
「ちゃんと覚えてるよ。今日、今月のお小遣いがもらえたから、土曜日に水族館に行かない?」
その葛城の言葉で気づいた。
今日から11月だ……つまり、葛城は新しい月に入り、新たにお小遣いをもらえる日を待っていたのだ。
好きな人の財布事情を全く考慮できていないことを俺は改めて反省した。
「特進クラスは土曜日も授業があるから、放課後一緒に出かけるっていうことになるよね?」
あまり葛城を煩わせないように、放課後にお茶にでも行こうということにしていたのだが、水族館でもいいのか? もしかして、別に、放課後という枠じゃなくてもいいのか?
「葛城! 出かけるの、日曜日でもいい?」
「あ、次の土曜日は予定あった? 来週とかにする?」
「日曜日でもいい!?」
休日に会えるなら会いたい! できるだけ長く葛城と一緒にいたい!
「僕は別にいいけど、神乃くんは忙しくないの?」
「忙しくない! 暇! すごく暇してる!!」
たとえ予定があっても、葛城と出かけることのほうが大切だ! 時間は長ければ長いほどいい!!
土曜日に遊びに行ってもいいってことは、六時間くらいは俺と一緒にいても問題ないってことだよな? それなら、日曜日に九時間くらい一緒にいるのもいいよな?
九時間って大人が仕事しているのと同じくらいの時間か? いや、父さんはもっと働いているみたいだけど、一般的な大人なら九時間くらいか?
それって好きな人と同じ会社にいたら、毎日九時間も一緒に同じ空間にいられるってことか?
大人すごいな! 俺も葛城と同じところに勤めたい……
あれ? それって、葛城が特進クラスに来ればいいんじゃないか?
社会人にならなくても割とすぐに一緒にいられるんじゃないだろうか?
「葛城ってどうして特進クラスじゃないの? 俺と一緒に勉強する前から頭よかったよね?」
凡ミスはするけど、基本的に葛城は頭がいいのだ。
頭が良すぎて思考の段階をすっ飛ばすから凡ミスをしているのだ。
俺の質問に葛城は眉尻を下げて、少し言いにくそうに言った。
「この学校って私立だから学費高いでしょ? さらに特進クラスって普通科クラスよりももっと学費が高いから、うちじゃ無理かな」
またお金の問題か!
俺が葛城になかなか誘ってもらえなかったのも! 学校でずっと一緒にいられないのも! お金の問題か!
この社会を作っている大人たちは金の亡者なのか!? 俺の恋のために、お茶も水族館も授業料も無料でいいだろう!!!
いや、それだと、親のお金でBL漫画の主人公ポジションに収まっている俺の強みがなくなっちゃうからダメだ!!
眉目秀麗なのは遺伝子の問題だろうけれど、文武両道なのはうちがお金持ちで両親が惜しみなく俺にお金を使ってくれたおかげだ!
我が家の経済基盤無くしては、葛城は俺にBL漫画の主人公になれるという価値を見出してはくれなかったかもしれない!
となると、この社会のルールをぶち壊すよりは、他の手段で葛城に特進クラスに来てもらうしかない……
「特待生を目指すのはどうだろう?」
「特待生?」
俺の唐突な言葉に葛城は首を傾げた。
そこで俺ははたと気づいた。俺は葛城のことが好きだから一緒にいたい。
つまり、葛城だって好きな人のそばに……日向のそばにいたいだろう。
それなら、特待生になって特進クラスに行きたいとは思わないかもしれない。
「ごめん。余計なこと言ったよな……」
そう謝ると、葛城は首を横に振った。
「んーん。確かに、特待生の試験を受けてみるのもいいかもしれない」
「そうか?」
「うん。僕もできるだけいい公立大学に行きたいしね」
「そっか……」
「至ちゃんはきっと語学は苦手だろうから、僕が通訳になったほうが世界で活躍する時に役に立ちそうだし」
「……」
思わず、歯軋りをしそうになった。歯軋りをしそうになるなんて初めてだ。
落ち着け……と、俺は自分に言い聞かせる。
「特待生を目指すなら、もうそろそろ申請の時期だから、先生に相談しておいたほうがいいよ。それに、俺も協力するから、勉強、頑張ろう」
「ありがとう」と葛城は微笑んだ。
「日曜日の水族館、楽しみにしてるな」
「うん。僕も水族館久しぶりだから楽しみ」
「ところで、どうして水族館なんだ?」
葛城も行くのが久しぶりというなら、水族館が特別好きというわけではないのだろう。
「水族館なら薄暗いからね」
「……もしかして、俺が目立たないように?」
はははっと葛城は笑った。
まるで誤魔化すように。下手な笑い方だった。
「そんなに目立つかな?」
「いつも全女子の視線が釘付けになってるのに気づかないの?」
全女子は言い過ぎだろう。
