星と握っている手は温かく、俺の心まで温めてくれるようだった。
しかし、日向の告白シーンを見たばかりの星はきっと傷ついているはずなので、俺が少しほんわかしていることは悟られるわけにはいかない。
星が傷つくのは嫌だなと思いながらも、日向に恋人ができてくれれば、俺の星への想いが報われる可能性が高くなるのではないかと考えてしまう。
そんな浅ましい自分に気づいてしまった。
「遥翔くん、そろそろ、手……」
文化祭の催しをしている教室の近くに来ると、星がそう言って、俺の手から自分の手を引き抜こうとした。
「心配してくれてありがとう」
どうやら、星は、俺が親切心で星の手を握っていたと思っているようだ。
それは違う。俺は、ただ、自分の欲望に忠実に行動しただけだ。
星に手を放されたことを寂しく思いながら生徒会室に向かう階段を登っていると、上から話しながら歩いてくる女生徒たちがいた。
どうやら、文化祭を満喫してくれているようだ。
しかし、先頭を歩く女生徒は話しに夢中になっているようで、顔を後ろの友達に向けた状態で階段を降りてくる。
これは生徒会長として注意するべきだろうかと考えていると、案の定、彼女は足を滑らせた。
俺は仕方なく彼女を受け止めた。別に彼女のためではない。彼女が落ちる先に星がいるからだ。
決して、体の正面で抱き止めないように注意して、かつ、決して、胸に腕が当たらないように、片腕だけで受け止める。
そして、すぐに体を離して、彼女の両肩を掴んでしっかりとその場に立たせる。助けたというよりは、作業に近い。
「階段では足元に気をつけて歩いてください」
一言注意してすぐにその場を離れる。
これで、勘違いはされないだろう。自惚れのようだが、こういう特に意味のないこうした接触でも好意を持たれることもあるし、最悪の場合、俺の方が相手を好きで守ってくれたと勘違いする者さえもいるのだ。
恋を求める青い春を謳歌中の女性の心理とは恐ろしい妄想を見せるから厄介だ。
「さっきの子、大丈夫かな……」
星がやけに小さな声で言った。
「大丈夫だろう。具合が悪い様子もなかったし、ただの注意散漫による事故だ」
「足を捻ったりもしてないかな……」
「星は優しいな」
「そんなことないよ」とそう笑った星の笑顔は、なんだかぎこちなかった。
生徒会室でPTAが用意してくれていたお弁当と三津谷と鴉間が買ってきていた屋台のたこ焼きやクレープなんかを食べて、俺たちは残りの文化祭も問題が起きていないか見守ったり、生徒たちの相談に乗ったりした。
文化祭は大盛況で非常に盛り上がったものの、生徒会メンバーは忙しく、星と過ごす時間は昼休憩後は全く取れなかった。
こうしたイベントはそれほど好きではないが、星と一緒に回ったのなら、きっと楽しかっただろうに。
夕方になり、屋台や教室などの片付けが終わったクラスからグラウンドに出て、後夜祭が行われる。
俺と鴉間、三津谷は後夜祭の準備を行なっていたが、星と松下さんの姿が見えなかった。
普通科クラスの星の友達が自分たちのクラスの片付けを終えてから手伝いに来てくれたので、俺は校内で二人を探す。
文化祭関連のポスターを剥がしていた松下さんのことはすぐに見つけたが、星と一緒ではなかった。
しかし、俺に気づいた松下さんはすぐに星の場所を教えてくれた。
「神乃くん、葛城くんが垂れ幕の回収に行ってるから、手伝いに行ってくれない?」
「わかった!」
俺は屋上へと急ぐ。小柄な星が垂れ幕の回収をするのは大変だろう。
屋上に着くと、すでに垂れ幕は引き上げられていた。
しかし、星はその垂れ幕をたたむこともなく、少しぼんやりしているようだ。
「星!」
「遥翔くん……」
なんだか、星に元気がない。
「どうした?」
「ちょっと、疲れちゃった」
その落ち込んだような様子はただ疲れただけのようには見えない。
「やっぱり、日向への告白シーンを見ちゃったのが辛かったのか?」
「それは本当に大丈夫。それよりも……」
言葉を途切れさせて俯いてしまった星の頬に触れて、その顔を上向かせると、星の瞳が揺らめている。
その瞳が熱を持って、俺に何かを訴えているような気がする。
「星……」
どうしてそんな瞳で俺を見つめるんだろう?
星が俺のことを好きなのだと勘違いしそうになる。
「ご、ごめん」
星はぎこちなく笑って、俺から顔を逸らした。
「早く片付けちゃうね!」
そう俺から離れようした星の手を俺は握る。
「遥翔くん、離して? 垂れ幕、片付けないと……」
「星、どうしてそんな顔をしているんだ? 日向のことが原因でないなら、何が星の心を傷つけたんだ?」
星の肩を掴んで再び正面に向かせると、星の瞳に涙が浮かんできた。
「僕もわからないんだよ……僕、至ちゃんのことが好きだと思ってたのに……」
星の涙から、星がひどく動揺しているのがわかる。
「至ちゃんが告白されているところを見ても、なんとも思わなかった……」
それは、俺にとっては朗報なのかもしれない。けれど、星が悲しんでいるのは辛い。
「そのことが泣くほど、ショックだったのか?」
しかし、それはむしろ、それだけ日向のことが気になっているということじゃないだろうか?
しかし、そうではないと星は首を横に振った。
「違う……僕、遥翔くんが、女の子に触れたのが嫌で……」
「……え?」
俺が、女の子に触れるのが嫌だった? それって、星が、俺のことを好きだと言っているように聞こえるのだが……いや、待て、その前に……
「俺、女子に触ったっけ?」
そんな場面、あっただろうか? 今日は文化祭で人が溢れていたから、人混みを抜ける時に接触くらいはしたかもしれないけれど、星の言い方だと、俺の方から触ったってことだよな?
「階段で落ちそうになった子を抱き止めたでしょう?」
その星の言葉で、階段での出来事を思い出した。
「あれは、あの子が階段から落ちたら星が怪我をすると思って咄嗟に……」
俺の言葉に星はしばし俺の顔を凝視し、それからその頬を真っ赤にした。
「僕のため……」
「星のためだし、星に怪我なんてしてほしくない俺のためだよ」
星の涙はぴたりと止まったようだった。
そして、今度は恥ずかしそうにその頬を赤く染めて、星は俺から顔を逸らした。
「ごめん。勘違いして……」
「勘違いして、嫉妬してくれたの?」
逸らされた星の顔を覗き込むと、その顔は真っ赤だった。
「星」
俺は星の顔を両手で包み込んで、俺の方を向かせる。星の頬は涙で濡れていた。その涙を指で拭う。
「俺のこと、好きになってくれたの?」
星は視線を合わせずに、小さな声で言う。
「ごめんね。迷惑だよね…」
そのごめんねは俺の言葉の肯定だ。
あまりの嬉しさに俺の胸はぎゅ~~~っと縮まったような気がする。心臓が痛い。
俺は自分の気持ちの全てを星にぶつけるように、星のことをぎゅ~~~っと抱きしめた。
「遥翔くん?」
「迷惑なんかじゃない! すっごく嬉しい!!」
「え?」
「俺も!! 俺も星のことが好き!!」
「……嘘……」
「嘘じゃない! ずっと前から好きだった! だから、今すごく嬉しい!!」
「う、嘘だよ……遥翔くんが、僕なんかを好きになるわけ……」
俺は星のことを抱きしめる腕に力を込めた。
「い、痛いよ!!」
「本当のことを言っているのに、それを認めてくれない星には罰として、しばらく俺の腕の中にいてもらう!」
「わかった! 認める! 認めるから離して!」
「嫌だ! これは俺へのお祝いでもあるから、絶対に離れない!」
「恥ずかしいから、離してよ!」
「今は誰も見てないだろう? 二人だけなのに恥ずかしがってたら、この先、何もできないじゃん! だから、抱きしめられることくらいにはさっさと慣れて!」
「な、何もって……」
見なくてもわかる。星の顔は今きっと、さっきよりも真っ赤だろう。
「俺はずっと、星のこと抱きしめたかったし、恋人繋ぎしたかったし、膝枕とか、とにかくもっとイチャイチャしたい!」
「わかったから! もう言わなくていいから!!」
俺の腕の中で星がバタバタしている。ああ。可愛い。
俺の腕の中に可愛い可愛い星がいる。
しかも、その可愛い可愛い星は俺のことが好きだと言う。
「ねぇ、星……」
「何?」
「俺、文化祭の最後に星としたいことがある」
「え?」
俺は星から少し体を離して、星の瞳を覗き込む。
そして、そっと顔を近づけると、星も何かを悟ったようにその頬を少し染めてから、その瞼を閉じた。
「大好きだよ。星」
俺は、星の唇に唇を重ねた。
しかし、日向の告白シーンを見たばかりの星はきっと傷ついているはずなので、俺が少しほんわかしていることは悟られるわけにはいかない。
星が傷つくのは嫌だなと思いながらも、日向に恋人ができてくれれば、俺の星への想いが報われる可能性が高くなるのではないかと考えてしまう。
そんな浅ましい自分に気づいてしまった。
「遥翔くん、そろそろ、手……」
文化祭の催しをしている教室の近くに来ると、星がそう言って、俺の手から自分の手を引き抜こうとした。
「心配してくれてありがとう」
どうやら、星は、俺が親切心で星の手を握っていたと思っているようだ。
それは違う。俺は、ただ、自分の欲望に忠実に行動しただけだ。
星に手を放されたことを寂しく思いながら生徒会室に向かう階段を登っていると、上から話しながら歩いてくる女生徒たちがいた。
どうやら、文化祭を満喫してくれているようだ。
しかし、先頭を歩く女生徒は話しに夢中になっているようで、顔を後ろの友達に向けた状態で階段を降りてくる。
これは生徒会長として注意するべきだろうかと考えていると、案の定、彼女は足を滑らせた。
俺は仕方なく彼女を受け止めた。別に彼女のためではない。彼女が落ちる先に星がいるからだ。
決して、体の正面で抱き止めないように注意して、かつ、決して、胸に腕が当たらないように、片腕だけで受け止める。
そして、すぐに体を離して、彼女の両肩を掴んでしっかりとその場に立たせる。助けたというよりは、作業に近い。
「階段では足元に気をつけて歩いてください」
一言注意してすぐにその場を離れる。
これで、勘違いはされないだろう。自惚れのようだが、こういう特に意味のないこうした接触でも好意を持たれることもあるし、最悪の場合、俺の方が相手を好きで守ってくれたと勘違いする者さえもいるのだ。
恋を求める青い春を謳歌中の女性の心理とは恐ろしい妄想を見せるから厄介だ。
「さっきの子、大丈夫かな……」
星がやけに小さな声で言った。
「大丈夫だろう。具合が悪い様子もなかったし、ただの注意散漫による事故だ」
「足を捻ったりもしてないかな……」
「星は優しいな」
「そんなことないよ」とそう笑った星の笑顔は、なんだかぎこちなかった。
生徒会室でPTAが用意してくれていたお弁当と三津谷と鴉間が買ってきていた屋台のたこ焼きやクレープなんかを食べて、俺たちは残りの文化祭も問題が起きていないか見守ったり、生徒たちの相談に乗ったりした。
文化祭は大盛況で非常に盛り上がったものの、生徒会メンバーは忙しく、星と過ごす時間は昼休憩後は全く取れなかった。
こうしたイベントはそれほど好きではないが、星と一緒に回ったのなら、きっと楽しかっただろうに。
夕方になり、屋台や教室などの片付けが終わったクラスからグラウンドに出て、後夜祭が行われる。
俺と鴉間、三津谷は後夜祭の準備を行なっていたが、星と松下さんの姿が見えなかった。
普通科クラスの星の友達が自分たちのクラスの片付けを終えてから手伝いに来てくれたので、俺は校内で二人を探す。
文化祭関連のポスターを剥がしていた松下さんのことはすぐに見つけたが、星と一緒ではなかった。
しかし、俺に気づいた松下さんはすぐに星の場所を教えてくれた。
「神乃くん、葛城くんが垂れ幕の回収に行ってるから、手伝いに行ってくれない?」
「わかった!」
俺は屋上へと急ぐ。小柄な星が垂れ幕の回収をするのは大変だろう。
屋上に着くと、すでに垂れ幕は引き上げられていた。
しかし、星はその垂れ幕をたたむこともなく、少しぼんやりしているようだ。
「星!」
「遥翔くん……」
なんだか、星に元気がない。
「どうした?」
「ちょっと、疲れちゃった」
その落ち込んだような様子はただ疲れただけのようには見えない。
「やっぱり、日向への告白シーンを見ちゃったのが辛かったのか?」
「それは本当に大丈夫。それよりも……」
言葉を途切れさせて俯いてしまった星の頬に触れて、その顔を上向かせると、星の瞳が揺らめている。
その瞳が熱を持って、俺に何かを訴えているような気がする。
「星……」
どうしてそんな瞳で俺を見つめるんだろう?
星が俺のことを好きなのだと勘違いしそうになる。
「ご、ごめん」
星はぎこちなく笑って、俺から顔を逸らした。
「早く片付けちゃうね!」
そう俺から離れようした星の手を俺は握る。
「遥翔くん、離して? 垂れ幕、片付けないと……」
「星、どうしてそんな顔をしているんだ? 日向のことが原因でないなら、何が星の心を傷つけたんだ?」
星の肩を掴んで再び正面に向かせると、星の瞳に涙が浮かんできた。
「僕もわからないんだよ……僕、至ちゃんのことが好きだと思ってたのに……」
星の涙から、星がひどく動揺しているのがわかる。
「至ちゃんが告白されているところを見ても、なんとも思わなかった……」
それは、俺にとっては朗報なのかもしれない。けれど、星が悲しんでいるのは辛い。
「そのことが泣くほど、ショックだったのか?」
しかし、それはむしろ、それだけ日向のことが気になっているということじゃないだろうか?
しかし、そうではないと星は首を横に振った。
「違う……僕、遥翔くんが、女の子に触れたのが嫌で……」
「……え?」
俺が、女の子に触れるのが嫌だった? それって、星が、俺のことを好きだと言っているように聞こえるのだが……いや、待て、その前に……
「俺、女子に触ったっけ?」
そんな場面、あっただろうか? 今日は文化祭で人が溢れていたから、人混みを抜ける時に接触くらいはしたかもしれないけれど、星の言い方だと、俺の方から触ったってことだよな?
「階段で落ちそうになった子を抱き止めたでしょう?」
その星の言葉で、階段での出来事を思い出した。
「あれは、あの子が階段から落ちたら星が怪我をすると思って咄嗟に……」
俺の言葉に星はしばし俺の顔を凝視し、それからその頬を真っ赤にした。
「僕のため……」
「星のためだし、星に怪我なんてしてほしくない俺のためだよ」
星の涙はぴたりと止まったようだった。
そして、今度は恥ずかしそうにその頬を赤く染めて、星は俺から顔を逸らした。
「ごめん。勘違いして……」
「勘違いして、嫉妬してくれたの?」
逸らされた星の顔を覗き込むと、その顔は真っ赤だった。
「星」
俺は星の顔を両手で包み込んで、俺の方を向かせる。星の頬は涙で濡れていた。その涙を指で拭う。
「俺のこと、好きになってくれたの?」
星は視線を合わせずに、小さな声で言う。
「ごめんね。迷惑だよね…」
そのごめんねは俺の言葉の肯定だ。
あまりの嬉しさに俺の胸はぎゅ~~~っと縮まったような気がする。心臓が痛い。
俺は自分の気持ちの全てを星にぶつけるように、星のことをぎゅ~~~っと抱きしめた。
「遥翔くん?」
「迷惑なんかじゃない! すっごく嬉しい!!」
「え?」
「俺も!! 俺も星のことが好き!!」
「……嘘……」
「嘘じゃない! ずっと前から好きだった! だから、今すごく嬉しい!!」
「う、嘘だよ……遥翔くんが、僕なんかを好きになるわけ……」
俺は星のことを抱きしめる腕に力を込めた。
「い、痛いよ!!」
「本当のことを言っているのに、それを認めてくれない星には罰として、しばらく俺の腕の中にいてもらう!」
「わかった! 認める! 認めるから離して!」
「嫌だ! これは俺へのお祝いでもあるから、絶対に離れない!」
「恥ずかしいから、離してよ!」
「今は誰も見てないだろう? 二人だけなのに恥ずかしがってたら、この先、何もできないじゃん! だから、抱きしめられることくらいにはさっさと慣れて!」
「な、何もって……」
見なくてもわかる。星の顔は今きっと、さっきよりも真っ赤だろう。
「俺はずっと、星のこと抱きしめたかったし、恋人繋ぎしたかったし、膝枕とか、とにかくもっとイチャイチャしたい!」
「わかったから! もう言わなくていいから!!」
俺の腕の中で星がバタバタしている。ああ。可愛い。
俺の腕の中に可愛い可愛い星がいる。
しかも、その可愛い可愛い星は俺のことが好きだと言う。
「ねぇ、星……」
「何?」
「俺、文化祭の最後に星としたいことがある」
「え?」
俺は星から少し体を離して、星の瞳を覗き込む。
そして、そっと顔を近づけると、星も何かを悟ったようにその頬を少し染めてから、その瞼を閉じた。
「大好きだよ。星」
俺は、星の唇に唇を重ねた。
