【完結。一気読み推奨☆】ただのハイスペックなモブだと思ってた

 離れたところで人の話し声がする気配で目が覚めた。
 部屋の扉のところで星と高野が話していた。寝ぼけながら耳をすませていると朝食をどうするかという話のようだ。

 俺は休日は九時頃に朝食を食べているから、おそらく九時になっても起きてこない俺たちの様子を高野が見に来たのだろう。
 俺はベッドの上でのそりと起き上がる。
 すると、すぐに星と高野が俺が起きたことに気づいた。

「遥翔くん、まだ寝てなくて大丈夫?」
「遥翔様、ご起床されますか?」

 俺はベッドから降りて、二人の元へと近づく。
 そして、星の手を握った。まだ少し寝ぼけているからだろうか? つい、欲望のままに動いてしまった。

「え!? 何!?」

 星が驚いている。当然だろう。
 しかし、高野は微笑ましそうだ。

「高野、朝食を二人分、用意してくれ。鴉間と三津谷は多分、昼近くまで寝ていると思うから、朝食はいらないと思う」

「かしこまりました」と、高野は下がっていった。

「星、着替えよう」
「まだ二時間くらいしか寝てないよ? 大丈夫?」
「うん。星が寝かしつけてくれたおかげで、すごく深く眠れた気がする」
「寝かしつけたつもりは……いや、寝かしつけたのかな?」

 学校でも体育の際に更衣室で星が着替えるところは見ているのに、俺の部屋で着替える星の姿がやけに扇情的に見えてしまう……俺はその姿からは目を逸らして、自分の着替えをさっさと済ませた。

 いつものリビングで星と二人きりで食事をとる時間はゆったりと時が流れているような、なんだか不思議な感覚だった。
 いつもは一人で黙々と食べるだけの場所だったのに。
 両親は忙しくて朝会うことは滅多にないし、高野は給仕のためにそばにはいてくれるけれど、一緒に食事をとることはない。

「遥翔様、こちら、奥様からの伝言です」

 そう言って、高野が一通の手紙を渡してきた。手紙の体裁だが、ただの伝言なので封はされていない。

「お家の中でお手紙?」

 星が不思議そうだ。

「スマホに届くメッセージを俺が読まないから、絶対に伝えたいことはこうして手書きの伝言を残していくんだ」

 親からのメッセージを読まないことを責めることもなく、「そうなんだね」と星は頷いた。母さんの手紙を開き、俺は呆れ、すぐにその手紙を高野に返した。

「遥翔様?」
「星の写真を送って欲しいって内容だった」
「え!? 僕!?」
「スマホのメッセージも大体そんな感じだ」

 学校での話が聞きたいとか、普段の様子を写真に撮って送ってほしいとか。

「ああ! ご両親は遥翔くんの姿が見たいんだね」

 星がそう微笑んだ。

「蓮くんと暁良くんが起きてきたら、みんなで写真撮ろう」
「え!?」

 それは合法的に星の写真を手に入れられるということか!?

「遥翔くんのお母さん、お父さんも遥翔くんの姿が見れてきっと嬉しいと思うよ」
「そ、それなら、星とのツーショットも欲しいかな。鴉間と三津谷のことは母さんたちよく知ってるし」
「奥様も旦那様も遥翔様の新しいお友達にご興味をお持ちでした」

 高野が後押ししてくれる。

「なんか、恥ずかしいけど、わかった。二人でも撮ろう」

 よっし! 母さん! ありがとう!! 俺は久しぶりに心から母親に感謝した。

 朝食を取って、俺たちは中庭を背景に写真を撮った。
 カメラマンは高野だ。俺のスマホで撮ってもらった。

 そのあとは部屋に戻って俺たちは昼まで勉強した。

 昼近くに鴉間と三津谷が起きてきたから、俺と星は二人と一緒にお昼を食べて、今度は四人で写真を撮って、また勉強に戻る。
 途中、三津谷が音を上げておやつの時間を取ったが、概ね、夕方まで俺たちは真面目に勉強をした。

 ……いや、真面目に集中して勉強できていたのかというと、俺は割と星を見ていた。
 自分の部屋にいる星の姿を目に焼き付けていた。

 そして、鴉間と三津谷はそんな俺を見てはにまついていたようだ。
 視線がだいぶ面倒くさかったから無視しておいたが。

 夕方には星たちをリムジンで家まで送り、別れた。
 その夜、自分のベッドの上で星に抱き枕にされたことを思い出して、なんだか、心がうわぁ~~~となってしまった。
 


 学校では相変わらず、放課後には文化祭に向けての仕事が盛り沢山だった。

「文化祭、楽しみだな」

 俺は文化祭の準備を結構面倒くさいという気持ちでやっているのだが、三津谷は楽しんでいた。

「私は早く終わって欲しいです」

 松下さんの眉間の皺がすごい。多分、松下さんもイベント事がそれほど好きではないのだろう。

「生徒会に誘っちゃってごめんね」

 星がそう謝ると、松下さんは「生徒会の仕事は楽しいです」と言った。

「むしろ、このメンバーならずっと生徒会の仕事をしていたいです」

 やはり、松下さんは星のことを好きなのではないだろうか?
 そう緊張したが、松下さんはまるで俺の心を読んでいるように言った。

「私、ブロマンスが好きなんです」

 ブロマンス、それはBL漫画を読んでいく中で知った言葉だ。
 兄弟、友達、師匠と弟子の関係、弟子同士の関係など、男同士の兄弟愛、深い友情、師弟愛的な幅広い意味合いでの男同士の何やら熱い関係のことを言うようだ。
 ちなみに、そこに恋愛感情は含まれないので、BLではない。

 つまり、松下さんは生徒会で俺たちが何やら一緒に作業をしている様子を見ているだけで楽しいということだろう。
 そこで俺は気づく、松下さんと星が仲がいいのは、趣味趣向が同じという繋がりだったのだと。

「ブロマンスってなに?」

 三津谷の質問に松下さんの目がきらりと光った気がする。それに星が慌てる。

「松下さん!」

 星が松下さんを止めて、三津谷に「熱い友情のことだよ」と適当に説明している。
 それに対して、松下さんが「そう、熱いね!」などと言うものだから、星がまた慌てている。
 星が可愛い。ただただ星が可愛いと思う。そして、松下さんが思った以上に面白い。

 各クラスの文化祭の出し物が決まってくると、俺たちはますます忙しくなった。
 そして、ここにきて、予想外の動きをするクラスが現れた。
 それが、特進クラスの女生徒が多いA組だ。ちなみに、うちはB組だ。

 例年、特進クラスは勉学に集中するために文化祭は教室内に収まる展示くらいしかしないのだ。
 なんなら、クラスメイトの多数決で文化祭にはクラスとしての参加は行わないという選択もできる。
 何せ、進学に力を入れているクラスなので、準備に数週間を要する文化祭など、勉学の妨げにしかならないと考える生徒も多い。

 しかし、今年のAクラスは、どういうわけか、出店希望を出してきた。売るものはジュース。まぁ、それはいい。出店内容よりも、気になるのは出店をすること自体だ。

 クラスメイトが仲が良くて何か思い出になることがやりたいということなのだろうかと思ったが、しばらくして彼女たちの狙いがわかった。
 出店依頼を受理した途端に、彼女たちは頻繁に生徒会室を訪れて、出店内容について相談するようになった。

 生徒は文化祭についての相談を生徒会にすることができるため、我々も簡単に断ることができない。
 大体は松下さんや星、三津谷が対応してくれたが、彼女たちの目は、俺と鴉間にチラチラと向けられている。

 時には大きな声で「生徒会長や副会長に話を聞いてほしい」なんて言ったりする。
 だいぶ鬱陶しい。さて、どうしたものかと思ったら、意外にも星から解決案が出された。

「文化祭の準備期間だけ、特別に生徒会を増員しない?」

 星の案は、相談に訪れる人を対応するための窓口には、増員のメンバーを置くということだった。

「増員とは言っても、メンバーは集まるかな?」

 そうした心配を持った俺たちに対して星は「大丈夫」と微笑み、翌日には数人の男子生徒を連れてきた。

「普通科クラスの有志の人々です」

 そう星から紹介されたのは、鈴木、田中、高橋、というなんともモブっぽい苗字の生徒たちだった。彼らは全員、普通科だという。

 なるほどと、俺たちは納得した。
 特進クラスの生徒しか視野に入れていなかったが、普通科クラスの生徒なら、勉強の時間が惜しいから生徒会メンバーにはなりたくないと思う者は少ないのかもしれない。

 しかも、彼らにとっては内申点も上がるし。そう思ったら、彼らの目当ては内申点ではなく、特進クラスの女生徒たちとの交流だった。

「僕にとっては女生徒ってみんな結構怖いけど、他の男子にとってはそうじゃないんだよね。特に、特進クラスの女生徒と話すチャンスとか、こういう機会でもないと全くないから、普通科クラスの友達からはよく生徒会メンバーになれていいなって羨ましがられるんだよ」

 そうして集まってくれた助っ人の三人だったが、臨時の普通科クラスのメンバーが相談に乗ると言われた途端に態度の悪くなった特進クラスの女生徒たちの態度に早々に心が折れたようだった。

「女って怖い……」

 そう漏らした友達に星は「だから言ったじゃん」と苦笑していた。