夕食後も少し勉強して、風呂に入り、寝る準備を進めた。
「僕、みんなの子供の頃の話が聞きたいな」
星のリクエストに応えて、俺たちはベッドに座ったり、横になったりしながら子供の頃の話をした。
俺たちの子供の頃の話なんて面白いものだろうかと思ったが、話している俺たちも結構懐かしくなって話は弾んだ。
三人で遊んでいる時は俺たち三人は同じ時を過ごしているはずなのに、三人で少しずつ記憶が違うというか、記憶の解釈が違うのも面白かった。
俺のベッドは元々広く、大きい。
だから、子供の頃は鴉間と三津谷が遊びにきても、特に寝床を他に用意する必要もなく、そのまま俺のベッドで寝ていた。
しかし、流石に成長した鴉間と三津谷が横になるには狭い。小柄な星とだったら割と余裕で寝れるけれど。
だから、高野が簡易ベッドを二つ用意してくれた。それを部屋に詰めた。
いや、鴉間と三津谷だけなら、客間で寝て貰えばいいだけなのだが、俺は星の寝顔が見たいから、この部屋でみんなで寝るということにしておいたのだ。
俺たちの子供の頃の話を夜中まで楽しそうに聴いていた星は体力が切れたようにスースーと寝息を立て始めた。
「ごめん、遥翔。本当は俺と暁良は夕食後に何か理由をつけて帰るつもりだったんだけど」
「俺たちの話を聞く星が可愛くてつい話し続けてしまった」
星が眠ってしまってから、鴉間と三津谷がそんなことを言った。
「いや、星は可愛かったし、そんな遠慮しなくていいよ。お前たちが帰ったら、星も遠慮するだろうし」
「それはそんな気がする」
「だから、せめて、俺たちは客間で寝るわ!」
「え……いや、そんな、気を遣わなくても……」
俺はなんとか、そう冷静な風を装ってみた。しかし、鴉間と三津谷に笑われた。
「顔。顔に全部感情が出てる」
「喜びが顔に出過ぎてる」
鴉間と三津谷は笑いながら部屋を出て、客間へと向かった。
やっと星と二人きりになれた俺は星の寝顔をじっと見つめた。星の寝顔は想像以上に可愛かった。
メガネをそっと外すと、その顔はさらにあどけなくなった。俺はその頬にそっと触れ、撫でた。柔らかく、すべすべだ。
「……」
ただただ無言で星の寝顔を見つめて、その頬を撫でる……不意に、自分がものすごく変態に思えてきた。
客観視するとだいぶ自分が変態っぽいことに気づいて、俺はそっと星から手を離した。
星を補助ベッドに寝かせて、布団をかけて、俺も自分のベッドに横たわった。
鴉間たちも同じ部屋で寝ると思っていた時には、ワンチャン、寝ている間に手を触ってしまうハプニングとかあるかもと思ったけれど、二人で、普段のベッドと補助ベッドで別れて寝るならそんなハプニングは起きようがない。
こんなことなら鴉間たちには同じ部屋にいてもらえばよかったと思うのは、都合が良すぎるだろう。
俺は不埒な想像ばかりしてしまう自分の脳を強制終了させるために目を閉じた。
夜中、すぐ隣に気配を感じて目が覚めた。
隣を見ると、めちゃくちゃ近くまで星が転がってきていた。
「え!? 星!?」
もしかして、意外に、寝相が悪かったのだろうか?
寝ぼけている星は俺の声に反応することなく、俺にしがみついてきた。
そして、口元をほこらばせた。
「あった……」
その星の言葉に、俺は泊まりに誘った時の星の言葉を思い出した。
「僕、抱き枕を抱きしめて寝てるんだけど、なくても寝れるかな……」
そんな言葉に俺は心配なら抱き枕を持ってくればいいと言ったのだが、流石に移動の邪魔になるサイズで家に置いてきたのだろう。
星が抱き枕を置いてきてくれたおかげで、どうやら俺は今夜の星の抱き枕に任命されたようだ。
結構しっかりとぎゅうぎゅうと抱きしめてくる星を俺も抱きしめる。
「星のほうから抱きしめてきているのだから、いいよな?」
そう俺は小声で言い訳をする。抱きしめた星の体は思ったよりも小さくて腕の中にすっぽりと収まる。
そして、鼻のあたりにくる星のサラサラの髪がくすぐったいが、同時にめちゃくちゃいい匂いがして離れ難くなる。
思わず深く息を吸い込んでしまう。やばい、今の俺はかなり変態だと思う。
しかし、寝ぼけているとはいえ、これは星からきてくれたことなので、合法だと思う。きっと合法だ。合法に違いない。だから、許してほしい。
そんな最高に幸せな状況に心臓は早鐘を打ち、アドレナリンが出まくり、俺は眠れなくなった。
当然、寝不足のまま起きた。
「うわ! 遥翔くん!?」
割と早めに起きた星は自分が抱きしめているものを見上げて驚いていた。
「ごめんね! 僕、遥翔くんのこと、枕にしてたみたいで……」
ものすごく謝る星に俺は「大丈夫だ」と伝えた。
寝不足ではあるが、セロトニンが大量に放出されて、俺は最高に幸せで元気だった。
「あれ? 蓮くんと暁良くんだ?」
「ああ……二人は……」
星が隣にいることに浮かれすぎて、二人がいない理由を考えるのを忘れていた。
まさか、素直に、二人とも星のことが好きな俺に気遣って客間に行ってくれたとは言えない。
「えっと……」と、俺が困っている間に、星はハッと何かに気づいた表情を見せた。
「もしかして、俺、みんなのことを抱き枕にしちゃった!? それで、二人は別の部屋に移ったとか?」
そうではない。そうではないのだが、他にいい言い訳も思いつかない……
しかし、星が二人に申し訳なく思い、謝るようなことではない。
「違うんだ。二人とも、早々に客室に移動したから……」
「どうして?」
「えっと……」と、俺は全力で思考を巡らし、言い訳を考える。
そして、ふと、時計に目が止まった。今はまだ朝の七時だった。
平日ならば起きていなければいけない時間だったが、休日ならば鴉間も三津谷も絶対に起きてこない時間だ。
鴉間は単純に朝が弱いから。三津谷は夜更かしするからだ。
あいつらは休みの朝はしっかり寝るタイプだ。
「二人とも、休みの日は昼近くまで寝るんだ。だから、星に気を遣わせると悪いって考えたみたいだ」
「そっか」と星は納得し、俺はほっと息を吐いた。
「それじゃ、僕が抱き枕にした被害者は遥翔くんだけ?」
「被害を受けたとは思ってないけど?」
むしろ幸せだった。ものすごく。
恋人になれたらいつでも遠慮なくこうやって抱きしめられるのになとか、将来、同棲できたら、こうやって二人くっついて眠って、毎朝幸せな気持ちで目覚めることができるんだろうなとか、妄想が捗った。
「僕は読書でもしてるから、遥翔くんはもう少し寝て? 僕のせいで寝れなかったでしょ?」
「星のせいで寝れなかったというより、こうして誰かが泊まりに来たのは久しぶりだったから、楽しくて寝れなかったかな」
おそらく、俺は星に抱き枕にされなくても熟睡はできなかったと思う。
すぐ傍で星の寝息が聞こえるだけで十分にドキドキしていたから。
「僕もそうなると思ってたのに、一昨日から楽しみにしてて、実は、昨日の朝の時点でちょっと寝不足だったから、昨夜はぐっすり寝ちゃった」
星も泊まりに来ることを楽しみにしてくれていたようで良かったと俺は少し胸を撫で下ろす。
「今日もいい一日にしような」
「そうだね! 今日も勉強頑張ろう!」
「そのためには」と、星は俺の体を押してベッドに横たえた。
「遥翔くんはやっぱりもうちょっと寝た方がいいと思う!」
「ありがたいけど、寝れるかな……」
自分でもちょっとくらいは寝たほうがいいとは思うけれど、星が近くにいて寝れるだろうか?
そんな風に思っていたが、俺は寝た。星がまるで寝かしつけるように俺の胸の辺りをトントンと優しく叩いてくれ、すぐに意識を失った。これがあれか……バブみってやつか!! と、起きてから思った。
