【完結。一気読み推奨☆】ただのハイスペックなモブだと思ってた


 生徒たちに少し聞き取りをすれば、すぐに犯人たちの情報を得ることができた。
 先生にはやはり勝手に動くなと言われてしまったので、その犯人たちのリストを作って先生に空き教室に呼び出してもらった。

「先生、やっと私たちを生徒会メンバーに入れてくれるんですか?」

 教室に集まった女生徒たちはそんなことを言った。
 俺たちは教室の外でその声を聞いていた。
 どうやら、彼女たちは生徒会に入りたいと以前から先生に言っていたようだ。

「文化祭の準備で忙しいでしょうし、私たち、役に立ちますよ!」
「お前たち、先生が全校集会で言ったこと、覚えているか?」
「覚えてますけど……松下さんが何か言ったんですか?」
「私たちは親切心で、仕事のお手伝いしてあげるって言っただけなんですけど」
「奢ってあげたジュースもこぼすし、生徒会メンバーなのに、松下さんって意地悪なんですよ」

「へぇ〜」と、三津谷が多少大袈裟な声を出して部屋に入る。

「制服にジュース染み込ませるのが親切心なんて、随分と歪んだ感覚を持ってるみたいだね?」
「三津谷、まだ先生の話終わってないんだが?」
「先生もわかるっしょ? こういう奴らには正論は無意味だって」
「それでも、正論で道を諭すのが教師の役目で……」

 鴉間も部屋に入る。俺の位置からじゃその顔は見えないが、おそらくにっこりと笑っていることだろう。

「先生、俺たち、文化祭準備で忙しいんですよ」

 最初は鴉間の紳士然とした穏やかな笑顔にみんな油断するのだ。
 しかし、次の瞬間には、その冷たい視線に背筋を凍らせるはずだ。

 案の定、二人の登場にざわついていた教室の中の空気が一変した。
 しんっと静まり返り、その場を支配するのは緊張感だけになった。

「だから、こういう有象無象の相手で時間無駄にしたくないんですよね」

 俺はそっとその場を離れた。

 これから、彼女たちは鴉間にしっかり調教されるのだ。
 自分たちは俺たちにとってその辺の雑草でしかなく、目の前に現れて踏まれて、靴を汚すことさえも許されないのだと。

 星に嫌がらせしていた普通科クラスの女生徒たちも、特進クラスの女生徒たちもそうして大人しくさせたのに、まさか、松下さんに対してはその時とはまた別の虫が湧くとは思わなかった。

 ちなみに、この調教に俺は参加しない。
 鴉間曰く、完全にヤバいやつを演じられる自分よりも存在感あるやつが隣にいると邪魔だそうだ。
 それなら、俺もヤバいやつを演じたらいいのではないかと提案したが、俺の顔面がそういう系統じゃないからダメだとよくわからないことを言われた。
 ヤバいやつの顔の系統ってなんだ?



「もしかして、みなさん、何かしましたか?」

 数日後、生徒会室で松下さんがそう聞いてきた。

「何もしてないよ」

 そう鴉間が微笑んだ。

「そうですか」と、松下さんは鴉間が何かをしたようだと納得したみたいだった。
 彼女は本当に俺たちに興味がないのだ。
 だから、自分を特別に守ってくれたみたいな勘違いもしないようで、ありがたい。
 おそらく、恋愛に興味がないタイプの女性なのだろう。

 そういえば、彼女は「女性」という感じがする。
 他の女生徒たち、特に、松下さんや星に絡んでいた女生徒たちは「女の子」という感じだが、松下さんや俺たちのクラスにいる他の数少ない女生徒たちは「女性」という感じがする。
 おそらく、精神年齢が違うということなのだろう。

「明日、明後日と葛城くんは神乃くんの家に行くと言っていましたよね?」
「うん。昼間の勉強会だけでも松下さんも来る?」
「いえ。そうではなく、神乃くんの家に行ったことがあるとか、泊まったなんて話が広がるとまた星くんに嫌がらせをする人間もいるかもしれませんから、気をつけてください」
「星の周りの女子はもう調教済みだけど?」

 鴉間が言った。

「女生徒たちだけが敵だとは思わないでください」

 俺たちは目を丸くする。女生徒じゃないとすると、男子生徒に厄介なのがいると?

「でも、俺、男子には人気ないけど?」
「そうですね。神乃くんは人気じゃないです」
「……え?」

 それはつまり、どういうことなのだろう?

「杞憂ならいいんですけどね」

 松下さんがそんな不穏なことを言っていた翌日、午後から我が家に星と鴉間と三津谷が来た。


 
「みんな一緒に来たのか?」

 それなら、俺も星のこと迎えに行きたかったのに。
 朝から星が来るのをソワソワと待っていた俺のことを知っていた高野の眼差しが微笑ましそうに細められている。

「いい天気だったから、最寄り駅からのんびり歩いて来ようと思ったら、途中で鴉間くんが拾ってくれたの」
「三津谷の家に寄ってからこっちに向かってたら、星が歩いているからびっくりしたよ」
「最寄り駅から歩くと一時間くらいかからないか?」
「今日はこれからずっと勉強で体動かすこともないから、運動にいいかなと思って」
「俺、余計なことしちゃった?」
「ううん! 車に乗せてもらって助かったよ! ありがとう!」

 星が俺の家にいる。休みの日なのに星に会えた。
 しかも可愛く笑ってお礼言ってる。俺に対してじゃないけど、可愛く笑って……いや、笑顔は俺に向けて欲しい。星の笑顔は独り占めしたい。

 そして、鴉間と三津谷はニマニマするのやめろ。
 星に変に思われるだろ? 星が名探偵だったら、俺が星のこと好きだって気づいちゃうだろ? いや、星は鈍いから、絶対に気づかないだろうけどな!

「遥翔様、まずは皆様にお茶を飲んでゆっくりしていただいてはいかがですか?」
「いや、先に勉強しよう。じゃないと、暁良がダレるから」

 高野の言葉に俺が返事をする前に鴉間が言った。

「高野、お茶は俺の部屋に運んでくれ」
「かしこまりました」

 俺は星を自室に案内する。鴉間と三津谷はもう何度もうちに来ているからよく知っている。

「大きな家だと思ったけど、やっぱり遥翔くんの部屋も広いんだね」
「お、テーブルがある! 今日のために買ったのか?」

 三津谷が余計なことを言った。

「遥翔の部屋に通すからどうやって勉強するのかと思ったけど、なるほど。テーブルとラグを買ったのか」

 鴉間まで……なんだ? これは? わざと星に聞かせているのか? やめて欲しいのだが? 今日のために色々と買い揃えたとか知られるのは少し恥ずかしい。

「いつもはここじゃないところで勉強してるの?」
「いや、遥翔の家で勉強すること自体なかったけど、遥翔の部屋にこんなテーブルなかったから、勉強するとしたらリビングだと思ってた」
「わざわざ今日のために用意してくれたってこと?」

 星だけを誘った時には、俺の勉強机のところに一つ椅子を足せばいいと思ったのだけれど、四人で勉強となると勉強机の大きさでは足りなかった。

 もちろん、リビングで勉強してから、勉強が終わったら部屋に行くということも考えていたが、星が「遥翔くんの部屋に行くの楽しみ」って言っていたので、俺の部屋を満喫してもらうことにしたのである。

 自己欲求を満たすためではあったが、購入したローテーブルとラグはいい仕事をしてくれたと思う。
 星と至近距離で座れたし、心なしか、星からいつもよりいい香りがしたような気がした。

 勉強の途中に高野がフルーツタルトを持ってきてくれて食べた。
 星の隣で食べるフルーツタルトは格別に美味しかったような気がする。
 一緒に食べる誰かによって味覚も変わるようだ。

 甘く美味しいタルトを食べた後にまたしばらく勉強して、徐々に三津谷の休憩の回数が増え、一回一回の休憩の長さが長くなってきた頃、夕食が用意できたと高野が呼びにきた。

「それじゃ、リビングに行くか」
「親御さんいる? 挨拶しなくちゃ!」

 星が緊張して背筋を正したから俺は笑って、それは必要がないことを伝えた。

「大丈夫。うちの両親、帰り遅いから」

 二人とも仕事だ。だから高野がいるし、家政婦さんとか、他の使用人の人がいるのだ。
 家の清掃を行ってくれる人や、庭師、調理担当の人は通いだけど、高野と家政婦さんは泊まりだ。
 俺が子供の頃から両親の帰りが遅い……というか、近年は日本にいるが、俺が子供の頃には国内にいるのも稀だった。

「そっか……」

 ほっと息を吐く星が可愛い。

「いつでも、気軽に遊びに来ていいからな」

 星の頭を撫でる。星の髪は今日もサラサラだった。