中間テストが終わると、生徒会メンバーの俺たちは本格的に学祭の準備に追われるようになった。
学祭の準備期間中、俺たちは特進クラスの生徒としてはかつてないほど勉強しない時間を過ごした。
俺は天才だから大丈夫だとして……鴉間もどちらかというと天才肌だし、三津谷は赤点ギリギリで満足なやつなので、いつも時間的な余裕は十分だからいいとして、星は秀才タイプだ。
毎日きちんとした努力により、その学力を保っているタイプだ。生徒会に誘ったのは俺なのだが、非常に心配になってきた。
「星、ごめん。こんなに忙しくなるとは思わなくて、生徒会に誘っちゃった」
「生徒会のことは俺がやりたいって言ったことだし、やって良かったと思っているよ」
「でも、勉強時間がなかなか取れないだろう?」
「家に帰ってから勉強するようにしてるから大丈夫。遥翔くんに教えてもらえないのは確かに厳しいけど」
俺も星と一緒に勉強できなくて残念だ。
「あのさ、星……」
「何?」
「週末、うちで勉強しないか?」
誘ってしまった。とうとう、自分のプライベートな場所に星を、誘ってしまった。
「と、泊まりで来てくれれば、朝から晩まで集中して勉強できるし……」
しかも、泊まりの提案までしてしまった。これで、警戒とかされたらどうしよう……
「本当? 行ってもいいの?」
心配しているようなことにはならず、星は嬉しそうだ。
「ああ! 早速、今週末来る?」
「蓮くんと暁良くんの予定も聞かないとね!」
違う! と思ったが、これは俺が悪いとすぐに冷静になる。
いつも生徒会室でみんなで勉強しているのだ。
そして、星よりは鴉間や三津谷のほうが俺と付き合いが長いのは確かだ。
それならば、自分だけが誘われたとは思わないだろう。
しかし、ここで露骨に星だけに来てほしいと言えば、俺の気持ちは流石に見透かされてしまうのではないだろうか?
星はまだ日向が好きなはずだ。そんな星に俺が二人きりがいいなんて言えば、警戒されるだろう。
星と二人きりで勉強はしたいけれど、決してやましい気持ちはないということをわかってもらうにはどうすればいいのだろうか……
いや、正直、やましい気持ちはあるな。自分の部屋に好きな人がいるとか最高だろう? それに、星の寝顔見れるし。寝起きも見れるし。寝る時も起きる時も一緒とか、最高だし。
……いや、待てよ、泊まるということは、我が家の風呂にも入るよな? それはつまり、湯上がりの星も見れるということだろうか……それは、控えめに言っても最の高ではないか?
「ポスター貼ってきたぞ~」
文化祭のポスターを校内の指定された場所に貼りに行った三津谷と鴉間が生徒会室に戻ってきた。
「蓮くんと暁良くん、お疲れさま」
星は二人に労いの声をかけて、すぐに俺を見つめてくる。俺に、二人に予定を聞くように促しているのだろう。
メガネの奥の瞳は楽しみな気持ちを隠すことなく煌めいていて、可愛い。まぁ、二人きりがいいけれど、それはもうちょっと先でもいいだろう。今回は二人とも誘おう。
「今週末、二人とも、うちで勉強しないか? 泊まり込みで。星も来るから」
「ええ!? 泊まりで勉強とか無理!」
三津谷はそうすぐに叫んだ。
「……俺もちょっと予定あるかな」
鴉間は俺を見つめて、少しニヤリと笑ってから断ったから、きっと俺が星を最初に誘った意図には気づいているだろう。
気づいた上で断ってくれたのだろう。いい友達である。
しかし、鴉間と三津谷の言葉に星は見るからに落ち込んだ。
「二人とも来れないなら、僕も遠慮しようかな……一人で遥翔くんの家に行くとか緊張するし」
まさかの展開だ。星の中では、鴉間たちが来ることは必須条件だったようだ。
「緊張とか、しなくても大丈夫だぞ?」
「僕は普通の家の子供だよ? 毎日リムジンに乗っている遥翔くんのお宅に行くのは緊張するよ」
そういうものなのだろうか?
鴉間が不意にスマホを確認し始めた。
「あ、ごめん! 予定あるの来週だった! 今週末は大丈夫だから、星、一緒に遥翔の家に行こうか?」
ナイス鴉間!! 鴉間はすぐに隣の三津谷の肩をがしりと掴んだ。
「三津谷も行くよな? というか、三津谷こそ、参加すべきだろう?」
「わかった。行くよ」
「二人とも行くの? 本当に?」
星の目のキラキラが戻ってきた。すごく可愛い。
「本当。大丈夫。星と一緒に行くよ」
星の可愛さに気づいたのか、鴉間が星の頭を撫でる。三津谷もくしゃくしゃと星の頭を撫でた。
「三津谷、乱暴にするなよ」
なんて言いながら、俺は整えるように星の髪に触れる。サラサラで触り心地がいい。
「みんなで泊まりとか楽しみ」
「星はそういうのしたことないのか? 日向と仲がいいだろう?」
三津谷が聞いた。俺たち三人は両親たちも幼稚園からの顔馴染みだから、一緒に旅行行ったり、お互いの家に泊まったりすることが結構あったのだ。
「家が隣同士だとすぐに家に帰れるから、わざわざ泊まったりはしないかな」
「あ~、確かに」
星の回答に三津谷が頷いている。
「戻りました」
先生のところに書類を届けに行っていた松下さんが戻ってきた。
「おかえり」と、星が松下さんに視線を向けて固まった。
「どうしたの? その汚れ」
星の視線を追って松下さんを見れば、松下さんの白い制服にオレンジ色の染みができていた。
「不注意でジュースをこぼしてしまったのです。あ、先生から預かってきた書類は濡らしてませんから安心してください」
星はすぐに松下さんの手から書類を受け取った。
「すぐに染み抜きしたほうがいいよ」
「……染み抜き、ですか?」
「ちょっと待ってて!」
星は一度部屋を出ると、すぐに自販機で水を買って戻ってきた。
それから、次に自分の鞄からタオルを取り出す。
「このタオルをスカートに当ててくれる?」
オレンジ色になっている部分のスカートの裏に松下さんはタオルを当てた。
星はタオルのあるところの染みの上に水を垂らし、ハンカチで叩くようにしてスカートの汚れをタオルへ移していく。
「すごいな……」
「小さい頃から至ちゃんがよく服を汚すから、自然に覚えちゃったんだよね」
日向のために身につけたことかと思うと非常に複雑な気持ちにはなるものの、それでも、これは星の技術だろう。
「少し落ちにくいところは石鹸つけるといいと思う。トイレにハンドソープあるし、落としてきたらどうかな?」
星に言われて、松下さんは「そうするわ。ありがとう」と一度、生徒会室を出て行った。
さて、ここからは俺たちの話し合いだ。
「そろそろ、看過できなくなってきたね」
鴉間の言葉に俺は頷く。
「そうだな」
俺たちはみんな知っている。松下さんは仕事途中に一人でオレンジジュース買ってその辺で飲んで戻ってくるようなタイプではない。
それに、これまでもたびたび制服が汚れているようなことがあったのだ。
この学校の制服は白いから、少し汚れがついただけでもわかる。
特に、品行方正な松下さんのような子はいつもなら少しの汚れもついていないのだ。
それが、背中がうっすらと汚れているようなことがあれば、誰かに壁際に追いやられたのだろうかと想像できるし、腕のあたりに変な皺ができていれば、誰かに強く腕を掴まれたのだろうかと想像できるのだ。
「どうするの?」
心配そうに星が聞く。
「先生に言えば、今期の生徒会は解散で、松下さんに嫌がらせをしてきた生徒たちには処分が下ると思うけど、文化祭もなくなるかもしれないな」
正直、星と文化祭に参加できないのは惜しい。
「先生も流石にここで解散とは言えないんじゃないか?」
「でも、そうすると、生徒たちに示しがつかないと思うけど?」
「でも、先生に言わないで勝手に嫌がらせしてきた生徒たちに注意するのも相手が逆上したりした時には面倒なことになるでしょう?」
「星は相変わらず女生徒たちへの警戒心が強いね」
「遥翔くんは知らないのかもしれないけど、女の子たちは本当に怖いの!!」
いや、俺だって知ってるよ。俺に勝手に好意を寄せてくれる女の子も、勝手に嫉妬する女の子も、怖いものだ。
「それじゃ、松下さんには内緒で先生に伝えはするけど、こっちのやり方に任せてもらうってことでいいかな?」
「まぁ、それでいいんじゃね?」
俺の言葉に三津谷が頷いた。
「久しぶりの調教、楽しみだなぁ~」
「え? 調教? 何するの?」
鴉間の言葉に星が首を傾げる。
「あ、星は不参加で」
「そうだな。星は不参加のほうがいいだろう」
「星は、松下さんと待っててよ。カモフラージュに一人くらい、ここにいたほうがいいだろう?」
「わ、わかった……」
そう頷いた星は、俺の制服の裾を少しつまんだ。
「みんな、無茶しないでね?」
星の可愛さで死にそうだ。
「むしろ、今、とどめ刺したの星だけどね?」
「可愛すぎか!!」
鴉間が俺の心の中の冷静なツッコミを、そして三津谷が俺の心の中の叫びを代弁した。
学祭の準備期間中、俺たちは特進クラスの生徒としてはかつてないほど勉強しない時間を過ごした。
俺は天才だから大丈夫だとして……鴉間もどちらかというと天才肌だし、三津谷は赤点ギリギリで満足なやつなので、いつも時間的な余裕は十分だからいいとして、星は秀才タイプだ。
毎日きちんとした努力により、その学力を保っているタイプだ。生徒会に誘ったのは俺なのだが、非常に心配になってきた。
「星、ごめん。こんなに忙しくなるとは思わなくて、生徒会に誘っちゃった」
「生徒会のことは俺がやりたいって言ったことだし、やって良かったと思っているよ」
「でも、勉強時間がなかなか取れないだろう?」
「家に帰ってから勉強するようにしてるから大丈夫。遥翔くんに教えてもらえないのは確かに厳しいけど」
俺も星と一緒に勉強できなくて残念だ。
「あのさ、星……」
「何?」
「週末、うちで勉強しないか?」
誘ってしまった。とうとう、自分のプライベートな場所に星を、誘ってしまった。
「と、泊まりで来てくれれば、朝から晩まで集中して勉強できるし……」
しかも、泊まりの提案までしてしまった。これで、警戒とかされたらどうしよう……
「本当? 行ってもいいの?」
心配しているようなことにはならず、星は嬉しそうだ。
「ああ! 早速、今週末来る?」
「蓮くんと暁良くんの予定も聞かないとね!」
違う! と思ったが、これは俺が悪いとすぐに冷静になる。
いつも生徒会室でみんなで勉強しているのだ。
そして、星よりは鴉間や三津谷のほうが俺と付き合いが長いのは確かだ。
それならば、自分だけが誘われたとは思わないだろう。
しかし、ここで露骨に星だけに来てほしいと言えば、俺の気持ちは流石に見透かされてしまうのではないだろうか?
星はまだ日向が好きなはずだ。そんな星に俺が二人きりがいいなんて言えば、警戒されるだろう。
星と二人きりで勉強はしたいけれど、決してやましい気持ちはないということをわかってもらうにはどうすればいいのだろうか……
いや、正直、やましい気持ちはあるな。自分の部屋に好きな人がいるとか最高だろう? それに、星の寝顔見れるし。寝起きも見れるし。寝る時も起きる時も一緒とか、最高だし。
……いや、待てよ、泊まるということは、我が家の風呂にも入るよな? それはつまり、湯上がりの星も見れるということだろうか……それは、控えめに言っても最の高ではないか?
「ポスター貼ってきたぞ~」
文化祭のポスターを校内の指定された場所に貼りに行った三津谷と鴉間が生徒会室に戻ってきた。
「蓮くんと暁良くん、お疲れさま」
星は二人に労いの声をかけて、すぐに俺を見つめてくる。俺に、二人に予定を聞くように促しているのだろう。
メガネの奥の瞳は楽しみな気持ちを隠すことなく煌めいていて、可愛い。まぁ、二人きりがいいけれど、それはもうちょっと先でもいいだろう。今回は二人とも誘おう。
「今週末、二人とも、うちで勉強しないか? 泊まり込みで。星も来るから」
「ええ!? 泊まりで勉強とか無理!」
三津谷はそうすぐに叫んだ。
「……俺もちょっと予定あるかな」
鴉間は俺を見つめて、少しニヤリと笑ってから断ったから、きっと俺が星を最初に誘った意図には気づいているだろう。
気づいた上で断ってくれたのだろう。いい友達である。
しかし、鴉間と三津谷の言葉に星は見るからに落ち込んだ。
「二人とも来れないなら、僕も遠慮しようかな……一人で遥翔くんの家に行くとか緊張するし」
まさかの展開だ。星の中では、鴉間たちが来ることは必須条件だったようだ。
「緊張とか、しなくても大丈夫だぞ?」
「僕は普通の家の子供だよ? 毎日リムジンに乗っている遥翔くんのお宅に行くのは緊張するよ」
そういうものなのだろうか?
鴉間が不意にスマホを確認し始めた。
「あ、ごめん! 予定あるの来週だった! 今週末は大丈夫だから、星、一緒に遥翔の家に行こうか?」
ナイス鴉間!! 鴉間はすぐに隣の三津谷の肩をがしりと掴んだ。
「三津谷も行くよな? というか、三津谷こそ、参加すべきだろう?」
「わかった。行くよ」
「二人とも行くの? 本当に?」
星の目のキラキラが戻ってきた。すごく可愛い。
「本当。大丈夫。星と一緒に行くよ」
星の可愛さに気づいたのか、鴉間が星の頭を撫でる。三津谷もくしゃくしゃと星の頭を撫でた。
「三津谷、乱暴にするなよ」
なんて言いながら、俺は整えるように星の髪に触れる。サラサラで触り心地がいい。
「みんなで泊まりとか楽しみ」
「星はそういうのしたことないのか? 日向と仲がいいだろう?」
三津谷が聞いた。俺たち三人は両親たちも幼稚園からの顔馴染みだから、一緒に旅行行ったり、お互いの家に泊まったりすることが結構あったのだ。
「家が隣同士だとすぐに家に帰れるから、わざわざ泊まったりはしないかな」
「あ~、確かに」
星の回答に三津谷が頷いている。
「戻りました」
先生のところに書類を届けに行っていた松下さんが戻ってきた。
「おかえり」と、星が松下さんに視線を向けて固まった。
「どうしたの? その汚れ」
星の視線を追って松下さんを見れば、松下さんの白い制服にオレンジ色の染みができていた。
「不注意でジュースをこぼしてしまったのです。あ、先生から預かってきた書類は濡らしてませんから安心してください」
星はすぐに松下さんの手から書類を受け取った。
「すぐに染み抜きしたほうがいいよ」
「……染み抜き、ですか?」
「ちょっと待ってて!」
星は一度部屋を出ると、すぐに自販機で水を買って戻ってきた。
それから、次に自分の鞄からタオルを取り出す。
「このタオルをスカートに当ててくれる?」
オレンジ色になっている部分のスカートの裏に松下さんはタオルを当てた。
星はタオルのあるところの染みの上に水を垂らし、ハンカチで叩くようにしてスカートの汚れをタオルへ移していく。
「すごいな……」
「小さい頃から至ちゃんがよく服を汚すから、自然に覚えちゃったんだよね」
日向のために身につけたことかと思うと非常に複雑な気持ちにはなるものの、それでも、これは星の技術だろう。
「少し落ちにくいところは石鹸つけるといいと思う。トイレにハンドソープあるし、落としてきたらどうかな?」
星に言われて、松下さんは「そうするわ。ありがとう」と一度、生徒会室を出て行った。
さて、ここからは俺たちの話し合いだ。
「そろそろ、看過できなくなってきたね」
鴉間の言葉に俺は頷く。
「そうだな」
俺たちはみんな知っている。松下さんは仕事途中に一人でオレンジジュース買ってその辺で飲んで戻ってくるようなタイプではない。
それに、これまでもたびたび制服が汚れているようなことがあったのだ。
この学校の制服は白いから、少し汚れがついただけでもわかる。
特に、品行方正な松下さんのような子はいつもなら少しの汚れもついていないのだ。
それが、背中がうっすらと汚れているようなことがあれば、誰かに壁際に追いやられたのだろうかと想像できるし、腕のあたりに変な皺ができていれば、誰かに強く腕を掴まれたのだろうかと想像できるのだ。
「どうするの?」
心配そうに星が聞く。
「先生に言えば、今期の生徒会は解散で、松下さんに嫌がらせをしてきた生徒たちには処分が下ると思うけど、文化祭もなくなるかもしれないな」
正直、星と文化祭に参加できないのは惜しい。
「先生も流石にここで解散とは言えないんじゃないか?」
「でも、そうすると、生徒たちに示しがつかないと思うけど?」
「でも、先生に言わないで勝手に嫌がらせしてきた生徒たちに注意するのも相手が逆上したりした時には面倒なことになるでしょう?」
「星は相変わらず女生徒たちへの警戒心が強いね」
「遥翔くんは知らないのかもしれないけど、女の子たちは本当に怖いの!!」
いや、俺だって知ってるよ。俺に勝手に好意を寄せてくれる女の子も、勝手に嫉妬する女の子も、怖いものだ。
「それじゃ、松下さんには内緒で先生に伝えはするけど、こっちのやり方に任せてもらうってことでいいかな?」
「まぁ、それでいいんじゃね?」
俺の言葉に三津谷が頷いた。
「久しぶりの調教、楽しみだなぁ~」
「え? 調教? 何するの?」
鴉間の言葉に星が首を傾げる。
「あ、星は不参加で」
「そうだな。星は不参加のほうがいいだろう」
「星は、松下さんと待っててよ。カモフラージュに一人くらい、ここにいたほうがいいだろう?」
「わ、わかった……」
そう頷いた星は、俺の制服の裾を少しつまんだ。
「みんな、無茶しないでね?」
星の可愛さで死にそうだ。
「むしろ、今、とどめ刺したの星だけどね?」
「可愛すぎか!!」
鴉間が俺の心の中の冷静なツッコミを、そして三津谷が俺の心の中の叫びを代弁した。
