「星! 一緒に帰ろうぜ!」
生徒会の仕事の後にそのまま生徒会室で勉強会をするようになったのだが、その結果、結構遅くまで学校に残っていることになり、サッカー部の練習を終えた日向が星を迎えにくるようになった。
「まだ勉強中だから、待っててくれる?」
「おー!」
「日向くん、この前のように髪に土など付けてないでしょうね?」
松下さんが日向をひと睨みした。
最初は日向は練習上がりの格好、汚れた体操着姿で来たのだが、その時点で松下さんに入室を拒まれた。生徒会室のソファーなどが汚れるからだ。
数度、松下さんに怒られることを繰り返すと、日向も着替えてくるようになった。
しかし、制服でソファーに寝っ転がったら、その日たまたま髪の毛に土がついていたようで、結局ソファーが汚れて、一週間以上の出禁を食らった。松下さんに。
誠心誠意謝った結果、なんとか許してもらえたものの、毎回、身だしなみを確認されることになったのだった。
俺と星が生徒会の仕事が終わっても残って勉強をしていくことにすると、松下さんも一緒に勉強したいと言い、それならと鴉間も残り、暇だからと三津谷も残るようになった。
このメンバーで一番成績のやばい三津谷が「暇だから」というセリフはだいぶおかしかったけれど、まぁ、その三津谷の性格が彼が成績が悪い理由でもある。
そして、そこに日向が来るようになり、普通科クラスの中で下の下である成績の日向はソファーで寝ているのだ。
勤勉さと怠惰というのは、明確に成績に表れるもののようだ。
まぁ、日向はスポーツ推薦で入学し、スポーツ推薦で大学にも進学するつもりのようなので、これでいいのかもしれないけれど……
「神乃くんと葛城くんと勉強するようになってから、前より数学に苦戦しなくなってきたから助かってるわ」
生徒会室を出て玄関へ向かう途中、松下さんがそんなことを言った。
「僕は松下さんに歴史の解説してもらえて、すごく覚えやすくなったよ」
「松下さんの解説面白いもんな」
星の言葉に三津谷が賛同する。
二人の言う通り、松下さんは歴史の解説がうまかった。いわば、歴女というやつなのあろう。
ただ、途中途中で歴史上の人物が同性愛者だったかどうだったかの考察が入るのが気になる。絶対にテストには出ないのに、気になって仕方ない。
「遥翔様、お迎えにあがりました」
校門のところにリムジンと高野が待っていた。
「皆様もお疲れ様です」
高野が扉を開けると三津谷が遠慮なくリムジンに乗り込み、鴉間がそれに続く、遠慮を知らない日向が続き、星が松下さんに「お先にどうぞ」と彼女を中へ導き、星は高野に「今日もお世話おかけします」と一言告げて中に入る。
その後に俺がリムジンに乗り込んで、当然のように俺は星の隣に座る。
みんなで勉強をして帰りが遅くなった際にはうちのリムジンで各家まで送ることが習慣となっていた。
「昨日と同じ順で送らせていただきます」
高野の言葉に誰からも否は出ないため、女性である松下さんを最初に送り、三津谷、鴉間、そして星……と最後に星を送りたいが、松下さんの次に星と日向を送り届ける。
「日向がいなければ、星と二人きりにしてあげられるんだけどね」
星を送った後に鴉間がそう苦笑した。
「俺も星と二人きりになりたい」
そう俺は素直にため息をついた。
「日向がいると日向と星の仲の良さを見せつけられて遥翔のメンタルが削れるからな」
三津谷も言った。
星と二人きりにはなりたいが、星と日向は仲のいい幼馴染で家は隣同士だ。別々に送ったら明らかに変なのだ。
「日が暮れたのに松下さんを送らないわけにはいかないし、松下さんが乗ったら俺たちが乗らないのもおかしい……あの遠慮を知らない日向が乗るわけだから、俺たちが気を使っても無駄か」
「まぁ、これもまた青春の一ページとしていい思い出になるでしょう」
鴉間の言葉に高野が苦笑しながら言った。
また別の日の放課後、その日、日向は早めに生徒会室に来た。
中間テストが近く、早めに部活が終わったのだそうだ。
そして、生徒会室のソファーで寝っ転がろうとした日向を勉強に誘ったのは意外にも三津谷だった。
「日向も勉強した方がいいんじゃないか?」
それはどうやら親切心ではないようだ。
おそらく、自分が周囲に合わせて勉強しているにもかかわらず、一人ごろごろとソファーで寝っ転がり始める日向に苛立ったのだろう。
「えー、勉強とか、俺わからないし、家で星が教えてくれるから」
「至ちゃん、みんな勉強しているのにそれを邪魔するなら帰って?」
「ええ!? 普段はそんなこと言わないじゃん!」
「それは部活後にここに来てから至ちゃんの勉強を見ても、帰るのが遅くなってみんなに迷惑がかかるからだよ。でも、部活がなくて早く合流できるなら、ちゃんと勉強して」
星はまるで子供を叱るように日向に言った。
「い、いつもより、星が厳しい……」
「僕、ここでの勉強をすごく貴重で大切な時間だと思っているんだ。だから、その貴重な時間を邪魔して、みんなの迷惑になるような人は許容できない」
「うう……」と日向は怯み、渋々と勉強に加わった。
怒っている星も可愛い。特に、俺たちのために怒っている星が可愛い。
「俺、星の隣に座りたいから、松下さん変わって……」
日向の言葉に俺は緊張したけれど、松下さんの目がこれまでで一番冷たいものになった気がした。
「嫌ですが?」
日向に変わらなかったことにはホッとしたが、もしや、松下さんも星のことが好きなのだろうか?
「葛城くんと神乃くんから勉強教えてもらうにはこの席が最適なんですから」
俺の不安をかき消すように、松下さんはそう言った。ちなみに、俺は松下さんとは反対の星の隣だ。
「僕も松下さんから歴史とか国語教えてもらえるからこの席が最適!」
星がそう笑った。え、もしや、星が松下さんを好きなのだろうか? と、不安になった。
「星、俺の隣にいる利点は?」
不安になって思わずそんなことを聞いてしまった。
もしも、「特にない」とか言われたら余計に凹むのに。
「遥翔くんの隣はちょっと贅沢すぎるから、たまに誰かに代わってあげたほうがいいのかなって思うくらい」
「神乃くん、オールマイティーだもんね」
松下さんの言うオールマイティーとは全教科が得意という意味だろう。
「そうだな。でも、遥翔の隣は代わってくれなくても大丈夫だぞ」
三津谷が言った。
ちなみに、日向の勉強を意外にも三津谷が甲斐甲斐しく見ている。
「このメンバーの中で一番勉強できない三津谷が日向に勉強教えるのが一番効率いいだろう」
鴉間の言葉に少し不安そうな眼差しを星は三津谷と日向に向けた。
「教えることが復習にもなるから、それがいいでしょうね」
松下さんは鴉間の言葉に納得したようだ。不安そうな星に気遣ってか、鴉間の言葉を捕捉する。
しかし、その補足では、三津谷だけが得をしているような感じもする……いや、そもそも、日向は三津谷よりも成績は下だから、教えてくれる者がいるだけマシか。
本人は星に固執しているようだし、星も俺に勉強を教わりに来た最初の目的は日向に勉強を教えたいということだったから、やっぱり、本当のところは星が日向の勉強を見たいのかもしれないけれど……
「星は特進クラスに移動してから初めてのテストだし、頑張ろうな」
でも、やっぱり、日向に星を渡すことはできない。それが、星の意向とは違ったとしても。
「そうだね。来年も特待生として特進クラスに残りたいし、頑張らないと!」
俺の言葉に頷いて、星は勉強に集中し始めた。
俺も勉強に集中しているフリをしながらも、星の様子を窺ってしまう。
途中、鴉間と目が合い、なんだか生温かい眼差しを向けられた。それから松下さんとも目が合い、どういうわけか、松下さんからも生温かい眼差しを向けられた。
三津谷は意外に真面目に日向に勉強を教えていたが、日向はずっと唸っていた。正直、うるさかった。
星の集中が切れるんじゃないかとドキドキしたが、日向の唸り声を一番気にしていないのは星だった。
よく考えれば、星は毎回、日向のテスト勉強に付き合ってきたのだから、日向の唸り声には慣れていたのだろう。
そうして、連日、生徒会室に集まって勉強を重ねた結果、三津谷の成績が赤点ギリギリじゃなかった。
日向の点数は相変わらず下の下だったが。
「なぁ、日向って毎回、補講を受けているのか? スポーツ推薦とは言えど、大丈夫なのか?」
毎回赤点を取り、補講を受け、最低限の優しいテストを受けて解放されているらしいが、それはいくらスポーツ推薦で入ったとは言えど、大丈夫なのだろうか?
「至ちゃんに求められているのは、サッカーの強豪大学に入ることなんだ。それがこの学校の宣伝になるから……そういう将来性で、成績面はかなり緩くされているみたいだよ」
「やはり、少年漫画の主人公は対応が違うということか……」
「なんか、遥翔くんのそれ、久しぶりに聞いたね」
「うん。少年漫画の主人公は俺たちとは歩む道が違うんだなとは思うけど、だからって羨ましいとは思わなくなったかな」
「遥翔くんなら他のいろんなジャンルの主人公になれるってわかったから?」
「いや、俺はBL漫画の主人公でいいよ」
俺が一番夢中になれるのは星で、この先も夢中になっていたいのは星だから。
こんなくさいことを考えてしまうのも、BL漫画の効果だろうか?
