その日の放課後、自習室で俺は星に生徒会の話をしてみた。
「遥翔くんは生徒会長、蓮くんは副会長になるってこと?」
「まだ正式には決まっていないが、先生からそういう打診があるんだ」
「そうなんだ」
「それで、星には書記か会計になってもらえないかと思って」
「え!? 僕!?」
「俺と鴉間とうまく連携をとって仕事してくれるのは星だと思って」
「でも、僕、先生から何も言われてないし」
「先生としては、星が特進クラスに慣れてからと考えているようなんだけど、俺から見たら、もう星は十分に特進クラスに馴染んでると思うし」
「馴染むことと慣れることは違う気がするけど……でも、遥翔くんたちのおかげで、そんなに大変じゃないよ? むしろ、授業でわからなかったところはすぐに遥翔くんや鴉間くんに聞けて勉強しやすい環境だと思う」
「だよな。最近じゃ、この自習室ではあんまり質問しなくなったもんな」
そこで星は「あ、そっか」と言った。
「遥翔くんが生徒会長になっちゃうと放課後の勉強会はできなくなっちゃうね」
「いや、俺が生徒会長になっても、週の半分くらいは勉強会もしたいと思ってるけど……」
この二人きりの時間がなくなるのは嫌だ。
「普段は大丈夫でも、球技大会や文化祭とか何かイベントがある時にはすごく忙しくなると思うよ?」
「それはそうだけど……」
忙しい時でも鴉間とかに仕事任せたら星と二人きりの時間は取れると思ったが、それを口にすることはできない。
星は真面目だから、きっと俺が他の人間に仕事を押し付けるのとかも嫌がるだろう。
「それなら、やっぱり、星も生徒会に入らないか? それなら、生徒会の仕事の合間に勉強もできるかもしれないだろ?」
「う~ん」と考えているあたり、星は生徒会に入るのが嫌ということはないのだろう。
「何か気になるのか?」
「ん~、これ以上、遥翔くんと一緒にいると女の子たちの妬みが怖いなと思って」
「また、それ? 特進クラスで一緒にいても大丈夫だろう?」
むしろ俺たちがずっと一緒にいるのだから、俺たちの知らないところで女生徒たちに呼び出されるようなこともなく、星の危険は減ったはずだ。
「遥翔くんには僕が大袈裟に怯えているように思えるかもしれないけれど、ちょっと想像してみてよ。僕らと同じくらいの背の高さの鶏がいるとして」
……鶏?
「その鶏に囲まれて、鋭い嘴が全てこっちを向いているの」
巨大な鶏に囲まれ、いつ自分に振り下ろされるかわからない嘴がこちらを向いている……俺は、ゾッとした。
「女の子に囲まれるって、そういう感じなの! 致命傷は負わないだろうとわかってても、いつ突かれるんだろうという緊張感がすごいの!」
真剣だった。星は真剣に女生徒鶏論を語っていた。
ふっと俺は笑ってしまった。
「ちょっと! 笑い事じゃないよ!」
そう言う星の目は涙目だ。俺は笑いながら、星の目尻の涙を指で拭った。
そして、思わず言ってしまった。
「星って、可愛いよな」
そして、頬を膨らませた星にさらに怒られた。
「でも」と星が言った。
「特待生でいるために遥翔くんとの勉強の時間は確保したいし、生徒会のメンバーだったという実績は大学受験の時に役に立つかもしれないから、僕でよければやってみようかな」
「よかった! それなら、明日、先生には俺から言っておくよ!」
「僕も先生のところに一緒に行くよ? 先生からは何か条件を出されるかもしれないし、僕じゃ未熟だって話になるかもしれないから」
自分の問題は自分で受け止めるという。
女生徒の前では子鹿のようだが、こういうところは男らしいというか、しっかりしていると思う。
翌日、俺は星と一緒に生徒会顧問の先生のもとへと行くと、先生は星本人の希望があるなら問題ないと許可してくれた。
あと、ついでに三津谷もやりたいとうるさいので、三津谷も生徒会に加えることを伝えると、先生は少し難色を示した。
いつも赤点ギリギリのところを攻めている三津谷の成績を心配してのことだ。
しかし、それには俺が大丈夫だと伝えた。
三津谷はそういうやつなのだ。忙しくても忙しくなくても、赤点ギリギリ、留年しなければ問題ないだろうと調整しているタイプだ。
俺の話に一旦納得した先生は、少なくとも一名、女性を入れるようにと言った。
女生徒間で問題があった際に、その問題の調査や仲裁に入るのに、生徒会が男性メンバーのみだと困るからだ。
前任の生徒会のメンバーの中から引き続きやってくれる生徒を募ってもいいという話だったが、俺は全員入れ替えることにした。
先生も、俺が生徒会長になるならその方がいいだろうと言っていた。
「ということで、生徒会メンバーに女性を入れなければいけないようだ」
「遥翔にとっては難題だな」
書記を任せることになった三津谷が言った。
三津谷に言われるのはなんだか癪だが、その通りだ。
「誰でもいいの?」
「主要メンバーは決まっているから、生徒会の仕事をすることによって成績が落ちるようなことがなければ誰でもいいと先生は言ってたよ」
鴉間が星の質問に答える。
だから三津谷が入っても問題はない。
生徒会に入ろうと、入るまいと成績は赤点ギリギリをキープするのだから。
「僕が声をかけてみてもいい?」
「星が怖くない女生徒がいいから、むしろ、星の知り合いの方がいいだろう」
「それじゃ聞いてくる」と、星は席を立った。
星を見ていると、松下さんの元へと行った。
「確かに、このクラスにいる女生徒という選択肢しかないからね」
鴉間も、松下さんと話す星を見ながら言った。
「あ、こっち来る」
だらしない格好で椅子に座っていた三津谷が少し背筋を正した。
「松下さん、生徒会メンバーになってくれるって!」
星は松下さんを連れてきてそう言った。
「私でよければお手伝いします」
「ありがとう」と俺は外向きの笑顔で微笑んで見せたが、彼女は頷いただけでその頬を染めることはなかった。
なかなかの逸材だ。
さらに、彼女は軽い挨拶が済んだらさっさと席に戻り、先ほど中断した読書の続きを始めた。
「彼女なら安心だね」
俺の次にモテる鴉間も頷いている。
鴉間の両親は俳優で、お兄さんとお姉さんはモデルだ。
その血を受け継いでいる鴉間自身も整った顔と整った体型で人気は高い。
当然、鴉間にもスカウトは来ているものの、鴉間は芸能界に興味がないのだという。
……いや、興味がないのとは少し違うのかもしれない。
五つ年下の幼馴染に自分が守れないところに行ってはダメだと言われており、その彼の許可が下りないと仕事は選べないと言っていた。
どうやら、束縛が強い幼馴染のようだ。
鴉間もその状況を楽しんでいるようなのでいいのだろうが。
「遥翔くんは生徒会長、蓮くんは副会長になるってこと?」
「まだ正式には決まっていないが、先生からそういう打診があるんだ」
「そうなんだ」
「それで、星には書記か会計になってもらえないかと思って」
「え!? 僕!?」
「俺と鴉間とうまく連携をとって仕事してくれるのは星だと思って」
「でも、僕、先生から何も言われてないし」
「先生としては、星が特進クラスに慣れてからと考えているようなんだけど、俺から見たら、もう星は十分に特進クラスに馴染んでると思うし」
「馴染むことと慣れることは違う気がするけど……でも、遥翔くんたちのおかげで、そんなに大変じゃないよ? むしろ、授業でわからなかったところはすぐに遥翔くんや鴉間くんに聞けて勉強しやすい環境だと思う」
「だよな。最近じゃ、この自習室ではあんまり質問しなくなったもんな」
そこで星は「あ、そっか」と言った。
「遥翔くんが生徒会長になっちゃうと放課後の勉強会はできなくなっちゃうね」
「いや、俺が生徒会長になっても、週の半分くらいは勉強会もしたいと思ってるけど……」
この二人きりの時間がなくなるのは嫌だ。
「普段は大丈夫でも、球技大会や文化祭とか何かイベントがある時にはすごく忙しくなると思うよ?」
「それはそうだけど……」
忙しい時でも鴉間とかに仕事任せたら星と二人きりの時間は取れると思ったが、それを口にすることはできない。
星は真面目だから、きっと俺が他の人間に仕事を押し付けるのとかも嫌がるだろう。
「それなら、やっぱり、星も生徒会に入らないか? それなら、生徒会の仕事の合間に勉強もできるかもしれないだろ?」
「う~ん」と考えているあたり、星は生徒会に入るのが嫌ということはないのだろう。
「何か気になるのか?」
「ん~、これ以上、遥翔くんと一緒にいると女の子たちの妬みが怖いなと思って」
「また、それ? 特進クラスで一緒にいても大丈夫だろう?」
むしろ俺たちがずっと一緒にいるのだから、俺たちの知らないところで女生徒たちに呼び出されるようなこともなく、星の危険は減ったはずだ。
「遥翔くんには僕が大袈裟に怯えているように思えるかもしれないけれど、ちょっと想像してみてよ。僕らと同じくらいの背の高さの鶏がいるとして」
……鶏?
「その鶏に囲まれて、鋭い嘴が全てこっちを向いているの」
巨大な鶏に囲まれ、いつ自分に振り下ろされるかわからない嘴がこちらを向いている……俺は、ゾッとした。
「女の子に囲まれるって、そういう感じなの! 致命傷は負わないだろうとわかってても、いつ突かれるんだろうという緊張感がすごいの!」
真剣だった。星は真剣に女生徒鶏論を語っていた。
ふっと俺は笑ってしまった。
「ちょっと! 笑い事じゃないよ!」
そう言う星の目は涙目だ。俺は笑いながら、星の目尻の涙を指で拭った。
そして、思わず言ってしまった。
「星って、可愛いよな」
そして、頬を膨らませた星にさらに怒られた。
「でも」と星が言った。
「特待生でいるために遥翔くんとの勉強の時間は確保したいし、生徒会のメンバーだったという実績は大学受験の時に役に立つかもしれないから、僕でよければやってみようかな」
「よかった! それなら、明日、先生には俺から言っておくよ!」
「僕も先生のところに一緒に行くよ? 先生からは何か条件を出されるかもしれないし、僕じゃ未熟だって話になるかもしれないから」
自分の問題は自分で受け止めるという。
女生徒の前では子鹿のようだが、こういうところは男らしいというか、しっかりしていると思う。
翌日、俺は星と一緒に生徒会顧問の先生のもとへと行くと、先生は星本人の希望があるなら問題ないと許可してくれた。
あと、ついでに三津谷もやりたいとうるさいので、三津谷も生徒会に加えることを伝えると、先生は少し難色を示した。
いつも赤点ギリギリのところを攻めている三津谷の成績を心配してのことだ。
しかし、それには俺が大丈夫だと伝えた。
三津谷はそういうやつなのだ。忙しくても忙しくなくても、赤点ギリギリ、留年しなければ問題ないだろうと調整しているタイプだ。
俺の話に一旦納得した先生は、少なくとも一名、女性を入れるようにと言った。
女生徒間で問題があった際に、その問題の調査や仲裁に入るのに、生徒会が男性メンバーのみだと困るからだ。
前任の生徒会のメンバーの中から引き続きやってくれる生徒を募ってもいいという話だったが、俺は全員入れ替えることにした。
先生も、俺が生徒会長になるならその方がいいだろうと言っていた。
「ということで、生徒会メンバーに女性を入れなければいけないようだ」
「遥翔にとっては難題だな」
書記を任せることになった三津谷が言った。
三津谷に言われるのはなんだか癪だが、その通りだ。
「誰でもいいの?」
「主要メンバーは決まっているから、生徒会の仕事をすることによって成績が落ちるようなことがなければ誰でもいいと先生は言ってたよ」
鴉間が星の質問に答える。
だから三津谷が入っても問題はない。
生徒会に入ろうと、入るまいと成績は赤点ギリギリをキープするのだから。
「僕が声をかけてみてもいい?」
「星が怖くない女生徒がいいから、むしろ、星の知り合いの方がいいだろう」
「それじゃ聞いてくる」と、星は席を立った。
星を見ていると、松下さんの元へと行った。
「確かに、このクラスにいる女生徒という選択肢しかないからね」
鴉間も、松下さんと話す星を見ながら言った。
「あ、こっち来る」
だらしない格好で椅子に座っていた三津谷が少し背筋を正した。
「松下さん、生徒会メンバーになってくれるって!」
星は松下さんを連れてきてそう言った。
「私でよければお手伝いします」
「ありがとう」と俺は外向きの笑顔で微笑んで見せたが、彼女は頷いただけでその頬を染めることはなかった。
なかなかの逸材だ。
さらに、彼女は軽い挨拶が済んだらさっさと席に戻り、先ほど中断した読書の続きを始めた。
「彼女なら安心だね」
俺の次にモテる鴉間も頷いている。
鴉間の両親は俳優で、お兄さんとお姉さんはモデルだ。
その血を受け継いでいる鴉間自身も整った顔と整った体型で人気は高い。
当然、鴉間にもスカウトは来ているものの、鴉間は芸能界に興味がないのだという。
……いや、興味がないのとは少し違うのかもしれない。
五つ年下の幼馴染に自分が守れないところに行ってはダメだと言われており、その彼の許可が下りないと仕事は選べないと言っていた。
どうやら、束縛が強い幼馴染のようだ。
鴉間もその状況を楽しんでいるようなのでいいのだろうが。
