【完結。一気読み推奨☆】ただのハイスペックなモブだと思ってた

それから数ヶ月後、進級した俺たちは二年生になった。

 今年から、星も俺たちと同じ特進クラスになる。
 冬休みの間は家のほうの行事で色々と忙しかったが、春休みには何度か星と本屋に行ったりした。あの、普通じゃない本屋ではなく、普通の本屋に参考書を探しに行ったりした。

 高校二年新学期初日、この日を楽しみにしていた俺は早めに登校した。

「おはよう。遥翔」

 幼稚園からの腐れ縁の幼馴染の三津谷が声をかけてきた。

「さっきからそわそわしてどーした?」

 俺はつい教室の扉に向いてしまう目を窓の外へと向けた。

「そわそわなんて、してないよ」
「そんなこと言って~、星のこと待ってるんでしょ~?」
「っ!?」

 三津谷は意地の悪いところがある。
 俺の星への気持ちに気付いてからというもの、こうして揶揄ってくるのだ。

 ガラッと扉が開く音がして、三津谷が「あ」と言って、俺は慌てて扉へと視線を向ける。

「蓮じゃん!」

 教室に入ってきたのは俺のもう一人の幼馴染、鴉間だった。
 三津谷はニヤニヤとしながら俺を見る。
 俺は苛立ちながらも三津谷を睨むにとどめてまた窓の外の空へと視線を向ける。

 すると、三津谷が今度は俺が聞きたい名前を言った。

「星」

 俺は三津谷に翻弄されまいと、青い空を睨む。

「遥翔。星、来たよ」
「……」
「な~、遥翔。星、来たってば」
「……」
「はると~」
「うるさい! もうお前の言葉には騙されないからな!」

 そう三津谷を睨んだのだが、三津谷の横、鴉間の背中に隠れるように星がいた。

「おはよう。遥翔くん」
「……葛城、おはよう」
「教室の前でうろうろしてたから一緒に入ってきた」

 鴉間が言う。

「特進クラスってお金持ちの子達ばかりだから、なんか緊張しちゃって」

 特進クラスは自ずと学習に金銭をかけられる財力のある家の子供たちが来ることが多く、自然と一般家庭の子供とで分かれてしまう。
 星は努力の結果、特進クラスを勝ち取っている。なんだか、俺まで誇らしい気持ちになる。

「それで、教室に入りづらかったのか?」
「うん」
「それなら、俺を呼んでくれればよかったのに」
「でも、鴉間くんが声をかけてくれてよかった」

 鴉間は無口だが、俺へのアシストは三津谷よりうまい。

「今日から同じクラスだな」

 三津谷がニヤニヤしているがもう気にならない。
 俺が星に右手を差し出すと、星は俺の手を握ってくれる。

「よろしくね。遥翔くん」

 俺は星の手を握った自分の手に力を込めたが、そんな俺たちの手を三津谷が両手で包むように握ってきた。

「星! 今日からは俺と鴉間とも仲良くしてくれよな!」
「こちらこそ、よろしくね」

 星に対する三津谷の馴れ馴れしい様子は気になるが、それを上回って、星と同じクラスになれたことが単純に嬉しい。
 そして、同じクラスになったからには、当然、俺は星との距離をもっと縮めるつもりでいた。
 そのために、色々と計画をしていた。

「えっと、席は……」

 星はきょろきょろと教室の中を見回す。

「星、黒板見て」

 黒板には、自由な席に座るようにとの一文があった。

「自由な席?」
「そう。だから、星は俺の隣に座って?」
「うん……特進クラスって変わってるんだね。生徒に自由な席を選ばせるなんて」
「そう? 学習に集中するためには、自分の好きな場所で、好きな人間に囲まれていたほうがいいから、全くおかしくないよ?」

 実はこの自由席スタイル、俺が年明けから先生方にプレゼンした結果だ。
 学習能力を向上させるためには、歩き回ったりしながら脳への血流を高めることがいいのだが、実際問題として教室内を歩き回りながら授業を受けるわけにはいかないため、せめて、集中できる状態をできるだけ自分で選べるようにして欲しいと提案したのだ。

「そっか。それもそうだね」

 先生も星も俺の言葉を一ミリも疑わずに信じてくれる。
 これはこれまで品行方正に過ごしてきた成果だろう。

 三津谷だけは相変わらずニヤニヤしてるけどな。

「じゃ、俺は遥翔の後ろの席にす~わろ」
「……」

 三津谷は俺の後ろの席に、鴉間は星の後ろの席に座った。
 こうして、俺たちの教室での布陣が決まった。

 ちなみに、俺が窓際の席で星はその隣だ。
 人気の窓際の席を星に譲ってあげたかったけれど、窓からはグラウンドが見える、そこから日向の姿が見えるかもしれないと思ったら、譲る気になれなかった。
 心の狭い俺を許してほしい。