【完結。一気読み推奨☆】ただのハイスペックなモブだと思ってた

「にしても、日向って本当にすごいのな。ボールを自分の手足みたいに自由に動かして、簡単にディフェンス抜いてる。あんなの高校生のレベルじゃないよな」

 三津谷が余計なことを言った。そう。実は、すでに試合は始まっていた。
 しかし、俺はあえて星にそれを伝えなかったのだ。
 俺にとってもトラウマになっている話をされても、鴉間と三津谷の言葉を遮らなかったのはそのためだ。

「三津谷くんは至ちゃんのすごさがわかるんだね。羨ましいな」

 星の言葉に俺と鴉間、三津谷は星を見た。
「羨ましい」とはどういう意味だろうか?

 日向のことを親の次に一番よく知っているのが星ではないのだろうか?

「星は日向がすごい選手だというのは知っているんだよな?」
「知ってるよ。でも、それはこれまでの至ちゃんのコーチとかチームメイトがそう言ってたからだよ。僕は運動はからっきしだから、僕の目で見て、至ちゃんの技術がすごいとかはわからないんだ」

 なるほど。確かに、これまでも日向の学力のサポートをしたいとか、海外で活躍する時のために自分が語学を学んでおきたいとかは言っていたけれど、日向のマネージャーのようなことがしたいということは言ったことがなかった。

「そういえば、星はサッカー部のマネージャーになろうとは思わなかったんだね。技術面がわからないとかいうことが原因なの?」
「そうだね。それに、僕はサッカー自体には興味ないし、他の選手のことも全然わからないからね」

 完全に幼馴染のことしか見えてないのだろう。それはマネージャーには向かない。
 でも、それって……

「極論を言えば、日向がサッカー選手じゃなくても支えたいってこと?」

「そうだね」と星は笑った。

「やっぱり、日向が羨ましいな」

 少年漫画の主人公じゃなくなっても、支えてくれる人がいるなんて、羨ましすぎる。
 しかも、その相手が俺の好きな人だなんて、酷い現実だ。

「でも、それなら、星はさっきから何をメモしていたの?」

 鴉間が星に聞いた。
 先ほどからたびたびスマホに何かを打ち込んでいるとは思ったけれど、どうやら何かメモを取っていたようだ。

「どこの大学のコーチが見に来ているのか、どの選手を見ているのかをメモしていたんだよ」

 俺たちは星の言葉に驚いた。

「顔を見て、どこの大学のコーチかわかるってこと?」

 試合の状況、選手の動きがわからないのに、大学のコーチの顔を覚えているということか?

「至ちゃんはまだどこの大学に行きたいとかは決めてないけど、行きたい大学からスカウトされるとは限らないし、真正面から試験を受けて受かるとも限らないから、どこの大学が至ちゃんに興味を持ってくれているのかを知るために、サッカーが強い大学のコーチやサブコーチ、その大学の部長やプロに行きそうな選手の顔とかは覚えるようにしてるんだ」

 そこまでくると、嫉妬を通り越して唖然とした。
「これもある種の才能かな」と鴉間が苦笑している。
「俺にはぜってー無理」と三津谷はちょっと引いているようだ。

 俺は星との付き合いが二人よりも長い分、驚きのほうが大きい。
 星は本人が言う通り、平凡だ。平凡な少年だったはずだ。でも、実は違っていたのかもしれない。

 俺が思っていたよりも、ずっと、星は他者のサポートに向いている……
 いや、これはもはや、案内人じゃないだろうか?
 ただ相手を支えているだけでなく、どの道を行ったらどういう未来があるのか、そこまで案内できそうな情報を集めているのだ。

「星、俺の将来の案内人もやってみない?」
「ちょっと神乃くん! その呼び方ダメだってば!」
「星も呼び方戻ってるよ?」
「これは慣れてないから! 遥翔くんも呼び方気をつけてよ!」
「わかったよ。それで、俺の将来の案内人もやってみない?」

 俺は同じ言葉を言った。

「案内人って何? なんのこと?」
「星はまるで日向くんがプロサッカー選手になるための案内人みたいって話だよ」

 鴉間が簡潔に説明した。
 そう。星がやっていることは、日向が間違った道に進まないように、遠回りをせずに、無事に彼が行きたい道を進めるようにする案内人みたいだと思った。

「僕はそんなすごい存在じゃないよ」

 星は眉尻を下げて少し困ったように笑う。

「それに、至ちゃんは昔からなりたいものが変わらなくてわかりやすいから僕も前もって調べることができるんだ」

 星の目が、俺を見透かすように俺をじっと見る。

「遥翔くんは、何になりたいの?」

 確かに、俺がなりたいものがわからなければ、星は案内のしようもないだろう。

「俺は……」

 星の恋人になりたい。
 そんなこと、言えないし、今一番、言ってはいけない言葉だ。
 星の恋人になるために星に案内させるとかなんだよ?
 そこは俺が死ぬほど努力しなければいけないだろう。

「ごめん。まだ、わからないや」

 案内人になってほしいなんて言いながら、どこに案内してほしいのかさえ、俺は決めることができていない。

「それなら、大学を決めるまでに、どういう方向に進むのかだけでも考えておくといいかもしれないね」
「進む方向?」
「前も言ったけど、遥翔なら色んな可能性があるよね。お父さんの仕事を継ぐこともできるし、芸能人になることも、研究者になることもできそう」
「確かに、遥翔なら何にでもなれそうだな」

 そう鴉間も頷く。

「もし、将来的にお父さんの仕事を継いで社長になるのなら、神乃グループ企業の仕事をより深く理解できる分野に進んだほうがいいでしょ? 芸能界なら、芸術系や文化系に進んだほうが仕事に活かせそうだし、研究者になるならそれこそ大学を真剣に選ばないと。研究分野だけでなく、その大学にいる先生がどんな人なのかも知っておいたほうがいいと思うよ。入学してから学びたい分野の先生と考えや性格が合わないとか、つまらないことで研究が進まなくなる可能性もあるからね」

 星の言葉に俺は驚いた。
 まだ何も考えていない俺に、ここまでしっかりとアドバイスしてくれるなんて、星はやっぱりすごい。

「遥翔が日向に嫉妬したのがわかったよ」
「だな! 星がいたら、なんか未知の将来の中で迷子にならなくてもいい気がする!」

 鴉間と三津谷がそんなことを言った。

「俺の星は誰にもやらないからな?」

 俺はすぐに牽制した。

「遥翔くん、呼び方戻ってるし、それに、僕は誰のものでもないからね!」

 誰のものでもない……そうか、星の中では、自分が日向のものだという認識でもないのだ。
 それなら、俺にもまだ可能性はあるだろうか?
 ……いや、なくても、諦めないけど。