そうしてあっという間にクリスマスになった。
「おお! 俺、学校の部活の試合観戦とか初めて来る!」
そう騒いでいるのは、特進クラスのクラスメイトであり、俺の幼馴染というか腐れ縁の三津谷暁良だ。
「俺も初めてだ。今日はよろしくね。葛城くん」
そう葛城にちゃんと挨拶しているのはもう一人の幼馴染、鴉間蓮。
鴉間はうるさくないので、幼馴染としてちゃんと認識してやってもいいと思っている。
「鴉間くんも三津谷くんもよろしくね。それに、ごめんね。僕が神乃くんを誘っちゃったばかりに、クリスマスパーティーできなくて」
今朝、「サプラーイズ!」とか言って突然家にやってきたのがこの二人だった。絶対に三津谷の案だ。
俺には絶対に用事などないと踏んで、二人はクリスマスパーティーをしようと言ってきたのだが、あいにく用事があると言うと、ついてきてしまった。
「そんなの気にすんなよ! 神乃はこういうの苦手だろうけど、俺はスポーツ観戦好きだから!」
「やっぱり、神乃くんはスポーツ観戦とかそんなに好きじゃなかったよね。ごめんね」
「俺が葛城と遊びたかったんだからいいんだよ! 三津谷、余計なこと言うな!」
俺はそう三津谷に文句を言ったが、俺が文句を言う前に鴉間に無言で叩かれたようで、三津谷は頭を押さえて座り込んでいた。
「三津谷くん、大丈夫!?」
葛城が三津谷を心配するが、三津谷に対してはそんな心配は無用だ。
「葛城、三津谷のことは気にしなくても大丈夫だよ」
そう俺が声をかけても優しい葛城は心配そうに三津谷を見つめている。
葛城に心配されるとか、三津谷は贅沢すぎるのではないだろうか?
「葛城くん、大丈夫だ。三津谷は丈夫だから」
鴉間がそう言うと、葛城は鴉間を見つめ、それから「そっか。それならよかった」と微笑んだ。
「どうして鴉間の言葉は信用するんだ?」
「なんだろう。鴉間くんの落ち着いた雰囲気かな? すごく安心感がある」
確かに、鴉間は落ち着いているが、それでも、葛城が信用すべきは友達の俺の言葉ではないだろうか?
「神乃くんは僕を揶揄う時もあるから、言葉の信用度はそれほど高くないかも?」
それは衝撃の真実だった。
「そうだな。葛城は俺の言葉を信じたらいいと思うよ」
鴉間が葛城の頭を撫で、葛城はなぜか頬を赤くした。
「葛城、鴉間に懐きすぎじゃないか?」
「僕、一人っ子だからかな? 鴉間くんみたいなお兄ちゃんがいたらなってなんか憧れちゃった」
「鴉間、末っ子だぞ?」
大袈裟にしゃがみ込んでいた三津谷が立ち上がった。
「そうなの? 鴉間くんはすごく大人なんだね!」
末っ子だとバラされても評価が爆上がりなんだが?
「俺もお兄ちゃんっぽさを鍛えておけばよかった!」
「神乃くんは末っ子感ある」
「いや、一人っ子だけど?」
「俺は三人兄弟の真ん中!」
三津谷の言葉に葛城は「それっぽい!」と笑った。
そんな他愛もない話をしながら、俺たちはサッカーの試合がある会場へと入った。
「そういえば、葛城は特待生に選ばれたから、来年は特進クラスに来るんだろう?」
鴉間の言葉に三津谷が「特待生とかすげぇよな! 俺は絶対無理!」とか言っている。
こいつは本当に特進クラスの一員なのだろうかと疑わしくなるくらいに勉強に不真面目だ。
しかし、頭が悪いわけじゃないところが面白くない。
「うん。特進クラスも二クラスあるから、同じクラスになれるかわからないけど、よろしくね」
「多分大丈夫だろう」
「そうだな。遥翔のおかげで、うちらの学年の特進クラスはほぼ男女で分かれてるから」
「どういうこと?」
「一年の特進クラスが後期が始まる時にクラス替えしたの知ってるだろう?」
「うん。前代未聞のことだって噂では聞いたよ」
「その原因が、遥翔なんだ。遥翔がいるクラスの女子の成績が極端に低かったんだよ」
葛城が唖然とし、俺に視線を向ける。
「言っておくけど、別に俺は何もしていないからな?」
勝手に成績を落としておいて、俺のせいとか言われても困る。
「特進クラスに入ったからには彼女たちだって馬鹿じゃないし、先生たちだって平均どれくらいの成績が取れるか考えている。その先生たちの想定を遥かに下回ったことによって、完璧イケメンがいることがクラスにとってどれだけ害悪なのかがわかったんだ」
三津谷が笑いながらそんな説明をした。
害悪とか、ひどい言い様だ。
俺たちは観覧席に来たが、サッカー部のエースの友達枠として抑えられていた席だったためか、周囲に女子はいない良い席だった。
この席のことをわかっていたから、葛城は俺のことを誘ってくれたのかもしれない。
「うちのクラスは今はほぼ男子とそれから恋愛とかには興味のないタイプの女子が数名って感じのクラスになってるし、それはきっと来年も変わらないはずだ」
「そっか、それなら安心……なのかな?」
最近、俺がよくつるんでいる相手として、葛城はそれなりに女生徒たちに知られているから、特進クラスに来た時にどんな目で見られるのかを心配していたのかもしれない。
「あ、でも、僕が神乃くんたちと一緒のクラスになれるとは限らないよね?」
葛城はハッとした顔をしてそんなことを言ったけれど、それを鴉間と三津谷が否定する。
「「葛城は絶対にこっちのクラスになるから大丈夫!」」
「……どうして?」
「葛城は遥翔のお気に入りだからな!」
「女生徒が多いクラスのほうに放り込んだらどうなるかなんて、教師たちもわかってるよ」
「そっか……」と納得した葛城の顔は青い。
「ちゃんと俺が守るから、怖がらなくても大丈夫だよ」
「よろしくお願いします」
「というか、三津谷も鴉間も葛城のことを呼び捨てにするの早すぎだろ?」
俺なんて数ヶ月もかかったのに。
「葛城、嫌か?」
鴉間が葛城に真摯な瞳を向ける。
やめろ。葛城は何故か鴉間に弱い。
「嫌じゃないよ。自由に呼んで」
ほら!
「それなら、俺は星って呼ぼうかな~」
軽薄な男、三津谷が言った。
「俺だって下の名前で呼んだことないんだからやめろ!」
いつかは俺だって葛城の下の名前で呼びたいけれど、三津谷が先に呼ぶのは納得できない。
「急に下の名前で呼ばれるの緊張するけど、別に嫌じゃないよ?」
葛城が照れていて可愛い。
「そ、それじゃ、俺も葛城のこと、下の名前で呼ぼうかな……」
「いいよ。別に」
「それなら、葛城……星も、俺のこと、下の名前で呼ぶ?」
星って呼べるのも嬉しいけど、星に下の名前で呼んでもらえるのもめちゃくちゃ嬉しい。
「いや、俺はこれまで通り、神乃くんって呼ぶよ」
「なんでだよ!!」
「恥ずかしいんだもん! それに、女の子たちの妬みがやっぱり怖いんだよ!!」
「女子たちの妬みっていう意味では、遥翔から下の名前で呼ばれるほうが危険だぞ?」
三津谷が余計なことを言う。
「どうして?」と星が首を傾げた。
「俺たちは幼稚園の時からの腐れ縁なんだけど、その縁で俺たちは遥翔のことを下の名前でずっと呼んでるし、遥翔も最初は俺たちのことを下の名前で呼んでたんだけど、小学校の頃に俺が女子たちから呼び出しくらって、なんでお前なんかが遥翔くんから親しそうに名前で呼ばれてるんだみたいな難癖つけられたんだよ」
「こ、こわ……」
「彼女たちからしたら、こちらが遥翔のことをなんと呼ぼうがこちらの意思で変わることだから気にしなかったんだろうけど……彼女たちも遥翔のことを苗字で呼ぼうが下の名前で呼ぼうが好きにしてるわけだし……でも、遥翔が誰かの名前を親しく呼ぶのは、遥翔の意思によるところだからね」
「……女の子って、頭いいよね」
「それな! 俺、最初、何で文句言われてるのか全然わからなかったもん!」
「小学生の時って、男子と女子の知力や感受性って、圧倒的に女子のほうが上回っている気がするよね」
俺はその後、そうしたことがある種のトラウマになり、三津谷のことも鴉間のことも苗字でしか呼ばなくなったのだ。
しかし、星のことは許可が下りたならこのまま下の名前で呼びたいのだが!?
「そうか、わかったよ。それじゃ、僕も覚悟を決めるね」
星が神妙な顔で言った。
「神乃くんは僕のことはこれまで通り、苗字で呼んで」
やっぱりか! しかし、それなら、星が決めた覚悟とはなんだ?
「その代わり、僕が神乃くんのこと、遥翔くんって呼ぶことにする!」
「え……いいの?」
「うん。だから、遥翔くんは僕のこと、絶対に下の名前で呼んじゃダメだよ?」
星の声が切実だ。
俺としても、星のことを危険に晒したいわけではないので、「わかった」と頷いた。
しかし、心の中で星のことを下の名前で呼ぶことはやめない。
一度許可されたんだから、心の中でくらい許されるだろう。
「おお! 俺、学校の部活の試合観戦とか初めて来る!」
そう騒いでいるのは、特進クラスのクラスメイトであり、俺の幼馴染というか腐れ縁の三津谷暁良だ。
「俺も初めてだ。今日はよろしくね。葛城くん」
そう葛城にちゃんと挨拶しているのはもう一人の幼馴染、鴉間蓮。
鴉間はうるさくないので、幼馴染としてちゃんと認識してやってもいいと思っている。
「鴉間くんも三津谷くんもよろしくね。それに、ごめんね。僕が神乃くんを誘っちゃったばかりに、クリスマスパーティーできなくて」
今朝、「サプラーイズ!」とか言って突然家にやってきたのがこの二人だった。絶対に三津谷の案だ。
俺には絶対に用事などないと踏んで、二人はクリスマスパーティーをしようと言ってきたのだが、あいにく用事があると言うと、ついてきてしまった。
「そんなの気にすんなよ! 神乃はこういうの苦手だろうけど、俺はスポーツ観戦好きだから!」
「やっぱり、神乃くんはスポーツ観戦とかそんなに好きじゃなかったよね。ごめんね」
「俺が葛城と遊びたかったんだからいいんだよ! 三津谷、余計なこと言うな!」
俺はそう三津谷に文句を言ったが、俺が文句を言う前に鴉間に無言で叩かれたようで、三津谷は頭を押さえて座り込んでいた。
「三津谷くん、大丈夫!?」
葛城が三津谷を心配するが、三津谷に対してはそんな心配は無用だ。
「葛城、三津谷のことは気にしなくても大丈夫だよ」
そう俺が声をかけても優しい葛城は心配そうに三津谷を見つめている。
葛城に心配されるとか、三津谷は贅沢すぎるのではないだろうか?
「葛城くん、大丈夫だ。三津谷は丈夫だから」
鴉間がそう言うと、葛城は鴉間を見つめ、それから「そっか。それならよかった」と微笑んだ。
「どうして鴉間の言葉は信用するんだ?」
「なんだろう。鴉間くんの落ち着いた雰囲気かな? すごく安心感がある」
確かに、鴉間は落ち着いているが、それでも、葛城が信用すべきは友達の俺の言葉ではないだろうか?
「神乃くんは僕を揶揄う時もあるから、言葉の信用度はそれほど高くないかも?」
それは衝撃の真実だった。
「そうだな。葛城は俺の言葉を信じたらいいと思うよ」
鴉間が葛城の頭を撫で、葛城はなぜか頬を赤くした。
「葛城、鴉間に懐きすぎじゃないか?」
「僕、一人っ子だからかな? 鴉間くんみたいなお兄ちゃんがいたらなってなんか憧れちゃった」
「鴉間、末っ子だぞ?」
大袈裟にしゃがみ込んでいた三津谷が立ち上がった。
「そうなの? 鴉間くんはすごく大人なんだね!」
末っ子だとバラされても評価が爆上がりなんだが?
「俺もお兄ちゃんっぽさを鍛えておけばよかった!」
「神乃くんは末っ子感ある」
「いや、一人っ子だけど?」
「俺は三人兄弟の真ん中!」
三津谷の言葉に葛城は「それっぽい!」と笑った。
そんな他愛もない話をしながら、俺たちはサッカーの試合がある会場へと入った。
「そういえば、葛城は特待生に選ばれたから、来年は特進クラスに来るんだろう?」
鴉間の言葉に三津谷が「特待生とかすげぇよな! 俺は絶対無理!」とか言っている。
こいつは本当に特進クラスの一員なのだろうかと疑わしくなるくらいに勉強に不真面目だ。
しかし、頭が悪いわけじゃないところが面白くない。
「うん。特進クラスも二クラスあるから、同じクラスになれるかわからないけど、よろしくね」
「多分大丈夫だろう」
「そうだな。遥翔のおかげで、うちらの学年の特進クラスはほぼ男女で分かれてるから」
「どういうこと?」
「一年の特進クラスが後期が始まる時にクラス替えしたの知ってるだろう?」
「うん。前代未聞のことだって噂では聞いたよ」
「その原因が、遥翔なんだ。遥翔がいるクラスの女子の成績が極端に低かったんだよ」
葛城が唖然とし、俺に視線を向ける。
「言っておくけど、別に俺は何もしていないからな?」
勝手に成績を落としておいて、俺のせいとか言われても困る。
「特進クラスに入ったからには彼女たちだって馬鹿じゃないし、先生たちだって平均どれくらいの成績が取れるか考えている。その先生たちの想定を遥かに下回ったことによって、完璧イケメンがいることがクラスにとってどれだけ害悪なのかがわかったんだ」
三津谷が笑いながらそんな説明をした。
害悪とか、ひどい言い様だ。
俺たちは観覧席に来たが、サッカー部のエースの友達枠として抑えられていた席だったためか、周囲に女子はいない良い席だった。
この席のことをわかっていたから、葛城は俺のことを誘ってくれたのかもしれない。
「うちのクラスは今はほぼ男子とそれから恋愛とかには興味のないタイプの女子が数名って感じのクラスになってるし、それはきっと来年も変わらないはずだ」
「そっか、それなら安心……なのかな?」
最近、俺がよくつるんでいる相手として、葛城はそれなりに女生徒たちに知られているから、特進クラスに来た時にどんな目で見られるのかを心配していたのかもしれない。
「あ、でも、僕が神乃くんたちと一緒のクラスになれるとは限らないよね?」
葛城はハッとした顔をしてそんなことを言ったけれど、それを鴉間と三津谷が否定する。
「「葛城は絶対にこっちのクラスになるから大丈夫!」」
「……どうして?」
「葛城は遥翔のお気に入りだからな!」
「女生徒が多いクラスのほうに放り込んだらどうなるかなんて、教師たちもわかってるよ」
「そっか……」と納得した葛城の顔は青い。
「ちゃんと俺が守るから、怖がらなくても大丈夫だよ」
「よろしくお願いします」
「というか、三津谷も鴉間も葛城のことを呼び捨てにするの早すぎだろ?」
俺なんて数ヶ月もかかったのに。
「葛城、嫌か?」
鴉間が葛城に真摯な瞳を向ける。
やめろ。葛城は何故か鴉間に弱い。
「嫌じゃないよ。自由に呼んで」
ほら!
「それなら、俺は星って呼ぼうかな~」
軽薄な男、三津谷が言った。
「俺だって下の名前で呼んだことないんだからやめろ!」
いつかは俺だって葛城の下の名前で呼びたいけれど、三津谷が先に呼ぶのは納得できない。
「急に下の名前で呼ばれるの緊張するけど、別に嫌じゃないよ?」
葛城が照れていて可愛い。
「そ、それじゃ、俺も葛城のこと、下の名前で呼ぼうかな……」
「いいよ。別に」
「それなら、葛城……星も、俺のこと、下の名前で呼ぶ?」
星って呼べるのも嬉しいけど、星に下の名前で呼んでもらえるのもめちゃくちゃ嬉しい。
「いや、俺はこれまで通り、神乃くんって呼ぶよ」
「なんでだよ!!」
「恥ずかしいんだもん! それに、女の子たちの妬みがやっぱり怖いんだよ!!」
「女子たちの妬みっていう意味では、遥翔から下の名前で呼ばれるほうが危険だぞ?」
三津谷が余計なことを言う。
「どうして?」と星が首を傾げた。
「俺たちは幼稚園の時からの腐れ縁なんだけど、その縁で俺たちは遥翔のことを下の名前でずっと呼んでるし、遥翔も最初は俺たちのことを下の名前で呼んでたんだけど、小学校の頃に俺が女子たちから呼び出しくらって、なんでお前なんかが遥翔くんから親しそうに名前で呼ばれてるんだみたいな難癖つけられたんだよ」
「こ、こわ……」
「彼女たちからしたら、こちらが遥翔のことをなんと呼ぼうがこちらの意思で変わることだから気にしなかったんだろうけど……彼女たちも遥翔のことを苗字で呼ぼうが下の名前で呼ぼうが好きにしてるわけだし……でも、遥翔が誰かの名前を親しく呼ぶのは、遥翔の意思によるところだからね」
「……女の子って、頭いいよね」
「それな! 俺、最初、何で文句言われてるのか全然わからなかったもん!」
「小学生の時って、男子と女子の知力や感受性って、圧倒的に女子のほうが上回っている気がするよね」
俺はその後、そうしたことがある種のトラウマになり、三津谷のことも鴉間のことも苗字でしか呼ばなくなったのだ。
しかし、星のことは許可が下りたならこのまま下の名前で呼びたいのだが!?
「そうか、わかったよ。それじゃ、僕も覚悟を決めるね」
星が神妙な顔で言った。
「神乃くんは僕のことはこれまで通り、苗字で呼んで」
やっぱりか! しかし、それなら、星が決めた覚悟とはなんだ?
「その代わり、僕が神乃くんのこと、遥翔くんって呼ぶことにする!」
「え……いいの?」
「うん。だから、遥翔くんは僕のこと、絶対に下の名前で呼んじゃダメだよ?」
星の声が切実だ。
俺としても、星のことを危険に晒したいわけではないので、「わかった」と頷いた。
しかし、心の中で星のことを下の名前で呼ぶことはやめない。
一度許可されたんだから、心の中でくらい許されるだろう。
