ただのハイスペックなモブだと思ってた

 青い空に白い雲。おそらく、この空を気持ちがいいと思う人が大半であろう世の中で、大半の人間が一生に一度乗るか乗らないか、多分乗らないリムジンに毎日乗って、送り迎えされる自分の人生が非常につまらないもののように感じる。

 校門前に車が止まり、俺が降りると、いつからそこで待っていたのか、校門前にずらりと並んだ女生徒たちが俺を取り囲んで口々に賛辞を寄せてくる。
 おそらく、毎日、同じようなメンバーであろうに、よくも似たような賛辞の言葉を毎日言えたものだと呆れながら、それを顔に出すことなく俺は得意な作り笑いで受け流していく。

 財閥の御曹司で、眉目秀麗、文武両道。それが周囲からの評価で、現実世界では人生楽勝らしく、会う人、会う人から羨ましがられる。

 でも、なんでもできるってさ、できないことに挑戦できないってこと。
 某有名漫画雑誌のヒーロー達みたいな主人公にはなれっこないってことなんだ。

 勉強や習い事の合間に繰り返し読んだ漫画のヒーロー達は俺に沢山の感情をくれた。
 ワクワクしたり、ドキドキしたり、感動したり、怒ったり、泣いたり、悔しい思いだったり……

 読者として、主人公の傍観者としてそれだけの思いを味わえるなら、実際に自分が主人公になったら、どれだけの感情を味わうことができるんだろう?

 だけど、この十六年間で、漫画や小説や映画から味わったほどの感動を実体験で味わったことが一度もない。
 そして、俺は気づいた。物語の主人公には俺みたいなやつがいないということに。

 物語自体に登場することはあっても、それはいつも脇役だった。
 主人公の友達とか仲間とかそういうポジションでさえない。主人公からちょっと距離のある脇役。
 いわばモブと言われる存在だ。

「っしゃー!」

 そして、俺の高校時代の主人公はきっとあいつ。グラウンドで叫んでいる日向(ひゅうが)(いたる)

 この学校で俺の次……いや、俺の友達に顔のいい奴がいるから、その次くらいだろうか?
 まぁ、とにかく、この学校で三番目くらいに顔が良くて、スポーツ万能。でも、成績は下の下で、いつも教師たちから小言を言われている。
 一般家庭の出で、この高校にはスポーツ推薦で入学したらしい。

 実に物語の主人公らしい設定だ。

「あー! 神乃(じんの)!!」

 主人公様がモブキャラの俺を呼ぶ。

「この前のバスケの試合、俺はまだ負けを認めたわけじゃないからな!!」

 主人公様は財閥と一般市民との垣根を容易に越えて、俺の肩を強く掴む。
 俺はモブキャラらしく、その手を払い除けて、主人公様に余裕の笑みを見せてみる。

「葛城に止められてなかったら惨敗してただろうによく言うよ」
「な、俺がお前に惨敗なんてするわけないだろ!?」
「至ちゃん、もう教室戻らないと! チャイム鳴っちゃうよ?」

 俺と日向の間でオロオロしているのが葛城(かつらぎ)(ほし)
 前髪が長めで、メガネをかけた猫背の男子ではあるけれど、日向の幼馴染で世話焼きという親友ポジションだ。

「神乃くん。いつもごめんね」
「お前も大変だな」

 小声で俺に謝る葛城の頭を俺はくしゃりと撫でる。

「星! 早く行こうぜ!」

 グラウンドのベンチで二人分のカバンを持った日向が葛城を呼ぶ。

 あいつは主人公で、葛城は親友だから、主人公とセットで行動するのは当然のことだが、ああもそれが当然のような顔をされていると、少し面白くなくて、モブなのに、俺は思わず葛城の腕を掴んで引っ張った。

「また放課後な」
 そう耳打ちすると、葛城の白かった耳が赤く染まった。