また明日




篠宮に連れられるまま薄暗い廊下を進んだ後、辿り着いたのは池がある庭とはちょうど反対に位置する東屋だけが置かれた場所。

奥の椅子に座りタバコを吸い始めた篠宮の前に座った冬弥。紫煙が空気に溶けた

「…………観測に、勘付かれたかもしれねぇ。」
「確証は?」
慌てるどころか顔色ひとつ変えずに答える冬弥。
「ねぇな」
あっさりと返した篠宮に目を細めた。
「だが……」
煙を吐き出し、真剣な目で見てくる。
「アイツらの動きが妙だな。必要以上に探ってきやがる。」
「……」
何を考えるのか分からない。だけど、それさえも冬弥にとっては「想定内」だったに違いない。
「観測の奴らが動く理由は、ひとつだろ?」
「そうだな。」

静寂。
チラつく一人の男の姿。
だが……
「それでも、俺は辞めるつもりも諦めるつもりも無いよ」
「……だろうな。」
篠宮のその諦めたような、それでいて何かを飲み込むような表情に、冬弥も思う事がない訳では無い。
だからこそ
「無茶はしないから。」
「何言ってんだ、当たり前だ。」
キツく言いきられるが、それこそ篠宮の優しさ。
昔の彼だったら想像も出来ない。でも、同じだからこそ分かる、葛藤。唯一無二を見つけたからこそ、諦められない。
「こっちも動く。だから、負けんなよ」
二人はそこそこ長い付き合いだ。それこそ血の繋がりは無いが実の親や兄弟達より長く共にいる。
そんな二人だからこそ切れない絆がある。
「……ありがとう、千景兄さん」
「なら、あんまり心配かけさせんな。」


三十分きっちりに篠宮のケイタイに霧崎から「取りに来い」と連絡が入り、技術課へと戻る途中、冬弥は半開きの扉を見つけた。そこは「観測課」。

通り過ぎざまに見えた人影。背を向けていた筈なのに、瞬きの間に振り返って居た人物の目が鋭い光を帯びていた事に気が付いた。

逃がさない。

そう言われているような、獰猛で鋭い目。
ぞわりと感じた悪寒に早足で篠宮を追いかけた。


「ほら、これで大丈夫だ。あとは、もう少し丁寧に使え。」
霧崎から受け取った短刀は確かにメンテナンス前よりも軽く思えた。
怪異との戦闘時に使うこの短刀は冬弥の専用の武器で、幼い頃からずっと使っている物だ。
「ありがとうございました。」
素直にお礼を伝える。
「……」
「どうしました?」
ジッと見てきた霧崎。少し仰け反りながら見下ろすと、霧崎は小さく「その選択がいい方とは限らない」と呟いて離れる。そのまま別れの言葉もなく扉を閉めてしまったから、先程の事について聞き返す事が出来ない。
「……分かってますよ。」
冬弥も静かに返事をするが、それを見ていた篠宮は足音が聞こえて振り返ると、「千景」と低い声がした事に気がつく。
「あ?ハルは終わったのか?」
「ああ、終わったよ、篠宮さん。」
黒瀬の代わりに答えたのは、ヘロヘロになってついてきた春陽。冬弥も近寄ると「出来たの?」と聞かれる。
「結局予備の書類全部使っちまった。黒瀬さんが全然合格出してくれないから、手が痛いぜ。」
「お前の字が汚いからだ。月待。」
ズバッと言われしょんぼり。だが、終わったのなら良いと篠宮が言おうとした時、4人が同時に振り返った。

その先にいたのは、書生の様な格好をした小柄な男「九条 楓(クジョウ カエデ)」で、何かを言う訳ではなく視線を外すと、資料を持ったまま何処かへ居なくなった。

「……帰ろうか。遥陽。」
「そうだな。」
冬弥の声に頷く遥陽だが、もう一度九条が居なくなった方を見てから視線を戻す。