春陽を椅子に座らせ数枚の予備の報告書を机に置くと、篠宮は静かに、耳元で「逃げんなよ」と脅す。
ここから1番近い席に居るのは黒瀬。見張り役を快く受けてくれた。
「今日中な?」
「……っ!?」
絶望顔。冬弥は呆れながらも手伝おうとするが、篠宮にそれを止められた。
「お前はこっち。」
「……?」
篠宮はそのまま冬弥を連れて廊下を出た。
「そろそろ電話が来そうだったからな。」
「……ああ。」
冬弥も今から行く場所の人の性格はよく知っているので、肩を落とすだけに留めた。
似たような廊下、部屋の作り。その中でも唯一、違った意味で「異質」なのは、ここ「技術課」なのでは無いかと思う。
「霧崎、来たーーー」
「遅い!!」
襖を開けると同時か最早開けるよりも前だったかは分からないけど、女の人の声が響いた。
「……時間通りだよ。」
「いいや、私は到着次第連れて来いと言った筈だ。」
やたらと距離が近い女性を見てから「霧崎さん、メガネ」と冬弥が声を掛けると、首を傾げた後合点がついたように「ああ」と白衣のポケットを探る霧崎。
「どうりで世界が酷くボヤけているわけだ。さて、御影。武器を出しな。」
至近距離に居た篠宮から一歩下がった女性はこの技術課の責任者で、名は「霧崎 翠(キリサキ スイ)」。
長いウェーブがかかる茶色の髪をひとつに結び、キツめの薄茶の色の目は見えてるのが最早奇跡らしい。
白衣の下のボタンを開けたワイシャツとスラックスと何故か素足。モデルのような美しさだが、考えている事が独特すぎてこの管理局の中でもここまで人手不足なのは彼女の世界観に合わないのが原因だと誰かが話していた。
「はい、よろしくお願いします」
「ん。」
ビジネスバッグにしまっていた短刀を取り出した冬弥。それを霧崎に渡し受け取ってから、彼女は目を細め
「……なるほど。」
シンと静まり返る。
「一週間前の夜戦時に無駄に力を込めたな?武器が泣いてるぞ。」
短刀から目を離した霧崎に冬弥はそっぽを向く。
霧崎はその目で見た武器の「記憶」や「状態」を寸分違わず探り正確なメンテナンスを行う事ができる。
「おい、一週間前って何の話だ?」
篠宮が首だけ動かし冬弥を見ると、更に視線が泳いだのを見逃さない。
「……はぁ。まぁいい。霧崎、どのくらいだ?」
「誰に言ってるのよ。」
バカにしたように笑った霧崎は、一瞬にして表情を戻すと、冷たく言い放つ。
「三十分有れば終わる。」
部屋の奥へ引っ込んだ。こうなったら霧崎は何があっても出てこない。三十分と言ったら本当に三十分で終わらす。そんな彼女についた異名は「解析の魔女」。美しい見た目と相まって「魔女」とも呼ばれている。
「……相変わらずだな」
呆れつつも、その腕の確かさを知ってる篠宮は踵を返すと統制課へ戻ること無く、反対の廊下を進む。
「冬弥。」
名前を呼ばれ、大人しくついて行く。
