また明日

久しぶりに訪れたその場所で、冬弥は足を止めた。

そこに、神社はなかった。あるのは見上げるほど高い、白いマンション。
見慣れない自動ドアと整えられた植木に無機質な駐車場。
ここは、かつて、雪が降っていた場所。
遥陽が覚悟を決めた場所。遥陽の血が流れた場所。
遥陽が命を散らした場所。遥陽を生き返らせた場所。

その全部が、無くなっていた。


見上げていたマンションから離れ、冬弥はそのままオリエンテーションで訪れていた自然公園へやって来た。
夜ということも相まって何も見えないが、あの祠は矢張り存在せず、逆に清い気に満ち溢れるほど済んだ空気が流れていた。

その花畑の近くで座り、ゴロンと寝転がり星を見た。
ここは高いビルやネオンはない。だから美しい星空が見えるのだが

『……俺、いつか大きくなったら外国に行きたいんだ!』

過ぎる幼い遥陽の声に、クスクス笑う。

「流石にこの短期間で海外は行けないや。ごめんな、遥陽。でも、俺、この1ヶ月色々なものを見たよ。」

日本各地行けるところまで巡った。
『……たのしかったか?』
「……楽しかったよ」

聞こえた様な気がするそんな遥陽の声に優しく微笑み、目を閉じた。

『冬弥、楽しいか?』
目の前にいるような気がする遥陽の質問にハッキリと答えた。

「ああ、最高だ。」



校門の近くに置かれた『卒業式』の文字に群がり写真を撮る生徒達。
卒業式と言うよりももう少し賑やかな空気感を静かに眺めていた冬弥は、桜の木の下に寄りかかりながら待ち人を待っていた。するとーーー
「あれ!?」
随分と久しぶりに聞く立花達の声だ。
小さく手を上げると、一瞬にして冬弥のクラスのメンバーがこちらへ押し寄せてきた。
「久しぶりだな、御影!」
「連絡つかないから驚いたんだよ!元気だったか?」
「終業式にも来ないから心配しました……大丈夫ですか?」
「そういえば、月待はーーー」
「俺、就職決まったんだーーー」
「俺は進学でーーーー」
それぞれの賑やかさに懐かしさを感じながら、冬弥は「久しぶり」とみんなに声をかけていく。

「あれ、なんか……変わったか?」
「なんで?」
もみくちゃに、されていた冬弥だったが、助けてくれた立花にお礼を言いながら並んで歩いている。少し前には斎藤、秋宮、不知火だ。
「いいや、何となくだけど……なんか、いいことあったか?」
「……そうだな。うん、あったよ。」
冬弥の言葉に「へぇ」と目を細めた立花。
「いつか教えてくれよ?」
肩を組んで教室まで歩く。
担任の先生である相良のありがたい最後の言葉を聞き、最後の掛け声で終わったホームルーム。
「みんな、写真撮るぞ〜!」
「おう!って、御影は?」
「あれ?さっきまでここにいたよな?」

集合写真を撮ろうとしたが、その日いつまで経っても冬弥は戻らなかった。


一方の冬弥は賑やかな空気を全身で感じながら屋上から校舎、桜の木、グラウンド、体育館の窓、町を見下ろしていた。

フェンスに寄りかかり目を閉じた。
「……5、4、3、2、1、0」
キーンコーンカーンコーンと時計が音を鳴らした。

「……はは、10年、過ぎたなぁ……」

桜の花びらが空高く舞った。黒い髪が風に揺れる。
『そうだね』
隣から聞きなれた声がする。
冬弥は特段驚く事もせずに隣を見ると、そこには遥陽がいた。冬弥と同じく春風に髪が揺らしながらこちらを見るその姿にそっと微笑んだ。
『卒業、かぁ……実感湧かないなぁ』
「……そうだな」
そっと青空を見上げる。今日の空は初めて遥陽と、出会った時と、同じ空の色だ。
『冬弥、ちゃんと卒業できたんだな?』
おちょくる声に冬弥は「はっ」と笑う。
「お前より、頭いいからな」
『なにをぉ!?』
顔を見合せて笑う。
会話が止まった。風も止んだ。