また明日


北へ、南へ、冬弥は各地を転々としていた。

名も知らない町、山沿いの神社、海沿いの小さな集落、体力を回復させながら着の身着のまま怪異を祓い、呪いを見て、人を知った。

春が過ぎて夏が訪れる様に
色を変えた秋と静かな冬に移り変わるように……



春の心地のいい風に、梅野は洗濯日和だと庭で洗濯を干していた時、玄関とは反対側の竹藪から現れた人影に一瞬肩を震わせた。そこに怪異がいると勘違いしたからだ。でも、そこに居たのは、少しだけ髪が伸びた……

「……坊ちゃん!?」
「久しぶり、梅野さん。」

暖かな風が驚きを連れてきた。

「ビックリしました。いつもは夏にしか会えない坊ちゃんとまさか桜のさく時期に会えるとは……ふふ、嬉しいです」
幸せそうに笑う梅野と並んで台所で夕食の準備をする冬弥は、先程梅野に髪の毛を整えてもらった。
シャワーを浴びてさっぱりし、自室で懐かしいアルバムを見ながら過去を少し思い出し、宝物として残していた箱を大切そうに見ては庭の花へ視線を移す。

トントントンと包丁で野菜を切りながら、冬弥の好物を次々と完成させていく梅野は、二人で食事を居間に運ぶ。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせて夕食の時間が始まる。
「……んんん、やっぱり梅野さんの煮物が一番美味しいや。」
「ふふ、褒めたってご飯のおかわりしか出せませんよ」
茶碗を差し出しおかわりをよそってもらい、暫く談笑しながら話してい過ごす。
お茶碗を洗ってからお茶を飲んでいるのんびりとした時間。
「梅野さん」
「はぁい、なんでしょうか、坊ちゃん」
お風呂へ行く梅野を呼び止めた。
「……梅野さん、ありがとうございました」
姿勢を正してお礼をするその姿に梅野は慌てる。
「ど、どうしたのです!?」
「……ほら、卒業式がそろそろでしょ?だから、今までのお礼って思ってさ」
座礼を辞めさせると、はにかむ冬弥に梅野は困った様に笑うが、頬を撫でて「大きくなられましたね」と言い、立ち上がる。
「もう少ししたらデザートをお持ちします。今日は坊ちゃんの大好きな梅野の手作りのみたらし団子ですよ」
居間を出て浴室へ向かう足音が遠ざかった事で、冬弥はもう一度梅野にお礼を告げた。

「あら、坊ちゃん?」
お風呂から出た梅野は、居間に冬弥が居ないことに気が付き離れ中を探すが、どこにもいなかった事で夢でも見ていたのだろうかと考えるが、台所に並ぶ2人分の食器に夢では無いと悟った。
お茶碗を片付ける為に食器棚を開けようとした時、パリンとわれる音がして振り返ると、床には冬弥の愛用していた湯のみが割れて落ちていた。
「まぁ、大変……」
慌ててそれを拾おうとした時、梅野はぼやける視界に違和感を感じ、目を擦ったが、指が濡れている事に気がついた。何故かポタポタと涙を流している事に気がつく。
「あれ、なに、かしら……なんで……止まらないわ」
冬弥の湯のみ割れた事が悲しいのは勿論だ。
だけど、なんだろう。
冬弥が遠くへ行ってしまう気がしてただただ悲しかった。