規則的な電子音が、静かな部屋に響いていた。
白い天井、薬品の匂い、重たい身体。
ゆっくり、冬弥は目を開けた。
視界が滲んで、上手く焦点が合わない。
「…………」
喉が、焼けるように痛かった。
指先を少しでも動かすが、酷く重い。
その小さな動きに、誰かが息を呑んだ音が聞こえた。
「……冬弥?」
聞き慣れた声。ゆっくりと視線を向ける。そこにいたのは、篠宮だった。
篠宮は、しばらく何も言わなかった。ただ、冬弥を見ているだけ。
その目の下には、薄く隈が出来ていた。
「……おはよう」
その声には、様々な感情が含まれているように聞こえた。それでも冬弥は何も言わずにただ、頷いた。声が出ないから仕方ない。
「正月は過ぎたぞ。」
呆れ半分、安堵半分。
だが……
「お前が起きてくれて良かったよ。」
篠宮が退出して少し、この場に仁がやって来た。
「目覚めたと言うのは本当らしいな。」
声が出せないから仕方ないが、改めて見ると、人見知りがここまで成長するものか。子供の成長は、早い。
「……なんだ、その視線は。腹立つからやめろ。」
仁はため息を吐くと、窓際に寄りかかる。
「全て聞いた。篠宮さんから……あんた、バカだったんだな。」
かなり失礼だ。だが……確かにそうだったのかもしれない。仁は何も言い返さない冬弥から視線を外す。
「お前が回復したら、当主会議がある。そこでお前の全てを打ち明けろ。勿論禁術についても全てだ。」
予想していた通りだ。
初めから仁はコレが狙いだった。
「……全て打ち明けてくれれば、あんたを……あんたと遥陽さんを隠す事くらい俺には簡単だった。」
ボソッと言われた言葉に冬弥は言葉を失った。
「……もう、過ぎたことだ。だが、もう抱えないことだな。これ以上、隠す事は俺でも無理だ。」
それはきっと遥陽の事を言っていのだろう。上層部から圧でもかけられ「消滅させろ」とでも言われたか?
仁はフンッとこの場を離れようとするが、冬弥はゆっくりと声を出す。
ーありがとう
本当に音になったかは分からない。カスカスで自分でも分からないくらいだ。だけど
「あんたが素直にお礼を言うのは気持ち悪い。早く回復していつもの嫌味な態度を全員に見せて、お得意の口上で全員を黙らせろ。俺が唯一認めたライバルはお前なんだからな。」
今度こそ仁は病室を後にした。
色々なことを聞いてしまったが、幼い時隠れて出てこなかったのにはそんな理由があったのか。
ふふ、と笑いながら空を見上げる。
ー俺は、今まで見て見ぬふりをしてきたんだな。
世界は思ったよりも多くの優しさで溢れている。
その日の夜、病室へ訪れた篠宮は構成員達が慌てて出入りしているのを見て嫌な予感に満たされた。
「……チッ。どこ行きやがったんだ!」
冬弥が眠っていたはずの病室は綺麗に整えられもぬけの殻。いつの間に脱走したのだろう。部屋の中に居る仁も構成員に指示を出すが、その顔に見えるのは焦り。
このままだと冬弥は、裏切りとみなされ処分されてしまう。
