「だって、はるひは……まだ、いきてるだろ?」
歪に笑う冬弥。篠宮はその姿にこれ以上ここに居させるのは危険だと判断し離脱しようとするが、それよりも先に篠宮の体が冬弥から突き放された。
「……っ!?……冬弥!」
目の前にできた真っ黒な壁。木に叩きつけられた痛む体。すぐさま前を見ると、そこには微笑む冬弥の姿があったが、完全に見えなくなってしまった。
立ち上がり駆け出し、真っ暗な壁を殴るが、ビクともしない。
騒ぎを聞きつけてやって来た黒瀬に事情を話すと、黒瀬もこの壁を壊すのに協力した。
「なんで7歳の子供が帳を下ろせるんだよ!」
帳の中では、怪異と冬弥が向き合っていた。
ゲラゲラと笑いながら、まるで壊れたブリキの玩具の様な動きで近寄ってくる遥陽を愛しそうに見た冬弥は、短刀を取り出すと、迷う事なく真っ黒に染まってしまった遥陽の首を切り落とした。
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあアア!』
劈く叫び声は人の物なのだろうか。
それでも冬弥は微笑みながら遥陽の落ちた首を拾うと、見開かれた青い目と目を合わせるようにおでこを合わせる。
「いま、もとにもどすよ、はるひ。だから、だいじょうぶだ。」
冬弥は開いた口のすぐ側にキスをすると、そこから黒い影……呪詛を吸い込んで自分の体に移した。
全身とリンクしているように遥陽の切り離された体の黒いのも消えて、冬弥の全身には黒い文様が浮かび上がる。
全身が焼けるようだ。
熱い。熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!
「は、はは……はははははっ!」
骨の隙間を、血管の流れと共に呪詛が、全身に這い回るのが分かる。吐き気と頭痛。鳴り止まない耳鳴り。指先が震えて視界が明滅しても、冬弥の動きは迷いがない。
懐に入れていた残る護符に、傷つけた自分の指先から流れ出る血で新しい術式を書いていく。
それは1枚や2枚ではない。何十枚、何百枚と同時にだ。
すると、それを空中でばら蒔いて笑いを収めて言い放つ。
「……それは「俺」の物だ。怪異如きが触れていい存在ではない。」
「かえせ」
その言葉を皮切りに、護符から青白い光が放たれた。
横たわるぐちゃぐちゃになってしまった遥陽の体をできる限り元に戻し、近くに首を置いた。
まるで腫れ物を扱うように静かに、丁寧に。愛しそうに。
ヒラヒラと地面に落ちた護符が一つの陣になり、青白い光がやがて遥陽の体を侵食していく。
まるでこの地全てがそれを拒絶する様に大地を揺らした。
冬弥は壊れた様に笑うと、スゥと息を吸った。
「幽世と現世の境を閉ざし」
「魂魄(コンパク)を縫い」
「朽ちた肉を繋ぎ止める」
「禁を侵し」
「理を壊し」
「我が身を贄とする」
それは静かで居て、絶対的な言葉。
本来、存在してはいけない禁術だった。
黒い紋様が赤黒く光り、冬弥の皮膚を穢す。
指先が黒く染まり、右目から黒い涙が流れる。
「――魂魄縫合」
冬弥が言い終わると同時に青白い光が弾け、細い糸になり遥陽を繋げ行く。それを見守りながら、冬弥は微笑む。あともう少しだと。
「……遥陽」
暫くしら青白い光が収まると、止まっていたはずの遥陽の胸が、上下に動き始めた。赤黒くなった血や破けた服はそのままだが、向こうが見えてしまうほど空洞になったしまった腹や、砕けた手足は元通りに。落とした首も繋がった姿に冬弥は優しく微笑み、そっと遥陽の体を抱きしめた。
「……ずっと」
黒い文様が消えていく。
それはまるで刺青のように冬弥に刻まれた。
「ずうっと」
ゆっくりと目を開けた遥陽の青い目は輝きを見せないが、それはこれから教えていけばいい。遥陽が今までどんな人物だったかを。そして、どう言うふうな大人になるのか。冬弥が全て教えればいい。
だって、私……俺たちは
「一緒だよ。」
友達だもんな。
