黒瀬が運転する車で走ること20分弱。
屋敷がある街から少し離れた所の住宅街から見える山の中へと続く階段前に立っていた三人。
「……ここは時期に壊され大きなマンションの建設が予定されているのですが、連日続く怪異の騒ぎで一時的に保留にされているそうです。」
「その相談に御影家を頼ったのか。」
「はい。」
壊れかけた長い階段をのぼりながら冬弥が任務の詳細を語る。1番前を黒瀬が歩き、冬弥と篠宮が並んでいる状態なのだが、歩きながら術を展開しある意味3人を守る結界と偵察の為に式神を飛ばす冬弥は、無尽蔵な霊力と凄まじい集中力だった。篠宮もできるが、どちらかと言うと苦手だ。単身で敵に突っ込んでいくのが得意な戦闘スタイルだから。
「……千景」
「ん?どうした?」
1番先に階段の上までたどり着いた黒瀬が視線を逸らさずに真っ直ぐと何かを見ている。
「……社だ。」
階段の上にたどり着くと、冬弥はスッと目を細めた。
ジリジリと痛む肌。こちらを見る視線に直ぐにこの場所の元凶を見つける。だが、踵を返した。
「……1度戻ります。」
「倒さないのか?」
朝等の明るい時間なら怪異も弱まっているから戦いやすい。勿論冬弥もそれを分かっている。
「はい。この場にいる「全て」を倒すなら、夜の方が都合がいい。」
「全て……?」
篠宮は首を傾げた。
「隠れているんです。本体が。」
驚きふたりが目を見合わせる。そんな気配はしない。
分かるのはやたらと濃い気配が散らばって存在するだけ。本体の場所の特定は出来ない。
「きっと、怪異は元神でしょう。封じるのは簡単ですが、きっとこの地を祟ったり呪詛を撒き散らすでしょうから必要な物を道具屋に買いに行きます。」
淡々と告げる冬弥に感嘆の息を漏らす。
「……どうしました?」
数段降りた階段から振り返った冬弥は、不思議そうに二人を見る。
「いいや、随分と成長したなとおもってたんだ」
カツカツと革靴を鳴らせて降りる篠宮。
「何を言っているんです。これら全て貴方が教えんたんだよ、篠宮。」
サァと春風が吹いて黒い冬弥の髪を揺らした。
「今の私があるのは、あなたのおかげでしょう?」
道具屋と言えどもそんな大っぴらにしたものでは無い。
表向きはカモフラージュの為に骨董品店だったり古書店だったりと様々。
それぞれの所属や名前がある身分証が無くては中に入る事が出来ない店ばかりで、危険物の扱いもある。
冬弥もやってきた地下の道具屋を見て周り、必要なものを揃える中で、一つだけ異様に目に付いた物があり、ガラスケースに近寄った。
「……若様、其方は霊山から見つけられた玉鋼で造られた霊刀です。」
「……霊刀?」
「はい。持ち主を選び、他者にその鞘を抜かせることはしません。」
冷たい視線だが、彼の選ぶ物はどれも1級品。そんな男がこの刀を「霊刀」と言った。なら、これは本物だ。
「……ん……っ。ほら、抜けませんでしょう?」
霊力を持って鞘を抜こうにも店主では矢張り抜けなかった。それを幼い冬弥の手に乗せると、冬弥はそっと撫で付けたあと……「あ」
「……ぬけた。」
冬弥は青白く輝く刃を見てから店主を見上げると、優しく微笑んだ店主がそこに立っていた。
不思議そうに口を開こうとした時、篠宮に呼ばれてそちらを見ると、篠宮は「なんだそれ?」と冬弥の手元の短刀。霊刀を指さした。
「これは…………あれ」
「どうした?」
「いや、なんでも……」
先程の店主の彼の姿はなく、お会計の為にレジへ向かうと、そこには年老いた女性が座っていて、冬弥の手にある短刀を見て言葉を失った。
「若様、それをどこで……」
「え、先程店主の男性に……」
「男性?ここの店主は私だけで……まさか。」
女性はレジのカウンターから出てくると冬弥を見て泣きそうな顔をすると、頬を撫でた。
「其方の持ち主は貴方様です。どうか、持っていってください。」
「え、お代は……」
手を離した女性は首を振ると、優しく微笑みながら涙を流し「必ずや、貴方様をお守りいたします」と、カウンターに並べられていた護符もろとも差し出した。
「……お金。」
「あの人がお金はいらないと言ったんならいいんじゃねぇか?それから冬弥。中で何があった?」
道具屋を出てから冬弥は一銭も払っていないが両手に沢山の護符と短刀を持ったまま篠宮に聞かれた事に答える。
「あそこの主人はもう10年以上前に亡くなっててな、あの人が一人で店も切り盛りしてんだよ。確か、刀鍛冶でもあったんだよなぁ」
「……そう、でしたか。」
この場に来る度、冬弥と品物を見て回っていた男の店主。既に10年以上前に亡くなっているなら冬弥は一体誰と話を……まぁ、いい。何らかの偶然が重なっただけ。今後会う事が出来ないのは少し寂しいが、この刀と共に生きていく。きっと、彼には一番の弔いになるだろう。
「では、これからこの札を山の全域に仕掛けます。手伝ってください。」
「まぁ、ここまで来たからな」
篠宮と黒瀬も頷き札を受け取った。
その様子をずっと見つめていた少し大きくなった姿の冬弥が見ていた。懐かしいと言う感情と、それから……
