また明日


次の日の早朝、冬弥は一人で屋敷の門をくぐった。
確か迎えの車が来るとか書いてあったから……あれか。

「若様、おはようございます。」
黒いスーツの男が真っ黒な車の前で待っていた。
冬弥は小さく会釈をすると足を進め、運転手が扉を開けた車に乗ろうとした時

「よぉ、久しぶりだな冬弥。」

今いる所から見て右手側の道に、当時髪の毛を伸ばしていた頃の篠宮が、少し幼さを残した黒瀬と共にいた。
篠宮は煙草を携帯灰皿にしまい、紫煙を吐き出し近寄ってくる。
派手な見た目の2人だ。周りの注目を浴びるのも当然と言えた。
「……珍しい。何故ここに?本社勤務では?」
首を傾げながら二人を見ると、篠宮は「任務帰りだよ」と言って冬弥の頭を撫でた。
数少ない、冬弥を子供扱いする大人の一人だ。頭を撫でてくれたり、戦い方だって篠宮が教えてくれた。
「冬弥は今から任務か?」
「うん。今から行くんだ。」
「……ふーん?なら、俺も行くわ。」
「「「は?」」」
黒瀬と運転手と冬弥の声が重なった。
「おい。後は俺達に任せろ。」
「……かしこまり、ました。」
運転手はポンと触れられた肩から伝わる威圧に恐れ、1歩下がり頭を下げ、篠宮に車のキーを渡した。
「じゃあ、運転よろしく。鳴海。」
「……わかった。」
呆れ顔の黒瀬がキーを持って運転席へ行くと、静かなエンジン音が聞こえてきた。笑った篠宮は冬弥を抱えて後部座席へ乗り込んだ。
「あ、そうだ。梅野さんに冬弥は任せろって伝えておけよ?」
運転手に伝えると、車が発車。

「んで、任務はどこでやるんだ?」
「……相変わらずだね、篠宮」
冬弥は呆れながらも目的地を伝えると、バックミラーで黒瀬が、隣の席で篠宮が冬弥を見た。
「ガキが一人で対処出来る案件かよ」
舌打ちをした篠宮は足を組むと不機嫌そうに目を細めた。見た目だけならヤカラだ。
「私は確かに子供だが、これくらいなら直ぐに終わるよ。」
反抗するように見てくる冬弥に「そういう意味じゃねぇよ」と篠宮は言う。篠宮とて冬弥の実力は十二分に知っている。自分が現役時代と同じかそれ以上の力を6歳の子供が持ち合わせているのだ。これは大人になったらどんな風に化けるんだろうか。
「本来、複数で行う任務だ。それを10歳にもなってねぇ子供一人だけで向かわせるのは、親のやり方じゃねぇよ。」
「本当に篠宮は変わってる。」
冬弥は眉を下げながら「ありがとう」を告げると、その言葉に篠宮は目を見開き、優しく微笑んだ。
「……いい出会いがあったんだな?」
「……うん、あったよ。」
驚いたような顔をするが、一瞬にして暖かな顔をして笑うその顔に篠宮は嬉しくなった。
初めて出会ったのは、今よりも3年前。
定例会で顔色をひとつとして変えない御影家の次期当主の少年。産まれて3年でも子供らしくなくそこに鎮座するだけでピクリとも動かなかった。
毒を盛られたとしても、最後まで慌てることなく受け入れているその姿に篠宮は歯がゆい思いをさせられていたのが、最近になり変化があったと噂されていたのは本当だった。

「俺達にも紹介しろよ?」
「うん。わかった」
頷く冬弥はニコニコと笑い遥陽の事を篠宮と黒瀬に言って聞かせた。