また明日


冬弥が倒れた日より既に1週間が経過。

あの日から比較的に穏やかな時間を過ごせていることから、冬弥は遥陽と共にいつものゲームセンターにやってきていた。
「今日は1日フリーだろ?」
「あぁ、そうだよ。」
「なら、ゲーセン巡り日和だな!」
「ふ、なんだよそれ。」
幼少期の閉鎖的な生活から娯楽に飢えていた遥陽はこうして遊ぶ事にはいつだって全力だった。
「……んー、こっちか?いや、ここだな。よし、いけ!……っ!!?お、落ちた!?」
まぁ、相変わらず下手くそなのだが。

リズムゲームやレース、敵を撃つゲームやコインゲーム。中でも盛り上がったのはやはり、
「結局何も取れなかったなぁ」
しょんぼりする春陽は取りたかった物を指折り数えていき、更に落ち込んだ。
「根本的に、UFOキャッチャー向いて無いんだろ。」
冬弥が笑うと、遥陽は「バカにして!」と怒りながらも楽しそうに笑う冬弥につられて笑った。

街にあるゲームセンターを全て巡った夕方。
冬弥が取った景品をぶら下げながら街を歩くと、地面に2人分の影が伸びた。
「次こそ絶対に取ってやる!」
「前も同じ事言ってたな?」
楽しそうな声が響く。何ともない日常。
「明日は映画に行こうぜ、冬弥」
「いいけど、報告書の修正が来なかったらだぞ?」
「大丈夫。綺麗に書くことを心がけるから!」
そろそろクリスマスが始まる。
今年は高校生最後のクリスマスという事もあるから少しだけ羽目も外せたらいい。それこそ殺風景な家を飾り付けして篠宮や黒瀬を呼んでパーティー何てどうだろう。
絶対楽しいに決まっている。

ふふ、と笑った冬弥が遠目に見える大きなクリスマスツリーを見つけると、遥陽に教えた。
案の定小走りでツリーに駆け寄っていく姿を目に映しながら仕方ない奴だと息を吐くが、煌びやかなイルミネーションが眩しくて……いいや。
その何より、誰より輝いて見える遥陽の笑顔が一等綺麗で、冬弥は微笑んだ。



その日も恙無く任務を終わらせて帰っていた昼過ぎの人気があまり無い住宅地。

その途中で立ち止まった遥陽に不思議がって後ろを振り向いた時、ドンッと勢い良く遥陽が体当たりしてきた。不思議そうに見下げた時、スリと顔を寄せたと思った瞬間、思いっきり肩を……噛まれた。

何が起こった?

冬弥は今、ハッハッと浅く息を吐きながら肩を抑えて塀に寄りかかって居た。
ズキズキと痛むし、血が流れすぎて寒い上にグラグラする。冷や汗を流し、カスカスになった声を絞るようにその名を呼んだ。

「…は、る…ひ?」
「………………ヴヴ、ァアア、あ」
目が黒い。体の半分以上が靄に包まれ、涎と共に口から流すは冬弥の血。ダランと垂らした両腕。此方を見続ける目は冬弥を離さない。
「……。」
冬弥は静かに目を伏せて目の前の「現実」を受け入れた。ここで終われるのならば終わってもいい。

ーずっと、そう思っていたはずなんだけど……

「ごめんな、遥陽……まだ、俺……お前を諦められそうにない。」

グググ、と足に力を入れて立ち上がった冬弥に手を伸ばし、近寄って来ていた遥陽の勢いが増した。
攻撃を防ぐ為に短刀を取り出した瞬間、ブオン!と遥陽の動きが封じられる。
地面から伸びた金色の陣が誰の物かを認識した時、冬弥の足がガクンと力が抜け、倒れる冬弥を支えたのは、
「全く、情けないな。御影家の次期当主がたかが怨霊に遅れを取るなんて、どんな強い怪異だったんだ?」
「…………仁」
自分と同じくらいの身長。それでも体格は仁の方が上。筋肉量の違いが相変わらず羨ましい位立派。
自分達の後ろを泣きながらついてまわった幼い頃が懐かしい。
仁と呼ばれた男は、興味なさげに冬弥から視線を外すと、自分の結界が捉えていた者を見て言葉を失った。
「遥陽、さ……」
仁から視線を外した冬弥を支える腕に力が入った。
痛みで顔を歪める冬弥。
ポタ、ポタと落ちる血と焦る仁の声。
「おい!御影冬弥、これはーーーー」
怒りに染まったその声を聴きながら意識を手放した。
最後に目に写したのは、獣のように暴れ続ける理性を飛ばした遥陽の変わり果てた姿だった。