視界が一瞬だけ、暗く沈む。
地下駐車場。
コンクリートに囲まれた空間は、昼夜の区別がない。外の音は届かず、低い機械音だけがかすかに残っている車が数台、一定の間隔で並んでいた。色も形もばらばら。その中で、同じ黒い車が揃っていて、やけに目に映る。
車が停車して冬弥と遥陽は降りると、運転席の男に会釈をして奥へ進んだ。
コツコツと二人分の足音
エレベーターの前に警備員が立っていた。どこにでもいそうな中年の男。穏やかな顔つきで、制服もよく似合っている。見た目は、ただの警備員だ。
だが……近づくにつれて、空気が重くなる。息が、わずかに詰まる。男は、こちらを見ない。視線はまっすぐ前に向けられたまま動かない。それでも「見られている」のが分かる。目を向けてはいけないと、本能が告げていた。それでも、通ることは許されている。
冬弥と遥陽は何も言われない。
ただ、その場を通り過ぎるだけだった。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まる。
表示は、上には向かわない。迷いなく、下へと進んでいくと、わずかな沈み込み。
地下二階。
扉が開いた瞬間、光が差し込む。
それまでの静けさが、わずかにほどける。
人の声がある。足音がある。資料を抱えて歩く職員。
軽く言葉を交わす者。訓練帰りらしい数人が、廊下を横切っていく。だが、二人がすれ違うたび、視線が逸れる。誰も、目を合わせようとしない。
会議室の扉が開き、話し声が漏れる。講堂の方からは、低いざわめきが続いていた。ここだけを見れば、ただのオフィスだ。だが、奥へ進むにつれて、人の数は減っていく。声も、自然と遠ざかる。通路の先に、もう一つエレベーターがある。
形は同じだ。空気だけが違う。
中に入ると、扉が静かに閉まり、そのまま沈んだ。
地下三階。
扉が開いた瞬間に音が消え、匂いが変わった。
木と、畳の香り。照明は柔らかく、影が深い。足音は吸い込まれ、ほとんど響かない。
廊下は広くて長い。だが、人の姿は少ない。
並んだ襖。木枠。静まり返った空間。
例え、すれ違う者がいても、言葉は交わされない。
ここから先は、明確に別の場所だった。
先にエレベーターを降りる冬弥に続き一歩遅れて、遥陽が続く。
その背後で、小さな声が落ちた。
「……変わったね」
その声は、届く事なく、先ゆく冬弥は足を止めずに前へ進んでいく。
「行こう」
短く告げたその言葉に応えるように、
「…おう」
遥陽の声が、静かに返る。
エレベーターを出てから真っ直ぐと人気のない廊下を進むと、T字に別れる廊下に差し掛かり左に曲がった。
見た目が同じの襖と木の柱。すると、屋内なのに見えてくる淡い空みたいな明かりと白砂と石畳。錦鯉が泳いでいる池と大きな椿の木。
庭から視線を外すと何処からかタバコの香りが漂ってきた。
「……篠宮。」
庭と縁側を繋ぐ階段に腰掛けていた和服の男。
黒を主体とした着流しと羽織りには淡い色の漂う雲が描かれている。
少し青みがかる髪の横は軽く刈り上げた上は長めのストレート。髪の間から覗く耳には形がバラバラの幾つものピアス。
「……ふぅ。」
一度煙を吐き出しこちらを見てくるその薄紫の目が細められた。
「遅ぇぞ、お前ら」
地下駐車場。
コンクリートに囲まれた空間は、昼夜の区別がない。外の音は届かず、低い機械音だけがかすかに残っている車が数台、一定の間隔で並んでいた。色も形もばらばら。その中で、同じ黒い車が揃っていて、やけに目に映る。
車が停車して冬弥と遥陽は降りると、運転席の男に会釈をして奥へ進んだ。
コツコツと二人分の足音
エレベーターの前に警備員が立っていた。どこにでもいそうな中年の男。穏やかな顔つきで、制服もよく似合っている。見た目は、ただの警備員だ。
だが……近づくにつれて、空気が重くなる。息が、わずかに詰まる。男は、こちらを見ない。視線はまっすぐ前に向けられたまま動かない。それでも「見られている」のが分かる。目を向けてはいけないと、本能が告げていた。それでも、通ることは許されている。
冬弥と遥陽は何も言われない。
ただ、その場を通り過ぎるだけだった。
エレベーターに乗り込み、扉が閉まる。
表示は、上には向かわない。迷いなく、下へと進んでいくと、わずかな沈み込み。
地下二階。
扉が開いた瞬間、光が差し込む。
それまでの静けさが、わずかにほどける。
人の声がある。足音がある。資料を抱えて歩く職員。
軽く言葉を交わす者。訓練帰りらしい数人が、廊下を横切っていく。だが、二人がすれ違うたび、視線が逸れる。誰も、目を合わせようとしない。
会議室の扉が開き、話し声が漏れる。講堂の方からは、低いざわめきが続いていた。ここだけを見れば、ただのオフィスだ。だが、奥へ進むにつれて、人の数は減っていく。声も、自然と遠ざかる。通路の先に、もう一つエレベーターがある。
形は同じだ。空気だけが違う。
中に入ると、扉が静かに閉まり、そのまま沈んだ。
地下三階。
扉が開いた瞬間に音が消え、匂いが変わった。
木と、畳の香り。照明は柔らかく、影が深い。足音は吸い込まれ、ほとんど響かない。
廊下は広くて長い。だが、人の姿は少ない。
並んだ襖。木枠。静まり返った空間。
例え、すれ違う者がいても、言葉は交わされない。
ここから先は、明確に別の場所だった。
先にエレベーターを降りる冬弥に続き一歩遅れて、遥陽が続く。
その背後で、小さな声が落ちた。
「……変わったね」
その声は、届く事なく、先ゆく冬弥は足を止めずに前へ進んでいく。
「行こう」
短く告げたその言葉に応えるように、
「…おう」
遥陽の声が、静かに返る。
エレベーターを出てから真っ直ぐと人気のない廊下を進むと、T字に別れる廊下に差し掛かり左に曲がった。
見た目が同じの襖と木の柱。すると、屋内なのに見えてくる淡い空みたいな明かりと白砂と石畳。錦鯉が泳いでいる池と大きな椿の木。
庭から視線を外すと何処からかタバコの香りが漂ってきた。
「……篠宮。」
庭と縁側を繋ぐ階段に腰掛けていた和服の男。
黒を主体とした着流しと羽織りには淡い色の漂う雲が描かれている。
少し青みがかる髪の横は軽く刈り上げた上は長めのストレート。髪の間から覗く耳には形がバラバラの幾つものピアス。
「……ふぅ。」
一度煙を吐き出しこちらを見てくるその薄紫の目が細められた。
「遅ぇぞ、お前ら」
