「冬弥、見ろ!町がキラキラだ。」
終業式が終わった。冬休みだ。
一年はあっという間だとクラスで話していたのが数時間前。後3ヶ月で高校生活が終わりを告げる。
初詣には一緒に行けたらいいなと約束はしたが、多分冬弥はその約束を叶えることは出来ないだろう。
「余所見をするな、遥陽。厄介な怪異がここら辺を彷徨いているんだ。早く見つけて帰ろう。」
冬弥はキョロキョロと視線をさ迷わせながら隣の区を歩いていた。
唇をとんがらせ「かたいなー」とボヤく遥陽だったが、ピクッと反応し冬弥のコートを引く。
「あそこだな。」
「油断はするなよ。」
帳が落ちた。
「油断なんてしないさ。厄介な怪異と言っても所詮は小物だろ?直ぐに終わる。」
遥陽はニッと笑うとグローブを嵌めて駆け出した。冬弥はその姿を見て開きかけていた口を閉じた。
最近、やたらとハイテンションな遥陽はまるで一桁の子供のようにはしゃいでいるのだ。別に悪い事では無いが、一抹の不安が冬弥を支配していた。
先程の様にイルミネーションを見てはしゃぎ、おもちゃを見て欲しがり、落ち着きがなく、自分の言う事が叶わなかったら不貞腐れ……あぁ、ほら。あんなに「汚くして」いる。
「冬弥、ほら!雑魚だった!」
少し離れたところから手をブンブン降り、黒い靄に全身が包まれているのは、砂遊びをした後みたいだ。
「……大きな声を出すな、遥陽」
冷静に返しながら灰色の目を細めた時、あれ。と冬弥の視界が揺らいだ。
「……っ」
壁に手をついて転倒は免れたが、目眩が酷い。
聞こえてくる音が全て水の中に居るように反響していても遥陽の「冬弥!」と聞こえた声に顔を開けた瞬間、目の前には怪異が居た。
ー……いつの間に!
体勢を戻して攻撃しようとするが、ズキンと痛む頭にその場で膝を着いた。
ハッハッと荒い息を吐きながらザシュッと聞こえた音にゆっくりと顔を上げた。痛む頭を抑えながら見た物は、歪んだ笑みを浮かべながら怪異を引き裂き喰らう遥陽の姿だった。遥陽はブツブツと何かを言いながら此方を見る。その目が黒く澱んでいるのがまるで、まるで……ーーー
「……ー。」
「冬弥」
「……篠宮?」
朝、目覚める時のように目を開けた冬弥。
白くぼやける視界に数回瞬きをした。天井が白いから自室では無い。薬品の香りからして病院か医務室か。
左手側から聞き馴染みの有る声がしてゆっくりとそちらを向くと、心配そうな、それでいて怒っている顔の篠宮が足を組んでそこに座っていた。
「具合はどうだ」
「大丈夫だよ」
目眩は無い。強いて言うなら多少のダルさだけ。
どのくらい眠ってしまったのか分からないが、きっと寝すぎたのだろう。
「大丈夫な訳あるか。お前、3日間目覚めなかったんだぞ。」
「3日」
思った以上に眠ってしまったらしい。
「遥陽は」
「……。鳴海に任せてある。お前たちのマンションで今は寝ているよ。」
「そうか。ありがとう。」
何かを言いかけていた篠宮。だが、安心した冬弥の姿に「お前は」と口を開く。
「一人で全てを抱える気か?」
その視線に相変わらず優しいと思う。だが
「一人で抱えてるつもりはない。こうして篠宮や黒瀬に支えられてるし、俺一人で動くにも限界はある」
「ならーーー」
「だからこそ、俺がしっかりしないとだろ。だって、遥陽をあんな風にしたのは俺が原因なんだ。俺にはその責任がある。」
「……。」
