『これより、明桜学園の文化祭を開始します。』
開始時刻になり流れた生徒会長のアナウンス。
現時刻は10:00
生徒会によって開かれた門から流れるように老若男女が入ってくる。
賑やかに声が上がり、あちこちから開始の拍手が響く。
桜をモチーフにしたアーチ、校舎まで続く露店の数々。風に乗って美味しそうな香り。
クラスの中からそれを見ていた立花が「始まった!」と言った瞬間、シンと静まる。
ここは1階ラウンジ。
黒を基調に作られたゴシックな見た目。発案者はまさかの担任。作ったのに協力はしなかったが、小道具を作る時にアドバイスをくれた。このクラスだけ別世界みたいだ。
その真ん中で全員が集まって円陣を組んでいた。
さながら最後の試合に赴く選手みたいだ。
「いい?今からわたしたちは執事。何処のクラスよりも極上の時間をお客様に過ごしてもらうの。」
1度言葉を区切り全員を見た。
「失敗したら許さない。でも、今のわたしたちは無敵よ…………そうだろ、おまえら!!!」
姉川の野太い声に「おう!」と響く。
巡回の先生や通り過ぎた生徒が驚いた。
今、心がひとつになった。
文化祭が始まる。
「オムライス追加!」
「パフェはできた?!」
「チョコケーキが無くなった!」
「ハンバーグどこ!?」
思ったよりも、と言うか想像の五倍は忙しくて、生徒会がお客さんの待機列を何とかする羽目になったレベルまで人気の冬弥達のクラス。
場所はラウンジを借りているのだが、生徒だけでは手が足らず、食堂のおばちゃん達も総出でメニューを次々と作り、現時刻は既に昼が回っていた。担任は集計係に駆り出された。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
静かに頭を下げる。慣れたような佇まい。
所作は完璧。無駄のない動き。黄色い悲鳴。
けれど
「……御影、顔が怖ぇ」
軽い肘鉄を食らって、表情を戻す。
「……うるせぇ」
既に満身創痍。トップ執事達は休みなく働いていた。
人気投票は勿論冬弥が1番。だが……チェキは立花の方が撮ってる。何やら冬弥は恐れ多いらしい。
「……あの人やばくない?」
「ビジュ良すぎ!」
「写真アップしよーよ!」
隠し撮りをしそうなお客さんは、それぞれに着いた見習い執事が華麗に止めたり、さりげなく執事達の顔を護ったりと付かず離れずの距離に居るのだが、冬弥につくのは空手部主将だ。
それがまた良いとかで密かにカップリングも組まれていて、集客をあげているのは、本人達だけが知らない。
裏方にいる不知火や料理長の斎藤は別人と言いたげに働き、人の流れを読むのが上手いクラスメイトが混雑も上手く捌いている中、姉川が突然「御影」と呼んだ。
「……どうした」
「そろそろ午後の人が入るわ。あなた、ちょっと中庭に行きなさい」
「……抜けて平気なのか?」
飲み物を飲んで居る姉川はニッと笑う。裏から見渡していた冬弥が視線を戻すと、姉川がエプロンを取った。
「イケコンの審査基準は投票だけじゃなくて、日常も含まれるのよ。」
「ああ、なるほど」
つまり、文化祭の態度も評価対象。
そして……
「今度は、わたしの番よ。」
冬弥の変わりではなく、シークレット執事長。
13:00〜15:00迄の時間、ランダムで現れる謎の執事長。ウィッグで髪の毛の長さを変えてるから全くの別人。銀縁が黒縁メガネへと代わり、なんだかインテリ系?これまた……騒がれそうな見た目だ。
「……それに、御影に客だ。あれ、知り合いだろ?」
「……誰だ?」
突然口調が変わる。もう、執事モードなのか。
廊下に視線をやった時、見えないはずなのに手を振られ、苦笑い。
「じゃあ、1時間したら戻るから。」
「おう。よろしくな。」
コツンと姉川と拳を合わせ、この場を後にした。
「……本当に来るとは思わなかったよ」
「お前達の最後の文化祭、保護者替わりの俺が来ない訳にはいかないだろ?なぁ、鳴海。」
「ああ。」
廊下に出てから目的のふたりを見る。和服と黒スーツ。実に目立つ。
「はぁ。とりあえず……」
「ハルの所行こう。」
冬弥が、中庭へ行こうとしたが、篠宮がカメラを持って黒瀬を見あげる。
スタスタと進み冬弥を置いていくから慌ててついて行った。
「え、篠宮さんと黒瀬さんじゃん!」
二階の日当たりがあまり良くない準備室の中は遥陽達のクラスの出し物で、お化け屋敷だ。
その出入口で立っていた遥陽は、階段からこちらに来る3人に気が付きパタパタと近寄ってきた。
「……えっと、その仮装は何?」
冬弥の質問に遥陽が「え、ゾンビだよ」と笑う。なんともまぁクオリティが高い。特殊メイクか?
「1人、こう言うのが好きなやついてさ。全員のメイクやってんの。後で校内を練り歩く百鬼夜行あるから見ろよ?」
「見れたらな」
本物か?と思われそうな腐った肌とボロボロの衣服。
中からくぐもった悲鳴が聞こえてきた。
「手作りの御守りもかーなり繁盛してんだぜ?追加で、作っておいて良かったって言ってた。」
何が面白いのかケラケラ笑う遥陽は、今朝よりも元気だ。篠宮はそれを見ると「良かったな」と頭を撫でた。
そのまま4人は中庭へ向かった。
あまたの視線を集中させているのに気が付きながらも談笑する姿は絵になっていた。ただ、ひとりゾンビなのだが。まぁ、いい。
「……やっぱ、人が集まるところは増えるな。」
「何体かキケンなのがいたから祓ったけどいいよな」
黒瀬が静かに窓や廊下を見る。視線の先には何もいないが、4人には確かに違和感が見えている。
「あぁ、大丈夫だよ。報告書は数字だけ記入しとけ」
「わかった。」
タバコを吸いそうになった篠宮を止めて「禁煙だ」と言うと、苦笑いで「そうだった」とタバコをしまった。
「そういえば…………ハル?」
篠宮が視線を向けると、遥陽は何故か無表情で同じ場所を見つめていた。冬弥はそこを見ても「また」ぼやけたままの怪異だけで何も分からなかったが、息を飲んだ篠宮に黒瀬が気がつく。
「……あれは」
「篠宮、アレが分かるのか?」
「は?」
冬弥は不思議そうに見る。そこに嘘偽りは無い。
篠宮は、その表情にグッと心臓を握られる思いでいた。
ー冬弥、お前……どこまでいくつもりだ
