また明日


「う、わぁ」
「こんなん見せられたら、誰も勝てねぇだろ。」
「なんだかずるいですよね。」
冬弥達のクラスメイトが口々に着冬弥を見ては世の中の理不尽を嘆いてた。仮衣装の執事姿。仮であっても本物のような。

「さすがだわ。素材が良いからこの生地を選んで正解だった……後は……ちょっと!」
クラスメイト改めて衣装と特訓担当になった姉川が、何故か竹刀を持ってメイン執事達に躾……じゃない。教育をしていた。

「秋宮ぁ!あんた図体がでかいくせにちょこまか動いてるんじゃないわよ!」
「……っう。」
「やり直し!」

「ちょっと!ここはホストじゃないわ!!執事になりなさい立花!」
「えええ……」
「うるさい!」

こんな風に、既に1時間以上姉川に怒られながら執事としての所作やら作法やらなんだかよく分からない事をビシバシ教えて貰っているのだが、全然だめダメだとか。
「はぁ……所作はいいのにロボットみたいになってるわよ。感情をのせなさい、御影。」
「か、感情……」
さすがに次期当主ですとは言えずにいるが、凛と伸びた背筋と嫌味にならない動き方なのに、表情が固すぎる。まるでロボット。いや、ロボットの方がマシと怒られた。
「……お嬢様」
「冷たいわ!」
「……おじょうさま」
「やる気あるの!?」
姉川がキレた。
「なら、姉川。見本を見せてくれよ。」
立花がぐったりしながら近寄り冬弥の肩に腕を乗せる。

「執事喫茶ー静ー」このクラスには五人のトップ執事が居て、お客さんの投票を行い、多くの投票がある執事とチェキが撮って貰えるとか何とかってシステムを導入させ客寄せを狙っている。
尚、多く貢献したお客さんには10分独占権も有るのだが、同伴で見習い執事が付き従う。まぁ、課金ガチャではあるのだが。確率はかなり低い。
ただし!チェキが撮って貰えるのはメニューの1番高い物を購入且つこのクラスのイケコン出場者に必ず投票するのが条件。
だから、もしかしたら他クラスよりもお金を使わせてしまうから、全然寄り付かないかもしれない。……だからこそ生半可な物は提供したくない。ただの制服なのに、その服装が燕尾服に見えた。


「……よく見ておきなさい」
姉川のその声は、まだ軽い。だが、次の瞬間。
一瞬にして空気が変わった。背筋が、すっと伸びる。肩の力が抜ける。その立ち姿だけで、「本物」だとこのクラスにいる全員が目を奪われた。

姉川の視線がやや下へ落ちる。
まるで、本当に、そこに迎えるべき誰かがいるかのように。

そして
「——おかえりなさいませ、お嬢様」
普段の高くて陽気な声とは違い、低く、静かな声。
先ほどまでの声音とはまるで別人の、柔らかいのに揺るがないただの一言。それだけで、迎えられたと錯覚する程のもの。
息を呑む音が、どこかで鳴った。沈黙。誰も動けない。


「……今のが、相手を迎えるということ」

突然ふっと、空気が緩む。だが、もう何も知らなかった少し前には戻れない。

「言葉をただ、言うんじゃない」
全員を見た姉川の背筋は伸びたまま。
「帰ってきた人を受け入れるとは、こう言う事だ。」
今度はその力強い視線がらメイン執事の五人を順に射抜く。
「アンタたちのは、ただの誰にでも言えるセリフ。」
その凪いだ視線はそのままに
「今のは、意味よ。」
指を軽くパチンと鳴らす。

「さぁ、やってみなさい」
いつもの口調が戻った。
だが、この瞬間から全員の姿勢が変わる。


あの特訓から約1ヶ月。文化祭まで残り2週間。
受験や就職という事も相まってなかなか練習時間も集まれる時間も取れずにいたが、何とか形になり姉川からも合格サインを貰った。
衣装も全員分完成し、今日はお披露目。完全に外に情報を与えないようにカーテンやダンボールでバリケードを貼って、現れた五人に、担任が「おお」と声を出して拍手。
「なかなか様になってんなあ」
「当たり前でしょ。上から下までわたしがプロデュースしたのよ。」
姉川の少しだけ疲れてて、満たされた顔。
「……流石に少し恥ずいけど……でも、そうだな。」
冬弥の言葉の後、5人が姿勢を正して告げた。


おかえりなさいませ、お嬢様


その姿に、姉川は心からの笑顔を向けた。