篠宮の采配でマンションまで車で送って貰えた。エントランスからエレベーターへ。上に上がるまで壁に寄りかかりそこから見える外の景色を眺めていると、機械音が到着を教えた。
家の前にやって来て鍵を取り出し開けた。
音もなく扉が閉まり、自動で鍵がかかった。
部屋の中は、静か。自動でパッと電気が着いた。
見慣れた空間。玄関にひとつの革靴。
靴を脱いでその奥へ進みリビングの扉を開けると、まず先に目に入ったのはソファで眠る遥陽だった。
無防備に、いつも通りに……
「早かったな。」
黒瀬が壁にもたれている。視線だけが、こちらに向くと彼は歩き出す。
「……問題なかった」
短く告げながら通り過ぎる黒瀬を見送る。
「ああ」
鞄をその場に置いて振り返る。扉が閉まる間際。
「……ありがとう」
冬弥が言うと、黒瀬はわずかに目を細めた。
「礼はいらない」
低くそれだけ言って、足音が遠ざかると、少しして玄関から出ていく音が聞こえた。鍵が閉まる音も。
静寂。
残るのは、ひとつの呼吸だけ。冬弥は、ゆっくりとソファに近寄り視線を落とした。
ー……そこにいる。
変わらない顔、変わらない呼吸、触れればそこにある温度。
『もう、時間がないぞ』
分かっている。
篠宮の言葉がずっと離れない。キィンと耳鳴りが聞こえてきた。
ー……そんなこと、この俺が1番よく知ってるよ。
遥陽の前に来て、座った。
縋るように額を遥陽の膝につける。
「……ただいま」
静かに落とすそれに返事はない。当たり前だ。分かっている。それでも、言わずには居られない。最早習慣のような物だ。
「……おかえり、とうや」
「…………え」
一瞬。空気が揺れた。小さく、本当に小さく。聴き逃してしまいそうな程の
「がんばったな」
やわらかい声。聞き慣れたものと、同じはずなのに。
どこか、違う。
温度が、優しさがある。息をするように、自然で……
……違う。
冬弥の目が、わずかに開く。
ソファの上。遥陽は、眠ったまま動いていない。
口も、開いて無いし静かなまま。ただ、そこにいる。
さっきの声はもう、どこにもない。
ほんの一瞬。
柔らかな風が、通り過ぎたような……
残ったのは、静寂だけ。
冬弥は、何も言わない。言えない。
ただ、見ている。見ているしか出来ない。
そのままゆっくりと、目を閉じた。遥陽のソファに置かれた手に自分の手を絡めて近寄らせ、
「はるひ」
押し付けない。
触れるか触れないか、そんな距離。
「……必ず、何とかするから」
押し殺したような声は、そのまま空気の中へ消えていった。
家の前にやって来て鍵を取り出し開けた。
音もなく扉が閉まり、自動で鍵がかかった。
部屋の中は、静か。自動でパッと電気が着いた。
見慣れた空間。玄関にひとつの革靴。
靴を脱いでその奥へ進みリビングの扉を開けると、まず先に目に入ったのはソファで眠る遥陽だった。
無防備に、いつも通りに……
「早かったな。」
黒瀬が壁にもたれている。視線だけが、こちらに向くと彼は歩き出す。
「……問題なかった」
短く告げながら通り過ぎる黒瀬を見送る。
「ああ」
鞄をその場に置いて振り返る。扉が閉まる間際。
「……ありがとう」
冬弥が言うと、黒瀬はわずかに目を細めた。
「礼はいらない」
低くそれだけ言って、足音が遠ざかると、少しして玄関から出ていく音が聞こえた。鍵が閉まる音も。
静寂。
残るのは、ひとつの呼吸だけ。冬弥は、ゆっくりとソファに近寄り視線を落とした。
ー……そこにいる。
変わらない顔、変わらない呼吸、触れればそこにある温度。
『もう、時間がないぞ』
分かっている。
篠宮の言葉がずっと離れない。キィンと耳鳴りが聞こえてきた。
ー……そんなこと、この俺が1番よく知ってるよ。
遥陽の前に来て、座った。
縋るように額を遥陽の膝につける。
「……ただいま」
静かに落とすそれに返事はない。当たり前だ。分かっている。それでも、言わずには居られない。最早習慣のような物だ。
「……おかえり、とうや」
「…………え」
一瞬。空気が揺れた。小さく、本当に小さく。聴き逃してしまいそうな程の
「がんばったな」
やわらかい声。聞き慣れたものと、同じはずなのに。
どこか、違う。
温度が、優しさがある。息をするように、自然で……
……違う。
冬弥の目が、わずかに開く。
ソファの上。遥陽は、眠ったまま動いていない。
口も、開いて無いし静かなまま。ただ、そこにいる。
さっきの声はもう、どこにもない。
ほんの一瞬。
柔らかな風が、通り過ぎたような……
残ったのは、静寂だけ。
冬弥は、何も言わない。言えない。
ただ、見ている。見ているしか出来ない。
そのままゆっくりと、目を閉じた。遥陽のソファに置かれた手に自分の手を絡めて近寄らせ、
「はるひ」
押し付けない。
触れるか触れないか、そんな距離。
「……必ず、何とかするから」
押し殺したような声は、そのまま空気の中へ消えていった。
