怪異とは、人のすぐ隣に存在する歪みだ。
多くは人に似た形をとりながら、わずかな違和感を残している。
それは人に害をなすが、完全に区別することはできない。
対怪異特務課は、それらを処理する為の組織の一つである。
その存在は一般的には知られていない。
だけど、確かに存在している。
「……っし、フルコンボ!俺の勝ちだ!!」
「はぁ……だから、こういうのは苦手なんだ。」
太鼓のバチを冬弥に向けながら、勝ち誇った顔をする遥陽は満面の笑みで置いていたカバンを手に「今日の報告書は冬弥な!」とバチをしまいルンルンと去っていく。
「……はぁ、単純」
「何か言ったかー?」
「何も」
次のゲームをしようと選んでいた時、陰鬱な気配に二人は反応する。
迷わずに視線を向けると、そこにはトイレの近くに立ち尽くす真っ黒の気を纏った下を向く女子生徒。
明らかにその姿は異質であれど、誰もそれに気が付かない。ブツブツと何かを呟いているが、ここまでその声は聞こえない。ならば……
「あれは、まだ平気だ」
「……へぇ」
冬弥が通り過ぎ、遥陽は少ししてからその場から移動。
「お!冬弥、あれやろうぜ!」
バタバタと駆け寄ってきた遥陽が後ろから冬弥に抱きつく。それなりに身長差はあれど、それを気にしない遥陽は、下から冬弥を見上げて笑顔のまま指さしたのはクレーンゲーム。景品はクマのぬいぐるみ…何故?
「やめとけよ、絶対取れないから。」
「諦めたらダメだ!大丈夫、絶対取れるから!」
何故か張り切りブレザーを脱いでワイシャツの袖を捲った遥陽に、冬弥は呆れながらついて行く途中で、一瞬だけ目線を移動する。
先程の女子生徒の怪異は、居なくなっていた。
ゲームセンターの賑やかな音も外を出てしまえば少し静かになり、今度は学生や主婦達の会話が聞こえて来る夕方の商店街。通りかかったお惣菜屋さんの店頭で販売している出来たてのコロッケを食べる学生から視線を外し、未だに落ち込み続ける遥陽を見やる。
「……だから言ったろ?」
「でもさ、あれは取れると思うだろ……」
惜しい所まで何度も行ったとしても、全然違う所に落ちたり、最悪遠くに転がる。
結局何枚かのお札が溶けた所で遥陽は「俺は戦いに負けたんだ」と肩を落としたのだが、あれはどう見てもアームが原因だろう。数年前と比べて取れなくなった。
「……なんでそんなにアレが欲しかったんだ?」
呆れながらも声をかけた時、立ち止まり顔を上げた遥陽は「え?」と首を傾げた。
少しだけ追い抜かす冬弥は振り返る。春の生暖かな風。遥陽の青い目に夕焼け色が重なった。
「だって、欲しかったんだろ?」
「……。」
「冬弥?」
「いいや、何でもない」
離れた距離を埋めるように大股で近寄って来た事で2人は隣に並ぶと、今度はクレーンゲームの話ではなく、別の話題に切り替わった。
「ただいまぁ〜」
「ただいま。」
二人が住んでいるのは、街の外れにあるマンションの一室だった。
ここからなら商店街も学校もバイト先も通いやすく、不便はない。
マンションの外観は新しく、よく整えられている。ご近所付き合いはあまり無いが、通り過ぎ様に挨拶する程度の間柄。まぁ、殆ど通り過ぎることも無い。
玄関の扉を閉めると、外の音がわずかに遠のく。
先に部屋の中へ入った遥陽を見送り、鍵のかかる音だけがやけに静かな空間に残った。
正面には短い廊下が伸びていて、電気は自動で付く仕組み。靴は二足分きちんと揃えられている。
生活している形はある。だが、それ以上は何もない。
廊下を抜けると、広いリビング。物が少な過ぎて空間だけが余っているような部屋だった。
ソファとテーブルとあまり使わないテレビ。
整っているのに、どこか欠けている印象。きっと、モデルルームの方が温かみが有るであろう、無彩色の部屋。
足音が、わずかに響く。
リビングの他に部屋が二つあるが、どちらも同じように静かだった。
広さは十分にある。生活に困る事もない。
必要な物だけが置かれているそんな部屋。人が住んでいる筈なのに、生活の気配が薄い。
大きな窓からは、夜になると月の光が差し込み、よく遥陽はそこに座って空を眺めていた。
今はこの広いリビングに冬弥は1人。鞄を部屋に置きに戻ってから、隣の遥陽の部屋に入る。
コンコンと二回ノックをするが、返事はない。名前を呼びながら扉を開けた。
「……寝たのか?」
電気もつけず、カーテンは開けたままベッドに横になり眠っていた。ベッドに腰をかけて静かに眠る遥陽の頬に触れ、髪の毛を優しく撫でる。
「……おやすみ、遥陽」
多くは人に似た形をとりながら、わずかな違和感を残している。
それは人に害をなすが、完全に区別することはできない。
対怪異特務課は、それらを処理する為の組織の一つである。
その存在は一般的には知られていない。
だけど、確かに存在している。
「……っし、フルコンボ!俺の勝ちだ!!」
「はぁ……だから、こういうのは苦手なんだ。」
太鼓のバチを冬弥に向けながら、勝ち誇った顔をする遥陽は満面の笑みで置いていたカバンを手に「今日の報告書は冬弥な!」とバチをしまいルンルンと去っていく。
「……はぁ、単純」
「何か言ったかー?」
「何も」
次のゲームをしようと選んでいた時、陰鬱な気配に二人は反応する。
迷わずに視線を向けると、そこにはトイレの近くに立ち尽くす真っ黒の気を纏った下を向く女子生徒。
明らかにその姿は異質であれど、誰もそれに気が付かない。ブツブツと何かを呟いているが、ここまでその声は聞こえない。ならば……
「あれは、まだ平気だ」
「……へぇ」
冬弥が通り過ぎ、遥陽は少ししてからその場から移動。
「お!冬弥、あれやろうぜ!」
バタバタと駆け寄ってきた遥陽が後ろから冬弥に抱きつく。それなりに身長差はあれど、それを気にしない遥陽は、下から冬弥を見上げて笑顔のまま指さしたのはクレーンゲーム。景品はクマのぬいぐるみ…何故?
「やめとけよ、絶対取れないから。」
「諦めたらダメだ!大丈夫、絶対取れるから!」
何故か張り切りブレザーを脱いでワイシャツの袖を捲った遥陽に、冬弥は呆れながらついて行く途中で、一瞬だけ目線を移動する。
先程の女子生徒の怪異は、居なくなっていた。
ゲームセンターの賑やかな音も外を出てしまえば少し静かになり、今度は学生や主婦達の会話が聞こえて来る夕方の商店街。通りかかったお惣菜屋さんの店頭で販売している出来たてのコロッケを食べる学生から視線を外し、未だに落ち込み続ける遥陽を見やる。
「……だから言ったろ?」
「でもさ、あれは取れると思うだろ……」
惜しい所まで何度も行ったとしても、全然違う所に落ちたり、最悪遠くに転がる。
結局何枚かのお札が溶けた所で遥陽は「俺は戦いに負けたんだ」と肩を落としたのだが、あれはどう見てもアームが原因だろう。数年前と比べて取れなくなった。
「……なんでそんなにアレが欲しかったんだ?」
呆れながらも声をかけた時、立ち止まり顔を上げた遥陽は「え?」と首を傾げた。
少しだけ追い抜かす冬弥は振り返る。春の生暖かな風。遥陽の青い目に夕焼け色が重なった。
「だって、欲しかったんだろ?」
「……。」
「冬弥?」
「いいや、何でもない」
離れた距離を埋めるように大股で近寄って来た事で2人は隣に並ぶと、今度はクレーンゲームの話ではなく、別の話題に切り替わった。
「ただいまぁ〜」
「ただいま。」
二人が住んでいるのは、街の外れにあるマンションの一室だった。
ここからなら商店街も学校もバイト先も通いやすく、不便はない。
マンションの外観は新しく、よく整えられている。ご近所付き合いはあまり無いが、通り過ぎ様に挨拶する程度の間柄。まぁ、殆ど通り過ぎることも無い。
玄関の扉を閉めると、外の音がわずかに遠のく。
先に部屋の中へ入った遥陽を見送り、鍵のかかる音だけがやけに静かな空間に残った。
正面には短い廊下が伸びていて、電気は自動で付く仕組み。靴は二足分きちんと揃えられている。
生活している形はある。だが、それ以上は何もない。
廊下を抜けると、広いリビング。物が少な過ぎて空間だけが余っているような部屋だった。
ソファとテーブルとあまり使わないテレビ。
整っているのに、どこか欠けている印象。きっと、モデルルームの方が温かみが有るであろう、無彩色の部屋。
足音が、わずかに響く。
リビングの他に部屋が二つあるが、どちらも同じように静かだった。
広さは十分にある。生活に困る事もない。
必要な物だけが置かれているそんな部屋。人が住んでいる筈なのに、生活の気配が薄い。
大きな窓からは、夜になると月の光が差し込み、よく遥陽はそこに座って空を眺めていた。
今はこの広いリビングに冬弥は1人。鞄を部屋に置きに戻ってから、隣の遥陽の部屋に入る。
コンコンと二回ノックをするが、返事はない。名前を呼びながら扉を開けた。
「……寝たのか?」
電気もつけず、カーテンは開けたままベッドに横になり眠っていた。ベッドに腰をかけて静かに眠る遥陽の頬に触れ、髪の毛を優しく撫でる。
「……おやすみ、遥陽」
