また明日


窓の外は、いつの間にか曇りがちになっていた。
乾いていた風は湿り気を帯び、肌にまとわりつくような重さに変わる。朝の光も、どこか鈍い。
青かったはずの空は、薄く濁り、境界が曖昧になっていく。気づけば、季節は少しだけ進んでいた。

「……はぁ。」
「ん、どうした立花。」
「いや……なんでもないよ。……はぁ。」

雨が続く。
空は晴れず、どこまでも鈍い色をしていた。
教室の空気も、どこか重い。笑い声はある。
いつも通りのはずなのに、ほんの少しだけ、焦りが混じっている中で、進路の話が増えた。それでも、まだ大丈夫。そう思いながらも、どこかで分かっている。

——時間は、確実に減っている。と


「御影、進路どうすんの?」
「……俺は、就職」
ため息を着いていた斜め前の席の立花が話しかけてきた。オリエンテーションの日から5人で良く話すようになった。
「へぇ?どこ?」
「父親のとこ、継ぐ予定」
目の前の席に移動しこちらを見る立花。
「親父さん何やってんの?」
「……んー」
少し考える冬弥。
「警備、みたいなもん」
「へぇー、かっけぇじゃん」
足を組んでから頬杖をつく立花に、いつもの騒がしさは無いな、と口を開いた。
「……立花はどうするんだ?」
「俺?……進学はするつもりだけどさ」
煮え切らない。
「その先、何したらいいのか、いまいち分かんなくてさ」
「あぁ、なるほど」
顔を上げて天井を見た。
「俺、音楽好きだからやりたいって思うけど、その先が何したらいいのかも分からなくてさ。」

進路に悩む人間の特有の「何したらいいのか分からない」と言うのが、冬弥には分からなかった。休憩時間が終わり、授業を聴きながら冬弥は「羨ましい」と思っていた。そういう風に、悩める事が羨ましかった。



放課後の人気が少ない図書館。
「冬弥は進路どうすんの?」
「……遥陽?」
突然、声をかけられてようやく顔を上げる。
「聞いてる?」
「……ああ、聞いてるよ」
少しだけ視線を逸らしながら「俺は、就職」と本の文字を辿ってるフリをした。
「へぇ」
「父親のとこ、継ぐ予定」
「そっか」
それ以上は、聞いてこない。窓の外の雨の音だけが、静かに残る。
「遥陽は?」
「んー……」
少し考えるように、視線を上げた遥陽は「まだ、決めてない」と言うと、手元の本を読み始めた。
「そうか」
冬弥の声は、聞こえていない。


間合いに入るより早く、短刀が振るわれた。一閃。
触れた瞬間、怪異の形が崩れる。音もなく、霧のように消えた。続けて、もう一体。その動きに無駄はない。
「……遅い」
三体目が迫った瞬間に躱し……斬る。
それでも——
「……多いな」
雨が降り続ける中の帳の下は、大きな傘の中にいるような音がする。色は黒い色のビニー傘。
今日はバイト言うこともあって、下ろした帳の中で怪異を倒しているのだが……気配が減らない。むしろ、増えている気さえしてきた。わずかに眉を寄せた、その時。
「……?」

気配が霧散した事で視線を動かす。
また、ひとつ。音もなく。形も残さず。消えた。

「……遥陽」
濡れた黒髪が頬に張り付いているのも気に止めず、視線さえもこちらを見ていない。ただ、そこにある“それ”を見ている。一体。もう一体

——喰われた。

「……」
短刀を下ろす冬弥は動けない。いいや、動かない。次々と消えていく怪異。その中心にいるのは……。
呼ばない。止めない。雨が、すべてを曖昧にする。

——それでも。

その光景だけは、はっきりと残った。