また明日


「……これ?」
「そう。班の奴らが話してた奴。今、1番人気なんだって。」
郊外オリエンテーションが終わった最初の土曜日。
人が割と多い中、今人気の映画を見に来た二人。

「……「君と見た空の色」、ねぇ。」

映画館の壁に大々的に貼られた幾つものポスター。
男女が抱き締めあっているもの。青春恋愛映画か。キャッチコピーを見た冬弥は静かに視線を反らせた。その映画のキャッチコピーとは……

『さよならを、ちゃんと終わらせるために。』

座席は後方の端っこ。
飲み物だけもった冬弥はチラリと他の席を見た。
お客さんはカップルが多い。いや、女性客が多いか。男2人組もチラホラ居るが、物凄く浮いている気がする。

上映時間になり、証明が落ちて暗くなる。

切なげで、軽やかな曲が流れ出して映画の始まりを知らせた。

『進路に悩む高校三年の春。主人公・東雲蒼は、入院中の少女・高椋結衣と出会う。
明るく振る舞う彼女と過ごす日々の中で、蒼は少しずつ心を開いていく。
しかし結衣の病は確実に進行しており、その時間が長くないことを知る。
受け入れられない現実に、蒼は何度も彼女から目を逸らし、衝突を繰り返す。
それでも結衣は、最後まで笑っていた。
やがて訪れる別れ。
残された蒼は、彼女のいない世界で立ち止まりながらも、空を見上げる。

あの日、ふたりで見た空の色を、忘れないために。』

彼女……結衣が蒼の胸を叩きながら顔を上げ、涙でボロボロになったまま「死にたくないよ!」と言う叫びが響く中で、席のあちこちから涙を流しているのか鼻をすする音が聞こえて来た。
まぁ、感動シーンなのだろうが、冬弥は飲み物を飲みながら頬杖をついてそれを見ていた。
本を読むのが好きな冬弥であれど、こう言った恋愛系は読まない。内容に引かれない訳ではない。でも……

ー……俺なら、何としてでも繋ぎ止める。

スクリーンで動く俳優達が涙を流しながら死んだ結衣を抱きしめている。それは蒼であり、彼女の父と母でもあり、友人やきょうだいだ。

静かに眠るように目を閉じた彼女の姿は次には数多の色とりどりの花に囲まれたシーンになった。
これから蒼は一人で生きていく。いいや、もしかしたら次の新しい人との出会いで結衣を忘れてしまうのかもしれない。そうして、結衣と言う人は、彼の中でいなくなる。思い出としてたまに出てくるくらい。

「……。」
しれずに目を細めていた。

ー簡単に、手放せる訳がない。

横に座った遥陽を盗み見ると、真っ直ぐと見ていた。
目に反射するスクリーンの光。
遥陽の青が、色々な色に変わっていく。

ーお前は……どう思う

遥陽から視線を外すと、微笑みながら空を見上げる蒼で映画が終わった。エンドロールだ。
最後に「結衣」と名前を呼んで、看護師になった蒼が車椅子に乗った患者さんを連れて歩いて居る所で映画は終わった。

ー……所詮はフィクションだからな


「どうだった?」
エスカレーターを下って映画館を出た。
土曜の午後の賑やかな町を歩いていた時、遥陽が聞いてくる。まっすぐ前を向いたまま。
ちょうど信号が赤へ。
「んー、普通だな。」
「普通なのかよ。」
遥陽が少し笑って顔を上げた。
「泣いてるやつ多かったな」
「そうだな。」
確かにあの中にいた半数以上が泣いていたと言っても過言では無いだろう。「あなたは涙せずにいられない」みたいな感じなのも書いてあったからな。
「……冬弥、泣いてないな」
近寄ってきた遥陽は、冬弥の灰色の目を眺める。
「泣かねぇよ。」
冬弥が苦笑いしながら告げると、「だろうな」と笑った遥陽。信号が青に変わった事で歩みを再開させた。

「なぁ」
「ん?」
少しだけ先歩く遥陽が渡りきった所の少し開けた場所で立ち止まり半身を向けた。
「俺が死んだらさ、お前泣くの?」
「……は?」
一瞬、音が消えたような感覚になった。
人の話し声も、車の音も、電子の看板から流れる音も、スピーカーからの音楽も、頭上を走る電車の音も、何も
「いや、なんか気になってさ。お前が泣いてるとこ、見たことねぇし」
遥陽がこちらを見上げ、感情の読めない顔のまま告げる。
「俺らがジジイになってさ、もし先に俺が死んだら、お前どうすんのかなって」
ドクッドクッドクッと早くなる心臓が、痛い。
「…………さぁな」
震える声を誤魔化すようにそれだけ告げると、膨れた顔の遥陽が「つめてぇなぁ、お前〜」とふざけた間延びしたような声をした。

冷たくなる手を握り、先歩く遥陽に置いていかれないように足を動かした。

ー……泣くような終わりになんて、しない。