「……っ!?」
「スタンプ、押せたか?」
「え」
完全に帳が上がり、元に戻った。
立ち尽くしていた4人が困惑顔をしている中で一人立花のスタンプラリーを見て「ん?」と首を傾げたのは顔色が戻った冬弥。
「え、いま……」
オドオドと声を出す立花だったが、後ろにできている列の他のクラスの生徒から「早く押せよー」と急かされ、急いでスタンプを押した。
「次の文字はなんだった?」
少し進んでから次の文字はなんだった?と聞く冬弥に立花は「えっと」とモヤモヤしたまま答える。
「次は……れ、だな。」
「れ、ですか?」
「今までのは確か……ば、!、ん、れ」
立花、斎藤、不知火。そして
「……あ。俺、わかったかも。」
「俺も」
秋宮と冬弥が顔を見合わせる。この中で「なるほど」と笑ったのは遅れて不知火。
斎藤と立花は「え?」と首を傾げた。
「教えろよ」
「内緒。自分で考えろ」
意地悪に笑いながら最後まで急いだ。
微妙な空気は鳴りを潜め、元の賑やかさに戻る。
チラリと振り返った冬弥。
先程の祠は、既にそこには無くなっていた。
ただ、最後に見た時祠の中には首の折れた人型の石があった。あれは怪異を集めるためだけの媒介。なるほど。
ー……役目を終えた事で消されたのか。
第5の地点は展望台の下だった。
いいペースで全てのスタンプが押された事で補習はまのがれた。
全ての文字が集まり、5人はしおりのスタンプラリーの用紙を見ると、各所に押された「ば、!、ん、れ、が」を見て2人以外が「はは」と笑う。
「え、俺まだわからん。ば!んれがって何?」
「俺も分かりません。」
眉を寄せ用紙を見た2人。そこで、地図の左下の方に「ヒント!」と書かれたものを見付けた。
「なになに?……☆は左下から辿るべし?」
「……☆?」
顔を見合せた二人に秋宮が「マジかよ」と笑う。呆れ顔の不知火は第5の地点をトントンと指さした。
「お前ら、この地図を見て思うことはないか?」
「「……?」」
立花が持っている地図の絵自体は丸い。だが、スタンプラリーの位置が、まるで五角形のようでーーーもしかして……
「「わかった!」」
2人の顔がパッと上がり、5人はほぼ同時に声を出した。
『がんばれ!』
帰りのバスでは、今回のスタンプラリーについての感想が飛び交っていた。
残念ながらこのクラスに補習は居なかったのだが、相良が突然「おまえらぁ」と、声を出した。シンと静まる。
「「がんばれ」ってな、最後までやる奴、意外と少ねぇんだよ」
その言葉はいつもダラダラしている担任とは思えない程重く、厳しさが含まれていた。
「……まぁ、せいぜい足掻け」
教師らしからぬ言葉。
それでも、ここに居る全員に響かせるには充分だった。
そのまま、予定通りに学校へと戻ったバス。
ピロティで全員が集合。
校長先生からのありがたーーーーーーーーいお言葉を聴き終えると、にこやかで元気な体育の先生の「解散!」に、生徒達の野太い「あざっした!」が返ってくる。
これにて、郊外オリエンテーションは終了となった。
マンションに戻ってきた。
真っ直ぐに部屋に進んだ遥陽は、そのまま眠った。
その代わり、冬弥はリビングに行くとすっからかんの冷蔵庫から常備してあるミネラルウォーターを取り出し飲んだ。
薄暗い部屋でキッチンだけ電気をつけてそのままシンクに寄りかかる。
「……。」
ミネラルウォーターを置いて時計を見る。
現在19:00を過ぎた。特に感じない空腹に風呂場へ向かった。
「ん?」
リビングのソファに座りながら、読みかけの本を読んでいた時、ガラスのテーブルに置いていたケイタイがブブブと音を鳴らせる。
「……もしもし」
『冬弥、こっちだ。』
電話越しに聞こえた男の声。
こっちだって、どっちだ。
部屋をキョロキョロし、そのままカーテンを開けていた窓ガラスの向こう側を見た時、ふたつある椅子のうち、片方に腰掛けながらこちらに向かって手を振る姿を見つけ、ため息を着いて立ち上がり、鍵を開けて横に開いた。
「不法侵入だろ。」
『いいや』「ならねぇよ。ここ、契約したのは俺だからな。玄関から入ったぜ?」
「いつからいたんだよ」
「……さぁな」
「おい。」
耳にあてていたケイタイの通話終了を押すと、ベランダでタバコを吸っていた篠宮を見つけた。
気配なかったな。
冬弥は今に始まったことでは無いか、と近くの椅子に座る。春といえども少し肌寒くパーカーの前を閉めた。
「んで、突然なんだよ。」
「今日は、楽しかったか?」
「……は?」
タバコの煙が夜風に攫われて消えた。
灰皿に押し当て火を消すと、篠宮は足を組んで冬弥を見た。夜空のような紫の目。まるで、年の離れた弟に向ける視線に冬弥は「普通かな」と答えた。
「普通、ね。まぁ、それでもいいよ。」
くつくつと笑う篠宮は、少しだけ遠い目をする。
「体調は平気か?」
「……平気。ってか、知ってたのかよ。」
「俺の情報網舐めんな。」
不敵に笑う篠宮は夜空を見上げると、ポツリと「報告しろ」と呟いた。
「あそこの祠については元々俺も知ってた。だけど、何で首が落ちてたんだよ。あの守りの石像はちょっとやそっとじゃ壊れないはずだ。」
「……首、ねぇ。」
含みがあるように聞こえる。
「観測課が関与してるってのは理解ができる。だが……」
「冬弥」
口を閉じた。真剣なその表情。
「今回、関与してるのは観測課だけじゃない。」
「……」
眉を寄せた冬弥に篠宮は静かに告げる。
「……仁が関与している。」
