圧巻の花畑から移動してしばらく。
「でっけぇ池。」
「昔はここに蛍がいたそうですが、最近ではあまり見ないそうですよ」
「へぇ」
前方を歩く三人の声を聞きながら少し遅れて歩く冬弥。なんだか体が熱いのか寒いのか分からなくなってきた。
「……もどるか?」
「いや、平気だ。」
立花にお礼をしてから前を見た時、3人が立ち止まり「おーい、立花」と呼んで冬弥から離れた。
「どうした?」
「いや、なんかスタンプラリーの台が見当たらないんだよ。」
不知火が首を傾げ、周囲を見渡す。
おかしいな、と立花が地図を広げ、今いる場所を探る。
「……んー?あ、あれか?」
すると、池の真正面に位置する木々の間にポツンと置かれた台が見えた。
スタンプ台にしてはやたらと古臭く、簡素で小さい。
「なんだ、先生居ねぇじゃん」
秋宮がキョロキョロと辺りを見回す。
「まぁ、いいよ。」
立花がその台に気が付きスタンプを押そうと手を伸ばす。その様子を見ていた冬弥が「あ」と声を出した時、やたらと耳の近くで「ゴトリ」と何かの重い物が倒れた音が聞こえた。
「押しておけばーーーー」
全員から視線を外した時、立花達の全身に冷たいものが走った。氷水を掛けられたように頭から足の先まで冷えていく。真冬の中を薄着で居るような感覚。
「近寄るな!!」
冬弥の大きな声に弾かれたようにバッと手を離す立花。
そして、息を飲んだ。ユラユラと蜃気楼の様に揺れる影が、人の形をしている。顔と思われる表面の丸く窪んだ辺りに目玉は無く、ドロドロと溶けているような、そんなーーーー
「……悪いが」
冬弥の低い声
「こいつらは、俺の同級生なんだ」
三人の目の前にいつの間に移動したのか、冬弥が居た。立花が口を開こうとした時、この場の時間が止まった。
「手は、出さないでもらおう。」
先程とは打って変わって何ら音が聞こえない冬弥の帳の中で、短刀を手にし、冷たい視線を祠に向けて居た。
「……俺の体調不良の原因はこれだな。」
そういうや否や、数十体と蠢く怪異に向かって冬弥が踏み込んだ。
その一歩に迷いはなく、真っ直ぐに進んでいく。
一番近くにいた怪異を目で捉えると、短刀を閃かせる。その時、音はほとんど無く、ただ触れる様な動作の後で、その怪異がパァンと弾けるように、消えた。
「行くぞ」
一泊置いて、短刀を構え直す。
引き抜かれた刃は鈍い銀色。
光を弾くのではなく、静かに、吸い込むような色。
細く揺れる刃文が、どこか不安定に見えた。
それは「斬る」為の物ではない。
触れた物をそのまま消す。そんな印象を与えた。
「……怪異共」
一体一体を確実に消していく冬弥だったが、どんどん数を増やしていく怪異に違和感を覚え始めた。
きっと先程倒れた何かはこの場の怪異を封じていた物だったのだろう。でも、何かが原因でそれが倒れ、今まで封じられていたそれが解放された。
多勢に無勢。
流石の冬弥の顔にも疲れが見られた事で背後にいた一体に気が付かなかった。
「ーーっ」
急いで短刀を構えようとした時、突然その怪異が動かなくなった、いいや、なにかに動きを封じられたと言った方がいい。
「……来たのか」
その、増えたもうひとつの気配に後ろを見た時、動きが止まっていた怪異が左肩の辺りから斜めに引き裂かれた。
「ーーー。」
目の前の光景を見つめ続ける冬弥は怪異から後ろに視線を流す。引き裂かれた怪異は、そのまま消滅することは無く、どんどん口元へ運ばれていった。
咀嚼音も消滅する時のガラスが砕け散る様な音も空気もない。ただ、存在が消えて行くだけ。
「……遥陽」
小さくこぼれたそれに反応したのかは分からない。
でも、その輪郭も、その無造作な髪も、こちらを見るその美しい青い目も、その他よりも少し白い肌も、すべて
すべて、知っている。目の前の存在を疑う理由なんて、無い。冬弥は僅かに口元を緩めた。
怪異が消えた事で、帳が静かに閉じていくその全てを無視するように、ただ、消えたはずのそれを見ていた。
「でっけぇ池。」
「昔はここに蛍がいたそうですが、最近ではあまり見ないそうですよ」
「へぇ」
前方を歩く三人の声を聞きながら少し遅れて歩く冬弥。なんだか体が熱いのか寒いのか分からなくなってきた。
「……もどるか?」
「いや、平気だ。」
立花にお礼をしてから前を見た時、3人が立ち止まり「おーい、立花」と呼んで冬弥から離れた。
「どうした?」
「いや、なんかスタンプラリーの台が見当たらないんだよ。」
不知火が首を傾げ、周囲を見渡す。
おかしいな、と立花が地図を広げ、今いる場所を探る。
「……んー?あ、あれか?」
すると、池の真正面に位置する木々の間にポツンと置かれた台が見えた。
スタンプ台にしてはやたらと古臭く、簡素で小さい。
「なんだ、先生居ねぇじゃん」
秋宮がキョロキョロと辺りを見回す。
「まぁ、いいよ。」
立花がその台に気が付きスタンプを押そうと手を伸ばす。その様子を見ていた冬弥が「あ」と声を出した時、やたらと耳の近くで「ゴトリ」と何かの重い物が倒れた音が聞こえた。
「押しておけばーーーー」
全員から視線を外した時、立花達の全身に冷たいものが走った。氷水を掛けられたように頭から足の先まで冷えていく。真冬の中を薄着で居るような感覚。
「近寄るな!!」
冬弥の大きな声に弾かれたようにバッと手を離す立花。
そして、息を飲んだ。ユラユラと蜃気楼の様に揺れる影が、人の形をしている。顔と思われる表面の丸く窪んだ辺りに目玉は無く、ドロドロと溶けているような、そんなーーーー
「……悪いが」
冬弥の低い声
「こいつらは、俺の同級生なんだ」
三人の目の前にいつの間に移動したのか、冬弥が居た。立花が口を開こうとした時、この場の時間が止まった。
「手は、出さないでもらおう。」
先程とは打って変わって何ら音が聞こえない冬弥の帳の中で、短刀を手にし、冷たい視線を祠に向けて居た。
「……俺の体調不良の原因はこれだな。」
そういうや否や、数十体と蠢く怪異に向かって冬弥が踏み込んだ。
その一歩に迷いはなく、真っ直ぐに進んでいく。
一番近くにいた怪異を目で捉えると、短刀を閃かせる。その時、音はほとんど無く、ただ触れる様な動作の後で、その怪異がパァンと弾けるように、消えた。
「行くぞ」
一泊置いて、短刀を構え直す。
引き抜かれた刃は鈍い銀色。
光を弾くのではなく、静かに、吸い込むような色。
細く揺れる刃文が、どこか不安定に見えた。
それは「斬る」為の物ではない。
触れた物をそのまま消す。そんな印象を与えた。
「……怪異共」
一体一体を確実に消していく冬弥だったが、どんどん数を増やしていく怪異に違和感を覚え始めた。
きっと先程倒れた何かはこの場の怪異を封じていた物だったのだろう。でも、何かが原因でそれが倒れ、今まで封じられていたそれが解放された。
多勢に無勢。
流石の冬弥の顔にも疲れが見られた事で背後にいた一体に気が付かなかった。
「ーーっ」
急いで短刀を構えようとした時、突然その怪異が動かなくなった、いいや、なにかに動きを封じられたと言った方がいい。
「……来たのか」
その、増えたもうひとつの気配に後ろを見た時、動きが止まっていた怪異が左肩の辺りから斜めに引き裂かれた。
「ーーー。」
目の前の光景を見つめ続ける冬弥は怪異から後ろに視線を流す。引き裂かれた怪異は、そのまま消滅することは無く、どんどん口元へ運ばれていった。
咀嚼音も消滅する時のガラスが砕け散る様な音も空気もない。ただ、存在が消えて行くだけ。
「……遥陽」
小さくこぼれたそれに反応したのかは分からない。
でも、その輪郭も、その無造作な髪も、こちらを見るその美しい青い目も、その他よりも少し白い肌も、すべて
すべて、知っている。目の前の存在を疑う理由なんて、無い。冬弥は僅かに口元を緩めた。
怪異が消えた事で、帳が静かに閉じていくその全てを無視するように、ただ、消えたはずのそれを見ていた。
