冬弥がサンドウィッチを食べ終え、ゴミ箱に捨てに行ってから戻った。
「……なぁ」
「ん?」
遥陽が、軽く口を開く。
ペットボトルのお茶を飲んで、鞄にしまって返事をする。
「明日、二人でどっか行く?」
何気ない声。特別な意味なんてないような。
「明日バイト無いから行けるけど。どこに?」
「どこでもいいけど」
遥陽が冬弥をみる。
「……暇だろ、お前」
「まぁな」
少しだけ笑う。
「じゃあ決まりな」
勝手に話が進んで、「決まってねぇだろ」と冬弥。
「いいだろ、どうせ暇なんだし」
「……はぁ」
小さく息を吐くと、ふふ、と笑う。
「どこ行きたいんだよ」
「んー……」
少し考えて。
「映画は?」
「珍しいな」
「だろ?同じ班の奴が言ってたのが気になってな。」
軽く笑う。それだけの会話。でも、それ自体が珍しいとも思う。基本的に自分からどこかに行きたいとは滅多に言わない。言うとしたら報告書の記入を決める為のゲームセンターとか、静かな空間に行く為に図書館や夜の公園とかそう言うの。だから余計にどこか、引っかかった。
「はるーー」
「——おーい!」
どこかに行く事に否定する訳ではなく、ただの疑問を聞こうとした時少し離れたところから声が飛んでくる。
立花だ。
「そろそろ移動だって!」
手招きしてくる。後ろには冬弥と遥陽のグループ。何やら盛り上がってるな?
「班集まってるぞー!」
「行くか」
「……そうだな」
遥陽が、隣に並んで歩き出す。チラリと横を盗み見てもいつも通りの遥陽が変わらずそこにいた。
「じゃあ、また後でな」
「おう。」
遥陽達のグループのメンバーが冬弥の様子がいつも通りになっていた事に気が付きちえーと声を出すが、そのまま遥陽を連れて走っていった。
早期攻略組に加わったらしい。
「……御影?」
「ん、どうした?」
先程と同様にショートカットして歩く冬弥達のグループ。途中途中で見る春の花がゆらゆらと揺れている中で、最後尾を歩く冬弥は視界が少し歪んでいる事に違和感を覚えた。クラッと揺れる視界を頭を振ってやり過ごしていた時、肩に少し重みが加わった。
「御影?」
「……ん、どうした立花?」
そのまま背中を支えられ、横からのぞき込まれた。
「いや、どうしたって俺のセリフな?……なんか、顔色悪くね?」
「……顔色?」
立花が頷くと、「青い?……いや、白?」と首を傾げたのを「どっちだよ」と苦笑いするが、今朝から感じていた寒気はもしかして、と考える。
「いや、悪い。何でもない。」
「……平気か?厳しかったら戻ろうぜ?」
「大丈夫。……ほら、秋宮達が待ってる。行こう。」
立花の手を離して進む冬弥。数十年ぶりの体調不良かもしれない。
ショートカットの木々を抜けた先、視界が一気に開けた事で、一瞬視界が白けた。
「……うわ」
誰が声を出したのか分からないけど、目の前の景色に圧巻された。もしかしたら全員だったかも。
一面の色とりどりの、花。
青い空の下で咲き乱れている。風に揺れて、光を受けて。さっきまでの暗さが、嘘みたいだった。
「すげぇな」
「ここ、当たりじゃね?」
「そうですね、ここはショートカットした場所だからこそこの感動が有るんですよね。」
得意げな斎藤の声。三人が、少しテンションを上げる。
「写真撮ろうぜ」
「いいですね」
笑い声が戻る。さっきまでの空気が解けていき、「あ」と冬弥が指を指した所にスタンプラリーの台を見つけた。その看板と椅子とテーブルはどっから持ってきた、担任。
「おう、お前ら。ショートカットから来たのか。」
欠伸を噛み殺し近寄ってきた事に気がついた先生はちょいちょいと手招きした後、カメラを斎藤から取り5人を写真に収めた。ポーズなんてしていない。きっと間抜けな顔をしている。
「早く押して次行っとけ〜」
シッシッと手で払われ「仕事しろよ」と言う秋宮に「失礼な弟だなぁ」と笑う担任。
「……え、兄弟?」
「そうだよ、あれ、知らなかった?親が離婚してるから苗字が違うけど、俺達仲のいい兄弟なんだよなぁー」
「……はぁ。まぁ、仲悪くはないな。普通に出掛けるし、何なら兄貴の家に住んでるし。」
担任……相良静は秋宮の兄。両親が離婚をした際に既に家を出ていた相良。母親がこの間再婚した事で秋宮は居ずらくて相良の家に逃げた。彼女と別れたての兄は快く受け入れたのだが……
「兄貴、こう見えて家事全般得意なんだ。意外だろ?」
離婚やら再婚やら別れ話やら一気に聞かされたが、1番最後の家事が得意と言う話に全部持ってかれた。
「しかも、几帳面なんだよ。」
全員が言葉を失い、じとーっと見る。
相良は高校生の時相当悪かった。まぁ、不良なのだが、家庭的な不良で「おかん」等と呼ばれていた時代もある。
「俺の話はいいから、早く行けよお前ら。」
気恥ずかしかったのか、しおりを見始めてしまった担任に全員が、顔を見合せ笑うと「じゃあね」と進み始めた。
「さっきの文字はなんだった?」
「……えっと、ん。だな」
立花がスタンプを押して全員に文字を言う。
「1番初めが、ば。」
「2番目が、!ですね。」
「今が、ん。」
冬弥が「繋がるのか?」と聞くと立花も頷く。
「さて、4番目行くかー。」
「はーい、班長〜」
