また明日

「あれ、もう昼前か。」
「え、早くね?」
第3地点に行く前、時間を確認した立花が12:00迄、後30分という事に気がついた。
「戻らないと、お昼食べられませんね」
「とりあえず、戻るか。」
「そうだな。」
斎藤と不知火が顔を見合せ頷くと、冬弥もそれに賛同した。来た道を戻っていた時、「こっちですよ」と斎藤が指さしたのはマップの細い道。
「なんで?来た道戻ればいいよ」
「いいや、そこだと遠回りです。この道を進みましょう」
立花の質問に答える。
「詳しいんだな?」
「はい。ここには何度も来てるので」
あっさりと言う斎藤。「ああ」と思い出したように不知火が「地元こっちだもんな」と言った。
斎藤達が通っていた学校はこの公園の近く。だが、不知火自体はここには来たことがなかった。斎藤が、詳しいのもうなずける。


想像していた半分未満の時間で辿り着いた事でお昼ご飯が選びたい放題な事に気がつく。
ハンバーグ弁当、唐揚げ弁当、焼売弁当、幕の内弁当。その他にもサンドウィッチやおにぎり、お味噌汁に豚汁やコーンスープまでもが所狭しと屋根がある広間の長いテーブルに置かれていた。
段々と集まってくる他のグループ。賑やかになった。

笑い声、袋を開ける音、話し声が重なる。
スタンプラリーについても考えている人がいるし、先行班なんかはあと一個で集まるとか言っている。
ネタバレはしない主義の班で良かった。

その賑やかな少し外れの人の少ない木陰に、遥陽はいた。幹に軽く背を預けて冬弥を見る。あたたかな風に、墨色の髪が揺れた。

「……遅かったな冬弥」
「班行動だからな」
バスを降りた時とは大違いな態度にツッコミを入れる人はいない。サンドウィッチとコーンスープだけを入れた袋を持ち、班から離れ遥陽の元へと冬弥は歩み寄り、その隣に立つ。当たり前のように距離は近い。

「ちゃんと、班行動してるんだな?」
遥陽が、わずかに笑う。
「一応な」
「へぇ」
軽く息を吐いてサンドウィッチを食べる冬弥を見た。
ハムレタスサンドか。
「……お前がこういうの真面目にやるの、ちょっと意外かも」
「失礼だな」
冬弥はサンドウィッチを飲み込むと、ジロリと見た。
「だって、基本は興味ないだろ」
「……まぁな」
短く返す。
流石だ。全て見抜かれている。
「でも、たまには悪くない」
そう思える程楽しんでいた。
それこそ初めは遥陽さえそばに居てくれれば良かったのに。いや、それは今も尚変わりはしない。
「気分転換にはなる」
誤魔化すように笑うと、遥陽は冬弥を見つめるだけで何も言わない。会話が途切れた。
沈黙。

「……で」
遥陽が、少しだけ声を落とす。
「……さっき、妙な気配してたよな」
何気ない口調。けれど、確信しているような言い方に冬弥はわずかに視線を逸らす。
「別に」
即答。コーンスープをゴクッと飲んだ。
「気にするほどじゃないよ」
それだけ言って、ほんの一瞬だけ遥陽を見る。
その時。違和感が走った。

ー……目が

淡い青のはずのそれが、ほんの僅かに黒く濁って見えた。一瞬。本当に、一瞬だけ。
「……どうした?」
遥陽が、こちらを見る。その目は、いつも通りの色。今は何も変わっていない。

「いや……」
冬弥は視線を外して前を向いた。
「何でもない」
それ以上は言わない。生温い風が吹いて、ざわ、と木々が揺れる。
「……ならいいけど」
遥陽は、それ以上踏み込まない。
ただ、ほんの少しだけ。笑ったその表情が。

どこか、いつもと遠かった。