ノストラダムスに恋を

いつだかの春の訪れと共に、ようやく辿り着いた出月の居場所は、無駄に広く、窓の外に満開の桜が覗ける、病院の一室だった。

「よう。全然見舞い来ないから、親友辞めたかと思ったわ」

いつもと同じ、少し斜に構えて、悪びれない、それでいて少し毒がある。

そう、いつもと同じだった。

何年も味わってなかった『いつも』が確かにそこにあった。

「どこにいるかも、どうなってるかも知らない中、ここまで辿り着いたのは相当友情に厚いと思うぞ?」

途中、軽食を取りに出るくらいに居座ったのに、何を話したかはほとんど覚えていない。
ただただ、いつもを味わっただけだったから。

「別に怒ったわけじゃない」と出月は言った。
怒ったわけでも、軽蔑したわけでもなく、「ワンチャン付き合うのもありかな」と思ったそうだ。

「そこがピークかな、って。春日なら別れても楽しくやれるだろうけど、俺はそこまでで幸せだから、わざわざ試さなくてもいいや、って。顔は今でもタイプだからがっかりするな」

「そうやって煙に巻いてる内に、そのタイプの男は残念ながら結婚しちゃうぞ」

「どんな子?」

ベッドから身を乗り出す出月に、写真を見せた。

「意外、可愛い系じゃん。趣味変わった?」

「おま……」

お前が言ったんだと言い掛けて、言葉を飲み込んだ。
気付いてしまった。
そんなつもりはなかった。
美代のことは大好きだった。
今更、出月と比べようとかそんな考えはまるでなかった。

ただ、占い師やメンタリストが、何かのトリックを仕掛けて、選択を誘導されたときみたいな、驚嘆と畏怖が込み上げた。

世が世なら、きっと出月は世紀の大予言者になっていたと思う。
現代で信じてしまうのは、きっと僕だけだろうから。

それから、敬虔な信徒さながら、僕は足繁く見舞いに通った。
夏前に退院して、退院祝いを贈り、10年ぶりくらいに出月のお母さんと顔を合わせ、冬が来る頃、また、同じ病室で顔を合わせることになった。

さほど痩せたわけでも、疲れているわけでもないような出月は、元から白い肌をより一層白くさせるだけで、変わらず元気に見えた。

「いつもありがとう」と僕の手を握りしめるお母さんの震える指先が、酷く憔悴している様子で、否が応でも理解してしまう。自分が見たい『いつも』の出月と、目の前の出月は、別の世界の住人なんだと、分かりたくはなかったのに。

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