ノストラダムスに恋を

眼前には、柔らかい灯りと高い天井が広がっている。
傍らに寄り添っていた美代や子ども達は、今はもう静かで、風の揺らぐ音が耳に心地良い。
穏やかな微睡みの中、これが夢か現かわからず、外を見ようと視線を動かしたところで、あぁ、夢の方かと気付いた。
動くはずのない体が、痛みも軋みもなく、すっと、思うように動かせる。

「当たり」

まるで褒めてくれるように、窓辺の桜は今を盛りと咲き誇っている。

「春日は、名前のまんま、春が似合うね」

春に生まれた。
出月に会ったのも春だ。
春が似合わないほど、陰鬱な人生を送っては来なかった。

「春日は、映画とかテレビとか、華やかな業界って感じ」

朝早くて、夜遅くて、休みが来るのが待ち遠しくなるような仕事だとは思わなかった。
疲れが心地良いと思うほど、やり甲斐を感じられるなんて思いもしなかった。
不器用だと笑ったのも、1を10や100にする才能はあると褒めたのも出月だ。

「何で年上とばっか付き合うの?春日は、年下の、頼ってくる子の方が絶対合うよ」

美代に頼られるほど、好きになった。
背伸びすることと、カッコつけることは、似ているようで少し違って、付けた分の格好は、僕の体を少し大きくしてくれた。
それでいて、起業や子どもの受験の時には役に立たなくて、美代は肝が据わっていて、一歩後ろで倒れないように支えてくれた。

「一姫二太郎だっけ?なんか春日の家庭は絵に描いたようなアットホームな家庭って感じ」

秀一が生まれる頃には、真由美はママと同じ口を聞くようになって、うちの家庭は大きいママと小さいママ、大きい息子と小さい息子の4人家族ねと笑われた。

「春日は頑固だから」

うるさい。
決めたことは、最後までやり遂げたいんだ。

「春日は要領が悪いから」

お前の割を喰っているだけだ。
一人ならもう少し上手くやる。

「春日は俺がいないと困るもんな」

わかっているから、言ったんだ。
そう思うなら、もっと察してくれても良かったじゃないか。

「春日は、長生きして、ちゃんと幸せになれよ」

十分生きた。
きっと他人には眩しく見える人生を生きた。
もっと眩しかった人生を知っていた僕には少し物足りない人生を、やり残しがないように、必死で生きた。

「春日は、俺が死んだら悲しい?」

悲しくなんかない……

「春日は、俺が死んだら寂しい?」

寂しくなんかない……

「春日は、可愛い奥さんと、子どもと、孫と、大勢に囲まれて、そうだなぁ…、満足そうに最期を迎えるのが目に浮かぶ」

どうだ?
満足か?
お前の予言は、誰も文句を言えないくらい、寸分違わず未来を当てたぞ。
ユダは、イエスの予言を実現したぞ。

「めっちゃラブじゃん」