
―私には二つの世界がある。
この現実世界と、あっちの世界……こっちでは「異世界」なんて呼ばれる場所に生きる私だ。
物心付いた時から、それは私にとって当たり前のことで、普通だと思っていた。
けれど、成長するにつれ、それは周りから「夢」と呼ばれ、現実には無いことなんだって知った。
学校のクラスメイトが「昨日こんな夢見たんだよねー」って笑いながら話すのを横で聞くたびに、私はいつも少しだけ、不思議に思う。
だって、私の見る「夢」は、みんなと全然違うから。
花の匂い、風の感触、転んだ時の膝の痛み……
あっちの世界に生きている人たちが、本当にそこに存在し、体温を持っていることを私は知っている。
家族や友達の名前も、あっちの世界で食べた大好きな味も、現実に戻ってもまだ、驚くほど鮮明に覚えている。
朝、スマホの不機嫌なアラームで目が覚めた時、枕元に置いていたはずの「杖」を探してしまう度に、私は現実世界に戻ったのだと思い知らされる。
そしてその夢は、私が成長するにつれて、あっちの女の子...
――ユナも同じように時を刻んでいた。
ユナは異世界であるASÖRの世界に存在する、年齢も生まれた月日も私と全く同じ女の子。
夜、私がこっちで眠りに落ちると、私はあっちのユナになる。
そしてユナが眠ると同時に、私は現実世界の自分に戻る。
いやー、分かるよ。
こいつ何言ってんの...って感じだよね。
まるで交互に点滅する信号機みたいに、私の意識は二つの世界を休むことなく行き来している。
それを単なる夢だと割り切ることに、違和感を感じ始めたのは遅くはなかった。
だって、あっちで覚えたホウキで飛ぶ知識は、こっちでは掃除するためにしか役に立たないし、こっちの学校で悩んでいることは、あっちの広い夜空を見上げると「ちっぽけなことだな」って思えたりするから。
だから私は確証を得るために、とあることを実行した。
それは……。
ユナになった時、思いっきり自分の頬をつねってみることだった。
(親につねられたこともないのに)
………………。
――普通に痛かった。(泣)
でも、それだけじゃまだ不安だった。
自分の感覚が自分を騙しているのかも...ということでユナの妹であるルーシャに「お姉ちゃんの頬、思いきりつねって!」ってお願いしてみた。
――結果。つねられた頬の痛みより、「お姉ちゃん、頭大丈夫? 魔法酔い?」って本気で心配そうな顔をするルーシャの視線に、胸が本気で痛んだ。
だけど、それで分かったことがある。
私は夢を見ているんじゃなくて、本当にこの異世界に「ユナ」として生きているんだってこと。
だけど...
どうして「ユナ」として異世界で生きているのか?
何故私にだけにこんなことが起きているのか?
何の……目的で?
張り巡らされた私の思考は歪なまま、何一つとしてその謎は解明されていない。
今は、まだ。
だけど、これを機に私は日記を書き始めた。
現実世界のノートに、異世界の出来事を。
私がゆかりで、そしてユナであったという確かな証拠を、一つでも多く残せるように。
この物語はその日記に綴られた、そしてこれから綴られていく。
二つの世界に生きる、私の物語だ。
