エレベーターが上った先は、工場のような場所だった。
葡萄の甘い香りが充満し、匂いだけで酔いそうなほど芳醇だった。
「近くにはいない。行くぞ。」
「ん。」
「行くぞ」、と言われても、奏七多は晴柊の背中の上なので、あまり関係はないのだが、奏七多は、家族の墓との対面の瞬間が近づいていることに緊張していた。
作業所の大きな出入り口はシャッターが開かれたままになっていた。
主に大きな二つの部屋に区切られ、片方の部屋は葡萄を潰したり混ぜたりするような機械が設置されている。
もう片方の部屋は、清志朗の家の地下でみた牢に似ていた。
殺風景で、刺々しい。
壁には茶色く変色した血の跡が何重にも飛び散り、鉄臭い気がした。
折れたバッドや、黒ずんだ刃物。ハンマー、ペンチ。
「……晴柊、早く行こう。」
「そうだな……。」
この部屋で犠牲になった人間の悲鳴が、まだ響いているような気さえした。
作業所の横には、農工具やワインの瓶なんかも散らかっている。
それを横目で見ながら作業所を出る。
葡萄畑はすぐに見つかった。
「すごい、本当に葡萄畑だ……。」
鬱蒼と木々が茂る中、そこだけは背の低い木々が等間隔に並んでいた。地面は雑草はなく肌色の土が見えており、整然としていた。
「これがワインの原料……。あ、今の時期は葉は付いてないんだな。……ん?」
晴柊は葡萄の枝の先に雫が溜まるのを見た。
その雫は、人の悲しみの涙のように、ぽとり、ぽとりと静かに落ちる。
「……本当に、この下に人が……。」
「晴柊。おろしてくれる?」
奏七多の静かな要望に、晴柊はそっと奏七多を下ろした。
奏七多は痛む足を庇いながら、葡萄畑の地面を撫でた。
冷たい。
───にぃちゃん。にぃちゃん。
「晴、風っ、晴風……っ。」
土下座するように、固く冷たい土に頭をつけた。
ここにいるのか?ここに、俺の弟は。
「晴風……。」
奏七多は視界の端に、鈍く光る銀色のものを見つけた。
木の根に押し上げられるように見えている、銀の破片。
「あっ……。」
「奏七多っ!」
晴柊の抑止も聞かずに、奏七多は足を引き摺りながらそれに近づく。
倒れ込むような格好で銀のものの横に寝転ぶと、震える手で周りの土をどかした。
「奏七多、それ……。」
「……07、07……。う、うう、ああああ!!」
「奏七多っ。」
泣き崩れる奏七多を、晴柊が支える。
奏七多の手にあるのは、銀色の心臓。
ペースメーカーだ。
嗚咽を繰り返し、しゃくり上げ、顔を真っ赤にして泣いた。
晴風は、こんな、こんなところに……!
子供のように泣き続けて、奏七多はその場に倒れ込んだ。
ここから見える世界は、平らな土と、鬱蒼と茂遠くの木々だけ。ひどくつまらない世界。
「ごめん、お父さん、お母さん。ごめん、晴風。ごめん。ごめん……。」
奏七多は地面に頭を打ちつける。
何度も、何度も。
「クソっ、クソッ、くそッ!!」
その度に、奏七多の目からは涙がぼろぼろとこぼれた。
「絶対殺してやる!この村の奴ら!全員!!絶対に!!」
晴柊が奏七多を強く抱きしめた。
「…奏七多、今は一度抑えてくれ。見つかったら不利だ。俺たちも村人に捕まってしまう」
「う、う、うぅ……。」
奏七多は頷く。晴柊が「立てるか?」と肩をかすと、奏七多は大人しく晴柊に身を預けながら立ち上がった。
その時、晴柊が人の足音に気付く。
「行くぞ。早くこの狂った村を出よう。」
葡萄畑を出て、作業所が見える木の影に入る。
そこには、ゆり子と男性の姿があった。
「虎太朗がいないのよ。今、お父さんが探しに行ってるけど……。虎太朗、今年の、お、鬼を……、やらないといけないのに……。」
「肥料はもう運ばれてきてるぞ?一旦作業所に入れておくな。殺しは清志朗さんも来てからだから、まだ大丈夫だろ。」
「そうね、清志朗さんは、先に取り引きですものね。」
不安気に周りをキョロキョロ見回すゆり子。
会話の内容から、これからあの作業所で行われることを想像し、二人は身震いした。
「ね、奏七多くん。こっち。」
「え?」
「あ!」
大きな声を出しそうになった晴柊は、自分で自分の口を手で塞いだ。
そこにいたのは、虎太朗だった。
「そこ。見て。」
「な、何……?」
突如現れた虎太朗に驚きながらも、虎太朗がさし示した方を二人して見上げる。
そこには木のうろに隠すようにおかれた虫かごがあった。
奏七多の代わりに晴柊がうろを覗き込む。
「虫かごと、……中は手紙……?虎太朗さん、これは何……あれ?」
「いない……?」
虎太朗がいたはずの場所は、誰もいない。
「晴柊、さっきの───」
「っ!伏せろ!!」
晴柊に突然頭を掴まれ、奏七多は頭を下げさせられる。
背後にガン!と音が響き、恐る恐る顔を上げると、そこには斧が刺さっていた。
「う、うそ……。」
「クソガキ共!今年の肥料はお前達だ!!」
「逃げろっ!!」
真っ赤な目で、手首や口から血を流した清志朗が、鬼のような形相でこちらに向かってきた。
持っていた鍬を振り上げる清志朗に、奏七多は地面の砂を投げつけた。
すかさず、晴柊が足払いし、清志朗は大きな音をたて、背中から倒れた。
「ちょっ!バカ!俺は置いてけよ!」
「奏七多こそバカだな!死ぬぞ!?」
「晴柊にだけは言われたくないから!」
奏七多を肩に担ぎ、晴柊は走り出す。
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もし訳ありません。以降はまだ執筆中です。
当初の構想メモを載せておりますので、結末が気になるようでしたらチラ見できます。
執筆は続けますので、お待ちいただけるようでしたら、更新をお待ちください🙇
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葡萄の甘い香りが充満し、匂いだけで酔いそうなほど芳醇だった。
「近くにはいない。行くぞ。」
「ん。」
「行くぞ」、と言われても、奏七多は晴柊の背中の上なので、あまり関係はないのだが、奏七多は、家族の墓との対面の瞬間が近づいていることに緊張していた。
作業所の大きな出入り口はシャッターが開かれたままになっていた。
主に大きな二つの部屋に区切られ、片方の部屋は葡萄を潰したり混ぜたりするような機械が設置されている。
もう片方の部屋は、清志朗の家の地下でみた牢に似ていた。
殺風景で、刺々しい。
壁には茶色く変色した血の跡が何重にも飛び散り、鉄臭い気がした。
折れたバッドや、黒ずんだ刃物。ハンマー、ペンチ。
「……晴柊、早く行こう。」
「そうだな……。」
この部屋で犠牲になった人間の悲鳴が、まだ響いているような気さえした。
作業所の横には、農工具やワインの瓶なんかも散らかっている。
それを横目で見ながら作業所を出る。
葡萄畑はすぐに見つかった。
「すごい、本当に葡萄畑だ……。」
鬱蒼と木々が茂る中、そこだけは背の低い木々が等間隔に並んでいた。地面は雑草はなく肌色の土が見えており、整然としていた。
「これがワインの原料……。あ、今の時期は葉は付いてないんだな。……ん?」
晴柊は葡萄の枝の先に雫が溜まるのを見た。
その雫は、人の悲しみの涙のように、ぽとり、ぽとりと静かに落ちる。
「……本当に、この下に人が……。」
「晴柊。おろしてくれる?」
奏七多の静かな要望に、晴柊はそっと奏七多を下ろした。
奏七多は痛む足を庇いながら、葡萄畑の地面を撫でた。
冷たい。
───にぃちゃん。にぃちゃん。
「晴、風っ、晴風……っ。」
土下座するように、固く冷たい土に頭をつけた。
ここにいるのか?ここに、俺の弟は。
「晴風……。」
奏七多は視界の端に、鈍く光る銀色のものを見つけた。
木の根に押し上げられるように見えている、銀の破片。
「あっ……。」
「奏七多っ!」
晴柊の抑止も聞かずに、奏七多は足を引き摺りながらそれに近づく。
倒れ込むような格好で銀のものの横に寝転ぶと、震える手で周りの土をどかした。
「奏七多、それ……。」
「……07、07……。う、うう、ああああ!!」
「奏七多っ。」
泣き崩れる奏七多を、晴柊が支える。
奏七多の手にあるのは、銀色の心臓。
ペースメーカーだ。
嗚咽を繰り返し、しゃくり上げ、顔を真っ赤にして泣いた。
晴風は、こんな、こんなところに……!
子供のように泣き続けて、奏七多はその場に倒れ込んだ。
ここから見える世界は、平らな土と、鬱蒼と茂遠くの木々だけ。ひどくつまらない世界。
「ごめん、お父さん、お母さん。ごめん、晴風。ごめん。ごめん……。」
奏七多は地面に頭を打ちつける。
何度も、何度も。
「クソっ、クソッ、くそッ!!」
その度に、奏七多の目からは涙がぼろぼろとこぼれた。
「絶対殺してやる!この村の奴ら!全員!!絶対に!!」
晴柊が奏七多を強く抱きしめた。
「…奏七多、今は一度抑えてくれ。見つかったら不利だ。俺たちも村人に捕まってしまう」
「う、う、うぅ……。」
奏七多は頷く。晴柊が「立てるか?」と肩をかすと、奏七多は大人しく晴柊に身を預けながら立ち上がった。
その時、晴柊が人の足音に気付く。
「行くぞ。早くこの狂った村を出よう。」
葡萄畑を出て、作業所が見える木の影に入る。
そこには、ゆり子と男性の姿があった。
「虎太朗がいないのよ。今、お父さんが探しに行ってるけど……。虎太朗、今年の、お、鬼を……、やらないといけないのに……。」
「肥料はもう運ばれてきてるぞ?一旦作業所に入れておくな。殺しは清志朗さんも来てからだから、まだ大丈夫だろ。」
「そうね、清志朗さんは、先に取り引きですものね。」
不安気に周りをキョロキョロ見回すゆり子。
会話の内容から、これからあの作業所で行われることを想像し、二人は身震いした。
「ね、奏七多くん。こっち。」
「え?」
「あ!」
大きな声を出しそうになった晴柊は、自分で自分の口を手で塞いだ。
そこにいたのは、虎太朗だった。
「そこ。見て。」
「な、何……?」
突如現れた虎太朗に驚きながらも、虎太朗がさし示した方を二人して見上げる。
そこには木のうろに隠すようにおかれた虫かごがあった。
奏七多の代わりに晴柊がうろを覗き込む。
「虫かごと、……中は手紙……?虎太朗さん、これは何……あれ?」
「いない……?」
虎太朗がいたはずの場所は、誰もいない。
「晴柊、さっきの───」
「っ!伏せろ!!」
晴柊に突然頭を掴まれ、奏七多は頭を下げさせられる。
背後にガン!と音が響き、恐る恐る顔を上げると、そこには斧が刺さっていた。
「う、うそ……。」
「クソガキ共!今年の肥料はお前達だ!!」
「逃げろっ!!」
真っ赤な目で、手首や口から血を流した清志朗が、鬼のような形相でこちらに向かってきた。
持っていた鍬を振り上げる清志朗に、奏七多は地面の砂を投げつけた。
すかさず、晴柊が足払いし、清志朗は大きな音をたて、背中から倒れた。
「ちょっ!バカ!俺は置いてけよ!」
「奏七多こそバカだな!死ぬぞ!?」
「晴柊にだけは言われたくないから!」
奏七多を肩に担ぎ、晴柊は走り出す。
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もし訳ありません。以降はまだ執筆中です。
当初の構想メモを載せておりますので、結末が気になるようでしたらチラ見できます。
執筆は続けますので、お待ちいただけるようでしたら、更新をお待ちください🙇
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