吾輩は祖母である

縁側を抜ける風に、冷たいものが混じるようになった。

庭の梅の木はとっくに花を落とし、見上げる空は高く、青い。
夏のあいだは少し鬱陶しかった私の毛皮も、今ではちょうどいい温もりになっていた。

秋である。

「ふぇっくしょん!」

隣で、サチコが小さなくしゃみをした。
びくりと肩を揺らし、古びた茶色のカーディガンの襟元を寄せる。

「ニャア」

やれやれ。
なんと軟弱な。

私は彼女の膝に前足をかけた。
撫でてきた手は、以前より少し冷たい。

「タマはあったかいねぇ」

そう言って笑うサチコの顔も、どこか疲れて見えた。

近頃、彼女は縁側にいる時間が短くなっていた。
夏には額に汗をにじませるほど日向ぼっこを楽しんでいたのに、今では日が陰るとすぐ家の中へ戻ってしまう。
時折、乾いた咳までしている。

私は知っている。
この子は季節の変わり目に弱い。

被毛もなく、爪もなく、あんな薄い布を一枚二枚まとったところで寒さに勝てるはずがない。
このまま冬が来れば、もっと弱るだろう。

見ていられなくなった私は、ひとつ重大な決断を下した。

狩りを教えねばならない。

サチコはいつも缶詰やカリカリを私に献上してくるが、あれは狩りではない。
本当に寒さが厳しくなったとき、自分で獲物を獲れなければ困るのは彼女のほうだ。

仕方ない。
ここは私自ら、見本を見せてやるしかあるまい。

私は縁側から降り、庭へ出た。

「どこへ行くんだい、タマ?」

不思議そうな声が背中から飛んでくる。

「ニャッ」

よく見ていろ。
これが真の戦士の動きだ。

私は庭石の陰へ身を伏せた。
狙うは、最近この庭をうろついているハツカネズミ。
小さいが、冬に備えて脂が乗っている。教材としては悪くない。

枯れ葉がかすかに鳴る。
灰色の影が走る。

次の瞬間、私は飛び出していた。

前足の爪が獲物を捉える。
暴れる間もなく勝負はついた。

完璧だ。

私はその小さな体をくわえ、誇らしげに縁側へ戻った。
そしてサチコの足元に、そっと落としてやる。

「ニャッ」

見よ。
これが狩りだ。

だがサチコは、目を見開いたまま固まり――

「ひあああぁっ! や、やめてええっ!」

今にもひっくり返りそうな声で悲鳴を上げた。

ほほう。

私は目を細めた。
そこまで感動するとは。

彼女は慌ててちりとりを持ってきて、私の仕留めた獲物を震える手で庭の隅へ戻してしまった。

「ダメよ、タマ! そんなの持ってきちゃダメ!」

やれやれ。
謙虚な子だ。

私が直々に見本を見せ、しかも獲物まで譲ろうとしたというのに、自分にはまだ早いと遠慮したらしい。
無理もない。
いきなり私ほどの名手を目の前にすれば、畏れ多くもなるだろう。

「もうお家に入ろうねぇ……」

サチコは疲れたようにそう言い、私を家の中へ促した。
その声は少しかすれていた。

「ニャアン」

うむ。
今日はこのくらいで勘弁してやろう。

それからというもの、サチコの衰えは目に見えて増していった。

あの悲鳴のあと、彼女が大きな声を出すことはなくなった。
代わりに、家の中には「コン、コン」と乾いた咳が響く日が増えた。

居間にコタツが出されると、彼女はそこに潜り込んでいる時間が長くなった。
縁側に出ることはほとんどなくなり、動くのはトイレへ立つときと、私の献上品を用意するときくらいだ。

「タマ……ありがとねぇ……」

コタツの中で私を抱き寄せる手は、以前より骨ばっていて、力も弱かった。

やれやれ。
この子は本当に私の温もりを必要としているらしい。

私は彼女の腕の中で喉を鳴らし続けた。
私の熱が少しでもこの子を楽にするなら、それでいい。

季節はさらに進み、庭の梅の木は葉を落とした。
風が吹くたび、ガラス戸がガタガタと鳴る。

サチコはもう縁側へ出ようとしなかった。
一日中、居間のコタツで丸くなり、ときどきぼんやりテレビを眺めるか、目を閉じてうとうとしている。

それでも私のごはんだけは忘れない。

「すまないねぇ、タマ。おばあちゃん、なんだか体がだるくてね……」

サチコはそう言いながら、私の器にカリカリや缶詰を入れる。
声に力がない。

私は短く鳴いて、その器に顔を寄せた。

だるいなら無理をするな。
そう言ってやる代わりに、私は残さず食べた。
彼女が少しでも安心するなら、そのくらい安いものだ。

「いっぱいお食べ。えらいねぇ……コンコン」

咳き込みながら、サチコはまたコタツへ戻っていく。

私は食事を終えると、急いで顔を洗い、そのあとを追った。
布団の隙間から潜り込むと、中は暗く、じんわりとした人工の熱で満たされている。

だが、それでも私はサチコの足元に身を寄せた。
冷えた足首に体をぴたりとくっつけ、くるりと丸くなる。

「ふふ、タマはいつも一緒だねぇ。あったかいよ」

足がわずかに動き、私の背中の毛に触れる。

当たり前だ。
放っておけば、この子はすぐ冷えてしまうのだから。

私はさらに強く身を寄せた。
この領地を守るのも長の務めなら、この脆弱な同居人を守るのもまた私の役目である。

彼女の体から、少しずつ力が抜けていっているのはわかった。
猫の五感は、その変化を見逃さない。

それでも私は、持てる熱のすべてを分け与えるつもりで、じっと彼女に寄り添い続けた。

外では冷たい風が吹き、冬の足音がはっきりと近づいていた。

微睡みの中で、サチコがぽつりと呟く。

「来年、また暖かくなったら……縁側で、一緒に日向ぼっこしようねぇ、タマ」

私は目を閉じたまま、力強く返事をした。

「ニャン」

もちろんだ。

私が許すかぎり、お前はこれからもずっと、あの縁側で日向ぼっこをすればいい。
私はその隣で、お前を見張り、守ってやる。

それは、家の長としての当然の責任であり――
同時に、私が生涯をかけて守り抜くと決めた、かけがえのない孫娘への誓いでもあった。

だが、その誓いが果たされるより先に、季節はあまりにも早く雪を連れてくることになる。