白い君、紅い唇

7話 題:城                             
インターホンの偽物の声、養父が行っていることのおぞましさ。凛人は自由を与えられながらも監禁されている、奇妙な関係を俺が破壊してみせる。
「よっ、修」
「…なんだお前か」
夕日が差し、机や椅子の影が長く伸び、誰もいない空の教室に新島斗真は現れた。
「なんだってなんだよ〜」
「今日は勉強を教える時間はないからな」
「まーたそれかよ」
「最近ずーっとなんか調べてるよな」
「やっぱ白川のことだろ」
「………………」
面倒臭くなった俺はさっさと教室をあとにする。今日は凛人の家へ向かう。
「アイツにはこれ以上近づくなって」
後ろから大声で、ハッキリとした声でそう聞こえた。夕日の逆光のせいで新島斗真は真っ黒に見えた。
「………なぜそんな事を言う?」
「白川凛人は恐ろしい人間だ」
「………………」
「何も知らん凡人は喚いていろ」
「何を言われようが、凛人との関係を終わらせる気はない」
「誰の指図も受けない」
「……もう、付いてくるな」
「くそ……………」
アイツの視線は見なくても、分かる。あの時の勉強を教えに来ていたアホの同級生ではない。獲物を追い詰める猟犬の冷徹さだ。
新島斗真もまた、排除すべき存在だ。
***
「…………………」
修があんなこと言うくらい、白川の事を大事に…。いや、もうあれは「愛」の領域。
警告も虚しく、修は行ってしまった。アイツと関わったら、死ぬかもしれないのに。
俺は刑事である父親に電話をする。
「斗真か。どうだ進捗は」
「修………早頭には警告したけど、聞かなかった」
「多分もう、白川の手に堕ちてる」
「そうか、なら早頭修から聞き出すのは難しい」
「早頭も監視対象だ。斗真」
「…………………」
スマホが割れてしまいそうなくらい、手に力を込めてしまう。
「早頭には情を抱くな、やつも監視対象だ」
「わかってるよ!」
「喚くな。お前はただ淡々と監視していればいい」
「分かったな」
「…………………」
「返事はどうした。斗真」
「…………………」
「分かったよ、親父」
「随時、報告を怠るな」
ブツッと荒く通話は切られた。修はこんな俺にもなんやかんや勉強を教えてくれて、構ってくれて。友達みたいになっちゃって。
「馬鹿なことしてんな俺」
唯一賢いお前を欺けたのは、俺がアホだってこと。ホントは取ろうと思えばある程度取れる。お前にただ近づくために。白川の事を調べるために。
虫や動物の死体の行方不明に白川家が関わっているから。
カバンに入っていたノートを開いてみると、修に教わった、下手ならくがきと汚い字のメモばかりのノートだった。
そんなノートを見ていると、偽物の勉強会を思い出す。
「ここは2進法だ。10進法とごっちゃになってるぞ」
「ほら、ここの問題。ミスってる」
「間違えてる所はちゃんと直せ」
俺が監視役じゃなくて、修が白川と健全な関係を築いていたら、何か変わったのかな…。
目から落ちた雫は夕焼けの空を映し出していた。水滴が反転した別の世界に見えた。
***
日が暮れて、夜に落ちたこの街を俺は歩く。高級な外観も夜だと無機質で不気味なものだ。そんな中で一際不気味なのが凛人の家だ。一層目を引く、白い色の門。白をベースに作られて、まるでドイツのノイシュヴァンシュタイン城に似ている。城ではなく屋敷だが。
そんな白も凛人とは違って、月夜に染まってしまう。この家は純白でないことが分かる。
不純の白を感じながら、インターホンを押す。この気味悪さに相応しい機械の声が応対を始めた。
「はい、ご要件は何でしょうか?」
俺は、自作した電波妨害アプリを起動し、この機械音声の周波数よりもさらに強力な周波数をぶちかます。
「ご…ようよぬけんけんけは、なんでねは。ぬきたやら!す…か?」
ちゃんと壊れてくれた。しかし、こんなので機能停止するのは少々セキュリティが甘すぎるような気もする。あっちも気づいている上で誘い出してるか。
ピーッと言う機械的な音が鳴り、門のロックが開錠される。
「罠だろうが、俺は凛人を救ってみせる」
この知識を凛人のために使えるなら、なんだっていい。君と出会って僕の退屈は壊されたんだ。次は俺が壊してみせる。
広い庭を歩き、玄関を確認すると扉が施錠されていない。防犯対策の怠りではない、意図して開けてあるのだろう。そんな危険な所に凛人がいるなら、信念が揺らぐことはない。
凛人の部屋を探そうにも、ここはかなり広い屋敷だ。俺は凛人の習性を思い返す。
(凛人は、目立ちたがりな性格でもないし、きっと端の部屋)
(末端にあるか…。いや、それとも地下があったりするか)
(地下なら研究室とかにも使える)
(それに地下で生活させれば、日も通さす白を保ちやすくなるか)
俺は地下を探すことにする。そういった設備なら、隠されているのは当然だが…。
さすがに俺でも殆ど情報ゼロで地下室の場所をピッタリ当てるなんてことはできない。
凛人との会話やこれまで調べた事をひたすら思い出し、生きてきて一番脳みそを回転させている。頭痛が起きていても、きっと俺の脳はその感覚を遮断するだろう。
(……ん?)
ひたすら記憶を思い出し、選別を繰り返しているとほんの微かに科学薬品の匂いがした。
この家は常にいい香りが漂っていたが、異なる匂いを俺は逃さなかった。
(…どこから!)
脳の選別を止め、その匂いに全神経を集中させる。匂いを辿ると一つの部屋に辿り着く、寂れてるわけでもない、朽ち果てているわけでもない。綺麗な部屋。
ここの部屋は屋敷の構造上、扉の前に窓と部屋の中にある窓があるおかげで、通気性がいい。
匂いが強い、段ボールの下には開閉可能な床下収納のような入り口があった。開けると薬品の匂いが一気に鼻を突き抜ける。
(結構…強いな…)
(待ってて、凛人)
梯子を伝い、地下室へと降りていく。科学薬品の匂いが一層強くなって不気味さをどんどんと増していく。凛人を救うまでは、この匂いに飲まれはしない。