6話 題:満潮
この日が訪れた。今日から、凛人の謎を解き明かしていく。
教室の扉を開けると、俺の隣の席には美しく、純白の君が帰って来ていた。久しぶりに見ると、目を焼かれそうな後光を放っているように見える。
「おはよう凛人」
「!」笑顔をこちらに向ける。
「おはよう。修」
凛として落ち着いたその声も電話越しで聞く声の何十倍もいい。この周波数はあのシャープペンシルが刻む一定の音と似ている。心休まってこのまま、ずっと聴いていたくなる。
それに比べてあの女の声は落ち着かないものだ。
「今日、喫茶店にでも行かないか?」
「1週間分、ゆっくり喋ろう」
「…………うん、修がそう言うなら」
「よし放課後行くか」
とりあえず、それとなく聞き出してみようか。そのとき俺はサッと後ろを見る、いつも後ろを取るあの男はいなかった。一安心して、凛人の方を向く。
「勉強、分かんないとこあったら教えるからな」
「うん、ありがとう」
久々に会うと凛人の消臭剤の匂いは、微かに強くなっていた。これは、グレープフルーツよ匂いか、本当の匂いはまだ消臭剤の匂いが強く分からない。
「じゃ、頑張ろうな」
「うん、お互いに」
***
「お待たせ、凛人」
「行こっか」
俺達は学校から30分くらいの近場でお洒落な喫茶店へ行く。ここは俺のお気に入りで、
コーヒーが特に上手い。凛人はコーヒーの黒を飲んでも、穢れることはないだろう。そもそも飲まないか。やっぱり凛人はまともに食事を取らないように思える。
「なにか飲むか」
「ううん、大丈夫」
「コーヒーは苦手か?」
「うん。こういうのは好きじゃなくて」
「甘いコーヒーとかもあるぞ」
「甘ったるいのも…余り」
「コーヒーとか、そういうのは味が毎回違うから好きじゃない」
「そっか…」
「ごめん、好き嫌い多くて」
「好き嫌いくらい誰にでもあるさ」
「なら凛人の好きなものってなんだ?」
趣味が読書くらいしか、好きに関することは聞いていない。
「好き……うーん…」
「…修?」
「俺はものに見えてるのか」
「…あ、いや、そうだよね。修はものじゃないし」
「ごめん、好きなもの無いかな」
「逆に修の好きなものってなに?」
「俺は、鯖の味噌煮とかかな…」
「和食好きなんだ」
「どっちかって言ったらかな」
いや、聞くこと間違えてる…。とりあえず養父がどんな人か教えてもらうか。
「養父さんは、元気にしてる?」
「うん、元気だよ」
「最近、ますます企業が上手くいってるんだって」
「いいことだな。きっと凛人を思ってのことだろうな」
「一人息子なんだから、愛されてるんじゃないか」
「確かに好きな事、自由にやらせてくれるし」
「でも、困ったことは解決してくれる」
「確かに愛されてるかも」
養父は凛人を愛しているのは判明したが、問題はあの声。何の目的であんな門番を用意しているんだ。
「凛人の家って、やっぱり使用人とかいたりする?」
「何人かは雇ってるよ」
「お掃除してくれたり、料理作ったりしてる」
使用人がいるなら、あんな機械を使って応対するか?誰かは応対できるようにしているのではないか。インターホンのことは聞けないので話を変える。
「料理作ってくれてるなら、ちゃんと食べてるみたいだな」
「うん。あんまり入んないけど」
昼休みにも、凛人は軽食すぎる食事をしていた。サプリメントやエネルギーバー。エネルギーチャージなど。人間に必要なタンパク質や炭水化物、脂質といった栄養素をほとんどサプリメントなどで済ましている。これは少食云々の話ではない。やはり、拒食症の可能性も…。
「ダイエットとかしてるのか?」
「ううん、昔から痩せてたし。本当に入んないだけ」
「辛くなったら言ってな」
「……そうする」
「ごめん修。今日はもう帰るね」
「…用事あったか?」
「宿題やってなくて」
「またね。修」
「あぁ…またな、凛人」
喫茶店のコーヒーの芳醇な香りと対抗した、グレープフルーツの匂いはまだ俺に纏っている。匂いのことを聞く前に帰ってしまった。しかし焦ることはない、また次にでも聞けばいい。次があるのだから。
***
養父が行っている企業をネットで調べてみる。どうやら製薬会社を経営しているようだ。
「白川製薬って、そのまんまだな」
「そういえば母さんが使ってた美容液も白川製薬って書いてあったな」
「日常に割と浸透しているか」
白川製薬は創立してまだ3年程だ。それでいて、ここまでの影響力。
…あの美容液は何が入っているのだろう。洗面台に置いてある成分表を確認する。
含有成分の最下段に記された聞き慣れない化合物ポリメチルメタクリレートの極微細粒子と高濃度ホルマリンの重合体。これは肌のキメを整えるための美容成分などではなく、生体組織の腐敗を止め、その形状を永劫に固定するための塗る剥製保存液だ。
「妙に肌が綺麗だったのは、これのせいか」
俺の母親でもそれには気づかなかったようだ。
「しかし、こんなヤバい成分が入っているのに、なぜ世間は気付かないか…」
おそらく、この化合物は白川製薬独自の特許成分で、有害性があるかどうかのデータが存在しないのか。
「…どの論文にも記されていない」
「発表されないようにしているか」
この情報は養父を落とすには申し分ない。養父を破壊して凛人を管理から解き放ってみせる。
この頭脳がたとえ、破滅を向かうために進んでも。俺はもう厭わないだろう。
この日が訪れた。今日から、凛人の謎を解き明かしていく。
教室の扉を開けると、俺の隣の席には美しく、純白の君が帰って来ていた。久しぶりに見ると、目を焼かれそうな後光を放っているように見える。
「おはよう凛人」
「!」笑顔をこちらに向ける。
「おはよう。修」
凛として落ち着いたその声も電話越しで聞く声の何十倍もいい。この周波数はあのシャープペンシルが刻む一定の音と似ている。心休まってこのまま、ずっと聴いていたくなる。
それに比べてあの女の声は落ち着かないものだ。
「今日、喫茶店にでも行かないか?」
「1週間分、ゆっくり喋ろう」
「…………うん、修がそう言うなら」
「よし放課後行くか」
とりあえず、それとなく聞き出してみようか。そのとき俺はサッと後ろを見る、いつも後ろを取るあの男はいなかった。一安心して、凛人の方を向く。
「勉強、分かんないとこあったら教えるからな」
「うん、ありがとう」
久々に会うと凛人の消臭剤の匂いは、微かに強くなっていた。これは、グレープフルーツよ匂いか、本当の匂いはまだ消臭剤の匂いが強く分からない。
「じゃ、頑張ろうな」
「うん、お互いに」
***
「お待たせ、凛人」
「行こっか」
俺達は学校から30分くらいの近場でお洒落な喫茶店へ行く。ここは俺のお気に入りで、
コーヒーが特に上手い。凛人はコーヒーの黒を飲んでも、穢れることはないだろう。そもそも飲まないか。やっぱり凛人はまともに食事を取らないように思える。
「なにか飲むか」
「ううん、大丈夫」
「コーヒーは苦手か?」
「うん。こういうのは好きじゃなくて」
「甘いコーヒーとかもあるぞ」
「甘ったるいのも…余り」
「コーヒーとか、そういうのは味が毎回違うから好きじゃない」
「そっか…」
「ごめん、好き嫌い多くて」
「好き嫌いくらい誰にでもあるさ」
「なら凛人の好きなものってなんだ?」
趣味が読書くらいしか、好きに関することは聞いていない。
「好き……うーん…」
「…修?」
「俺はものに見えてるのか」
「…あ、いや、そうだよね。修はものじゃないし」
「ごめん、好きなもの無いかな」
「逆に修の好きなものってなに?」
「俺は、鯖の味噌煮とかかな…」
「和食好きなんだ」
「どっちかって言ったらかな」
いや、聞くこと間違えてる…。とりあえず養父がどんな人か教えてもらうか。
「養父さんは、元気にしてる?」
「うん、元気だよ」
「最近、ますます企業が上手くいってるんだって」
「いいことだな。きっと凛人を思ってのことだろうな」
「一人息子なんだから、愛されてるんじゃないか」
「確かに好きな事、自由にやらせてくれるし」
「でも、困ったことは解決してくれる」
「確かに愛されてるかも」
養父は凛人を愛しているのは判明したが、問題はあの声。何の目的であんな門番を用意しているんだ。
「凛人の家って、やっぱり使用人とかいたりする?」
「何人かは雇ってるよ」
「お掃除してくれたり、料理作ったりしてる」
使用人がいるなら、あんな機械を使って応対するか?誰かは応対できるようにしているのではないか。インターホンのことは聞けないので話を変える。
「料理作ってくれてるなら、ちゃんと食べてるみたいだな」
「うん。あんまり入んないけど」
昼休みにも、凛人は軽食すぎる食事をしていた。サプリメントやエネルギーバー。エネルギーチャージなど。人間に必要なタンパク質や炭水化物、脂質といった栄養素をほとんどサプリメントなどで済ましている。これは少食云々の話ではない。やはり、拒食症の可能性も…。
「ダイエットとかしてるのか?」
「ううん、昔から痩せてたし。本当に入んないだけ」
「辛くなったら言ってな」
「……そうする」
「ごめん修。今日はもう帰るね」
「…用事あったか?」
「宿題やってなくて」
「またね。修」
「あぁ…またな、凛人」
喫茶店のコーヒーの芳醇な香りと対抗した、グレープフルーツの匂いはまだ俺に纏っている。匂いのことを聞く前に帰ってしまった。しかし焦ることはない、また次にでも聞けばいい。次があるのだから。
***
養父が行っている企業をネットで調べてみる。どうやら製薬会社を経営しているようだ。
「白川製薬って、そのまんまだな」
「そういえば母さんが使ってた美容液も白川製薬って書いてあったな」
「日常に割と浸透しているか」
白川製薬は創立してまだ3年程だ。それでいて、ここまでの影響力。
…あの美容液は何が入っているのだろう。洗面台に置いてある成分表を確認する。
含有成分の最下段に記された聞き慣れない化合物ポリメチルメタクリレートの極微細粒子と高濃度ホルマリンの重合体。これは肌のキメを整えるための美容成分などではなく、生体組織の腐敗を止め、その形状を永劫に固定するための塗る剥製保存液だ。
「妙に肌が綺麗だったのは、これのせいか」
俺の母親でもそれには気づかなかったようだ。
「しかし、こんなヤバい成分が入っているのに、なぜ世間は気付かないか…」
おそらく、この化合物は白川製薬独自の特許成分で、有害性があるかどうかのデータが存在しないのか。
「…どの論文にも記されていない」
「発表されないようにしているか」
この情報は養父を落とすには申し分ない。養父を破壊して凛人を管理から解き放ってみせる。
この頭脳がたとえ、破滅を向かうために進んでも。俺はもう厭わないだろう。
