白い君、紅い唇


5話 題:道筋                    
今日は例のテストの日だ。しかし苦戦する箇所などない、10分程度で30の問題を解いてしまった。昔ならこっそり寝ていたりしていたが、今は凛人のことを考えれる。
養父に管理されている。この線は、養父が成功した企業家で、変わり者だと聞いている。
変わり者、というのを予測するなら凛人のような美少年を自分の手で管理したがる。そんな性癖だったら、合致はするか。
もう一つは…。凛人がなにか隠している線。凛人はこれまで「死体」に興味を示している。メダカ、スズメ、スプラッター映画…。メダカが掘り起こされたのも、やっぱり凛人が…?もしかしたら逆に、養父が凛人に操られていたりするかもしれない。
そんなことを考えていたら、あっという間にテストの時間は終わってしまった。
昼休みに入り、俺の前には新島斗真がいた。
「修。今日のテストは自信あるぜ!」
「……そうか。じゃあやることはないな」
「何でそうなんだよ〜まだまだ頼るって」
「はぁ……」
「白川のこと、ずーっと考えてるな」
「……顔に出ていたか」
「白川って、人間に興味ないのかな」
「は?」
「白川はさ、お前と関わるときは特になんもないけど、俺とか先生とか周りのクラスのやつとか」
「なんかそいつらはどうでもいいみたいな反応するんだよな」
「周りのやつは既にいなくて、修しかいない」
「俺にはそう見えるな〜」
凛人は俺にしか興味がないということか?第三者のコイツがこう言うなら当たっている可能性は高い。じゃあ凛人と俺は両思いっていうやつか…。いや、マジか。
なら尚更、凛人が会えない理由はなんだ。このくらいの日数ならもう風邪はある程度治っているはず。風邪を引いて、養父もおそらく多忙で家を開けている。そうなら会いたくなるものじゃないのか。
「ちょっと外に行ってくる」
「お前はここで待ってろ」
「?」
「はーい」
俺は凛人に電話をしてみる。声を聞きたい、美しさを引き立てた繊細な声を。
3コールあたりで電話に出た。
「もしもし!凛人!」
「修?」
「あぁ俺だよ。風邪、良くなってきたか?」
「うん、だいぶ。明日には学校にいくから」
「そっか…良かった」
「なぁ…今日凛人の家に行ってもいいか」
「…………………家、知らないでしょ」
「あ…いや、1秒でも早く会いたくてな」
「心配しなくても明日には会えるから」
「待ってて、修」
「…うん。待ってる」
ここで通話が切れる。風邪が治っていたのはいいことだ。でも、家に行くと言っても、上手く丸め込まれてしまった。が、当然ながらあの声を調べなければ。
放課後に、俺はまたしても凛人の家へ向かい、インターホンを押す。
ピンポーン
「はい、ご要件は何でしょうか?」前と同じ対応。マニュアル通りってか。
「凛人君に用があって来ました」
「分かりました。失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」ここはちょっとだけ違う
「……………白川です」
「………………………」
「………………………」
「失礼ですが、もう一度お名前を伺ってもよろしいですか?」
…余りにも不自然すぎる。人間の戸惑いではなく、声帯情報と名前の確認が合わず、エラーでも起こしたのだろう。それにこのトーン、さっきの声色と同じ波長だ。次はこういってみようか。
「警察の城崎です」
「………………………」
「………………………」
「………あの、すみません」いつもとは少し長い沈黙。
「………………………」
「申し訳ありません」
「家宅調査を願われまして、お伺いいたしました」
「………………………」
「失礼ですが、もう一度お名前を伺ってもよろしいですか?」
また同じ声。さらに応対しているなら、多少のノイズが入ったりするはずだがそれもない。もう完全にAIの声だと確信を得た。
これは調べなければならない。この家を、凛人のことも。
「暴いてみせる」
「何を?」
「!!!?!!!!!!?」声にならない叫びをあげてしまう。
「ここ白川ん家?」
「でけえ〜〜〜」
「お前…後ついてきたな」
「ついてくるなって言ってるだろ?」
凛人について知るのは俺だけでいい。こんなやつに暴かせさせない。
「そんな言うなって」
「俺も白川のこと、心配だし?」
「…今日は会えないそうだぞ、一旦引け」
「えっ、無駄足かよ〜」
コイツも、只者ではない。勉強を教えるときにでも邪魔しないよう刷り込んでおくか。
***
家へ帰宅すると、珍しく母親が先に帰ってきていた。いつもは仕事で帰ってこれない日が多いというのに。
「あっ、おかえり修」
「今日は早いんだね」
「うん、今日は仕事少なかったから」
「そっか…あぁご飯作るよ」
「いいの私が作ったから」
「……そう」
「んーーーー」
「なにか思い悩んでるな〜」
「…そう見える?」
「ふふん。母親の目は誤魔化せないんだよ?」
「……………」
「年頃の男子なら……」
「好きな子でもできたな?」ニヤニヤしながら、しっかり的中させてくる。
「……違う」
「はぁ〜どんな子か楽しみ」
「今日は修の好きな、鯖の味噌煮だよ」
「鯖とかいつ買ったんだか」
俺の母親、早頭美奈子(はやがしらみなこ)は料理が上手い。勿論それは俺に受け継がれているが、こだわるのは面倒臭いので基本軽食で済ます。
母さんは、手際よく下処理を済ませ、しっかりと臭みを取る。そして味噌を入れ、煮詰めて完成させる。下処理の血を洗い流すところを見ていると、凛人の紅い唇を思い出す。あの紅い唇がなくなったらどうなるんだろう。…それでも美しいな。天使という言葉がより似合うか…。
「ほい、鯖の味噌煮一丁!」
「定食屋?」
出された鯖の味噌煮に口をつける。味噌と鯖が余りにも上手くマッチしている。この味は多分俺では出せない。
箸の当たる音。咀嚼音の音。鯖と味噌の匂い。細かに姿勢を変える動き。
最近は過敏なまでに観察してしまう。これも凛人と出会ってからだな。
「修」
「ん?」
「悩んでるなら、大人の人に相談するんだよ?」
「修はいつも、一人で解決しようとしちゃうから」
「あぁうん」
「…ちゃんと聞いてる?」
「心配してるんだもの」
こんな事、誰にも言えない。ごめんな、母さん。
明日は調査に時間を費やさなければならない。勿論凛人にも会えるのも楽しみだ。