白い君、紅い唇

−0000000000000話 題:因幡の白兎        
真美子と会ったのは大学生の頃。薬剤の研究に没頭している俺に献身的に協力してくれた真美子は俺が熱心に研究をしている姿を見て、恋に落ちたらしい。俺も彼女の事は協力してくれる優しい人だと思い、交際を始めてそのまま結婚に至った。この女性は俺が描いていた理想の
家族像に相応しい女性だった。
俺が描いている家族像は、父親は当たり前だが俺のような家族の未来を考えられる一家の大黒柱になる覚悟を持った男。そして母親は家族のために尽くしてくれる献身的で海より広い愛を持った聖母のような女性。そして大事なのは子供のことだ。
兄は、美形で一際目立つ存在であり、優しい心を持った存在で居なければならなくて、妹は、運動が得意で社交的な存在であり、ちょっぴり抜けている可愛らしいところが必要だ。
しかし、ある一つの問題が発生した。何度体を重ねても子供ができないのだ。病院に行って考えていた事実が確信に変わる。
「奥様の不妊の要因は、体内で抗精子抗体が作られ精子の動きを止めているようです」
「どうすればいいですか」
不妊の可能性なんて考えてなかった。理想は絶対に崩すわけにはいかない。
「体外受精や顕微授精が治療法としてあります」
「……そうですか…」
そんなのじゃ駄目だ。ちゃんと正式な儀式を経てこそ俺の理想は完成する。掲示された治療法は拒否した。
「本当にいいの?子供欲しいんじゃなかったの?」
「…………はぁ…」
上手くいかないことにストレスを感じて頭を掻きむしってしまう。よくやる癖だ。
***
「聡一郎さん。今日はここにいきませんか?」
スマホを見ると、隣町にある孤児院が表示されていた。車でいけばさほど距離はかからない。
「理想の子がいるかもしれませんよ?」
「…はぁ……わかった」
見るだけ見に行くが、里親になる理由などない。それは理想じゃないから。
車を走らせ、古臭い孤児院に到着した。入ると施設の女性に案内される。
「こちらに」
扉が開くと沢山の子供がいた。背丈もバラバラで中学生くらいの容姿の子もいる。理想の子など居ない。そう思っていると部屋の隅で黙々と図鑑を読んでいる一人の少年が目にとまった。
その子は圧倒的な白さで、穢れなどない姿で、余りにも美形だった。
「あの…あの子は?」
「あぁ、凛人くんです」
「彼は、両親を亡くしていてあまり他の子と話さないんです」
「心を閉じてるようで…」
そういう子は大概、優しい心を持っているから心を閉じるのだ。彼は俺の理想に相応しい。
「あの子を引き取りたいのですが」
「…聡一郎さん」
「え、あ、はい。手続きは児童相談所にて行ってください」
「ここから歩いてすぐ近くにありますので…」
「分かりました」
俺は孤児院を後にした。孤児院をミラー越しに見ていると真美子が話しかけてくる。
「本当に大丈夫なの?」
「…問題ないよ」
今日のは特例だ。俺の理想にピッタリな子を逃す訳はない。だが、次こそは正式に子供を授かるのだ。
長い期間を経て、白川凛人を家に迎えた。俺と真美子は凛人に徹底的に愛を注ぎ込んだ。
目の前に広がっているのは俺の理想で涙が溢れてしまいそうだ。
「グラタン美味しいか?凛人」
「…うん」
口に頬張って俯きながら返事をした。食べている姿はまさに理想だ。
「嬉しい?聡一郎さん」
「凄く嬉しいよ。真美子」
暗かった家は白く染まり始めたのだ。
***
ある時、凛人が外から帰ってきたとき手に何か持っていることに気づく。それは虫の死体だった。俺は凛人に好きな事をやって欲しかった。だから、協力する事にした。親は子のやりたいことをやらせるのが当然だから。
それから、凛人が虫や動物の死体をコレクションしていく様を協力しながら長い年月が経った頃。俺は理想で描いた凛人の妹の存在が欲しくなっていた。しかし、真美子は不妊でどうあがいても正式な儀式ができなかった。そこで俺は抗精子抗体を破壊する薬を違法で作り出したが、真美子は拒んだ。
気がおかしくなった俺は、立ち上げた白川製薬で売り出そうと試みた。このまま闇に飲み込ませるのは間違っている。世間にとってこれは奇跡の薬剤になるはずだ。しかし、そのことで真美子と争い殺してしまった。
それからは理想を無理やり顕現させる為に、作り出した理想の妻の声を屋敷に響かせて、誰も入れない門番の役目を与え、マネキンにメイクを施して明るい活発な妹を作り出した。
そして凛人の死体収集も、会得した技術や地下室の増設で、より能動的にできるようになった。
さらに凛人の白い美しさを保つために色々策を講じた。
肌を白く保ちやすい美容液。髪のツヤを高めるシャンプーとトリートメント。強力な日焼け止めや紫外線を通さないカーテンなどできることは何でもした。
全ては理想の為に。理想を捨てた母親のような間違いは犯さない。