白い君、紅い唇

−3878969756話 題:晴れのち雨         
俺は刑事である父に手厳しく教育されてきた。潜入捜査官がするような技術も、武術の訓練も小学校3、4年の間に徹底的に叩き込まれ、逃げたり、泣いたりするといつも背中や腹を殴られた。父親は典型的な昭和の教育方針の人で、法の裁きこそ正義だと考える人だった。父は俺を刑事にさせようとしているのだ。理想を浴びせて、俺の自由の権限は父が握りつぶしてしまった。そんな最中、高校2年生に上がった頃父親からあることを告げられる。
「白川製薬の闇を暴くことになった」
「白川製薬の経営者、白川聡一郎(しらかわそういちろう)の息子」
「白川凛人を監視しろ」
「えっ…今の学校は?」
「転校してもらう」
「白川凛人もこの学校に転校してくるようだからな」
「関わりを持ちやすくなるだろう」
「……………」
「なんだ?嫌か?」
骨が折れそうなくらいの痛みで肩を強く握られる。身体が震えるのを無理やり抑え込まれる。
「また、殴られたいか?」
耳元で響いた酷く低くて恐ろしい声。犯人に尋問する時に使っている声だろう。
「返事は?」
「…………はい」
俺は自由を奪われ、監視役を命じられてしまった。
転校したが、隣のクラスにいる白川凛人の姿を確認する。確かに目を引く白い美形の青年だった。しかしそんなことどうでもいい。問題はあの男、俺くらいの背丈で勤勉そうなそいつは白川凛人と親しく話している様子だった。その事を父親に報告する。
「その男と先に仲良くなれ」
「そいつから情報を引き出すほうが良いだろう」
「白川のヤツらはなにを考えているか、今ひとつ掴めないからな」
「分かったよ」
***
俺は勉強を教えて欲しいという名目で修と接点を作り出せた。一歩踏み出せたのなら親父は褒めるだろうか。
「名前は早頭修。勉強会の名目で会えるようになったよ」
「それと、白川凛人は風邪を引いて欠席してる」
「そうか、引き続き報告を怠るなよ」
10秒もかかってない報告の電話は雑に切られた。なにをしたら褒めるのだろうか。
「おい、ぼーっとするな」
「えっ、あぁすまん」
「ほら、ここミスってんぞ」
どうしよ、普通に分からん…。一応勉強はできることはできるが精々赤点回避ギリギリくらいの点数しか取れない。まぁ、勉強会の名目でわざと赤点を取っているが。
「やり方、教えてくれよ」
「はぁ」
ため息をつきながらも修は的確に教えてくれた。おかげで普通に分からない所は結構なくなってきた。
「まぁ、これなら赤点回避はできるんじゃないか?」
「うぃー!」
「アホながら頑張ってたんじゃないか?」
「…………」
褒めた。口はちょっと悪いけど俺を褒めたと思う。やっぱりこいつとは白川の監視に利用する関係じゃなくて、普通の、友達に…。
「終わったのならさっさと帰ってくれ」
「考えることがあるんだよ」
言われるまま、俺は教室を後にした。
***
そして俺は、修の監視も命じられてしまってからは修を白川凛人から解放して友達を目指すことにした。それで幾度となく修に白川凛人の危険性を伝えた。それでも全く聞く耳を持ってくれなかった。あるときは…。
―何も知らん凡人は喚いていろ
―何を言われようが、凛人との関係を終わらせる気はない
―誰の指図も受けない……もう、付いてくるな
と突き放されて。
―法律なんて、凡人を守るためのルールにすぎない
―俺と凛人はそんなしがらみから抜けた唯一の存在だ
―新島。お前には理解できないだろうが、俺達が望んでるのは救済ではない
―完成だ
と狂気を浴びせられて、もう完全に心は破壊された。
自由を求めた。
それからはひっそりと修と白川凛人の素行調査を行い。動物の生け捕りの証拠を掴んだ俺は警察へと届けようとした。しかしこれを出すと、修も捕まってしまう。
そうだ、白川凛人を脅迫すればいいんだ。そうすれば修はまともになって、戻ってきて。
俺と友達になってくれる。絶対に…。
姿を現したものの、修にまたしても拒絶された。もう俺は諦めた。何回もあったチャンスを徹底的に潰されて、もう修とは友達になれないことを思い知った。
その感情は、一生涯の呪いの監視役に変わってしまった。
これが俺が選んだ、自由。