−1537706話 題:ありふれた脳
ずっと、普通の人生だった。
勉強もそこそこで、運動は人並み、芸術とかはちょっと苦手。誰でもできるような、ありきたりな男子高校生ライフを送っていた。俺はこの人生を変えようとは1回も思わなかった。
「なぁ、修」
前の席の戸口に話しかけられる。
「なんだー」
「ハンドガン」
そういって定規を巧妙に組み合わせた、ハンドガンらしき物を俺に見せつけてくる。
「一発撃っただけで壊れそう」
「フハハッ、確かに」
「反動に耐えられねーな」
「てか、課題やっとけよ」
「いや、もうだりー」
「サボろ」
「説教コース確定だな」
「それでもいいしー」
普通の日常に、会話。俺は1個にしか集中できないタイプだからやり残した課題も会話をすると手が止まってしまう。
「はーい席つけー」
担任の橋本が入ってくる。コイツはいつも無気力で、色々テキトー。でも愛されてはいる。俺も実際、橋本で良かったと思っている。
「今日は…えー転校生を紹介します」
教室がザワザワする。転校生が来るとは聞いてなかった。いや、聞きそびれた、が正しい。
「入ってこーい」
そう呼ばれ、教室に足を踏み入れたのは。
肌は色白でサラサラな黒髪の美青年だった。女子が少しキャーキャー言っている声が聞こえる。そりゃそうだ、こんな美青年が来たら俺でもキャーキャー言いたくなる。
「自己紹介、頼む」
「はい」
「白川凛人です。趣味はスポーツと読書ですかね」
「よく趣味が真反対って言われます」
「よろしくお願いします」
爽やかに自己紹介を済ませ、拍手が響く。
「じゃあ、角松の後ろが空いてるな」
「そこに座ってくれ」
「はい」
席は俺から遠い、窓際の後ろ側だ。きっと彼は授業が終わった後、囲まれて質問攻めを受けるだろう。特に女子から。
「アイツ絶対、モテるよな」
「あのビジュアルならな」
「羨ましい〜俺もあんなイケメンになりたかった〜」
「お前には到底無理だな」
「そこは慰めろってぇ」
きっと、彼と関わる機会は訪れないだろう。精々、班が一緒になって授業の話し合いをするときくらいだと思う。
あの美青年がやってきても俺の日常は変わることはなく。今日も今日とて、俺なりの普通を謳歌していた。
友達とカラオケやら、ゲーセンやら行ってエンジョイしたり、テストに悪戦苦闘していたり、部活に打ち込んだり、時には女子と話せてラッキーな思いもしたり。
この普通を俺は楽しみ、受け入れている。
「修!放課後暇ー?」
「暇ー」
「ゲーセン行こー!」
「金ねぇーからパスー!!」
「マジかよー!」
こんな会話も、よくあるものだ。そろそろバイトをしようか、金欠で楽しめないのは流石にごめんだ。
「ごめん。そこ通っていい?」
あの美青年が俺に話しかけてきた。何かと思えば、単純に邪魔だったから話しかけてきただけだった。
「あぁ、ごめん」
美青年は横を爽やかに去って、廊下の先に消えていく。横を通ったときに漂ったいい匂いがそこに残っていた。
「やっぱイケメンは匂いもいいんだなぁ」
気づかずに寄ってきた戸口がそう言う。
「そーだなー」
特に興味もわかずに、校門まで俺達は歩いていく。
***
そこからはただ普通に青春を謳歌して、俺は卒業を迎えた。
「元気で…っ…やっ、てけよ」
「ははっ、お前もな〜」
ぐすぐす泣いた戸口と一緒に写真を撮って、他の友達とも写真を撮る。その際に見えたあの美青年は女子に沢山写真をせがまれていた。
「……相変わらず、だな……」
小声で呟いて、同じクラスのやつがクラス全員で写真を撮るよと告げ、俺もその場へと向かう。
続々と並び、俺の隣に来たのはあの美青年だった。相変わらずイケメンだ。
クラス全員で写真を撮って後日打ち上げをすることとなり、俺の卒業式は幕を引いた。
勿論、あの美青年と話す機会など無い。
10年が経過し、もう20代後半の俺は…。
「おはよう、修くん」
「おー。おはよう」
無事に彼女ができ、結婚に至っている。彼女は同級生だったあの、角松だ。
「今日、仕事休みだよね」
「どうする?どっか出かける?」
「うーん。特に、無いかな〜」
「今日は、家でのんびりしようぜ」
「おっけ〜」
「じゃあ朝食食べよ〜」
「うーい」
住み慣れたこのマンションも、彼女と一緒に朝食を食べるのも、俺なりの普通なのだろう。それと、やり甲斐がある仕事にも就いて。
「あっ、そうだ」
そう言って席を外し、部屋から持ってきたのは高校生の時の卒業アルバムだった。
「これ高校の…」
「そう、懐かしいよね〜」
パラパラとページをめくると、クラス写真の中にいた、あの美青年が一際目を引いた。
「こいつ、白川っていうのか」
「そうだよ、名前知らなかったの?」
「ずーっと美青年なやつだと思ってた」
「こいつ、どんなやつだっけ?」
「…うーん…なんか、凄い爽やかな人だった気がするなぁ」
「あー、確かに。そうだったな〜」
「芸能人とかになってそうじゃない?」
「あるかも、調べてみよ」
調べてみると、モデルとして名前が出てきた。そう言った仕事に就くには彼なら申し分ないだろう。
「……あっ」
「今、失踪してるって」
「マジか…」
「心配だな」
「な〜」
例え失踪していたとしても、俺にできることはない。
その後も卒業アルバムに見入り、思い出に浸っていた。
「…あっ。もうこんな時間」
「買い物行こ。車だして」
うちの彼女…。いや、妻は買い物が長いからこのイベントだけは憂鬱だ。
「はいはい」
準備を済ませ、俺達は買い物に出かける。扉を閉め、鍵をかける。
あのときの普通の思い出からは変わり、今の普通を俺は生きていく。
当たり前の、普通の未来を。
ずっと、普通の人生だった。
勉強もそこそこで、運動は人並み、芸術とかはちょっと苦手。誰でもできるような、ありきたりな男子高校生ライフを送っていた。俺はこの人生を変えようとは1回も思わなかった。
「なぁ、修」
前の席の戸口に話しかけられる。
「なんだー」
「ハンドガン」
そういって定規を巧妙に組み合わせた、ハンドガンらしき物を俺に見せつけてくる。
「一発撃っただけで壊れそう」
「フハハッ、確かに」
「反動に耐えられねーな」
「てか、課題やっとけよ」
「いや、もうだりー」
「サボろ」
「説教コース確定だな」
「それでもいいしー」
普通の日常に、会話。俺は1個にしか集中できないタイプだからやり残した課題も会話をすると手が止まってしまう。
「はーい席つけー」
担任の橋本が入ってくる。コイツはいつも無気力で、色々テキトー。でも愛されてはいる。俺も実際、橋本で良かったと思っている。
「今日は…えー転校生を紹介します」
教室がザワザワする。転校生が来るとは聞いてなかった。いや、聞きそびれた、が正しい。
「入ってこーい」
そう呼ばれ、教室に足を踏み入れたのは。
肌は色白でサラサラな黒髪の美青年だった。女子が少しキャーキャー言っている声が聞こえる。そりゃそうだ、こんな美青年が来たら俺でもキャーキャー言いたくなる。
「自己紹介、頼む」
「はい」
「白川凛人です。趣味はスポーツと読書ですかね」
「よく趣味が真反対って言われます」
「よろしくお願いします」
爽やかに自己紹介を済ませ、拍手が響く。
「じゃあ、角松の後ろが空いてるな」
「そこに座ってくれ」
「はい」
席は俺から遠い、窓際の後ろ側だ。きっと彼は授業が終わった後、囲まれて質問攻めを受けるだろう。特に女子から。
「アイツ絶対、モテるよな」
「あのビジュアルならな」
「羨ましい〜俺もあんなイケメンになりたかった〜」
「お前には到底無理だな」
「そこは慰めろってぇ」
きっと、彼と関わる機会は訪れないだろう。精々、班が一緒になって授業の話し合いをするときくらいだと思う。
あの美青年がやってきても俺の日常は変わることはなく。今日も今日とて、俺なりの普通を謳歌していた。
友達とカラオケやら、ゲーセンやら行ってエンジョイしたり、テストに悪戦苦闘していたり、部活に打ち込んだり、時には女子と話せてラッキーな思いもしたり。
この普通を俺は楽しみ、受け入れている。
「修!放課後暇ー?」
「暇ー」
「ゲーセン行こー!」
「金ねぇーからパスー!!」
「マジかよー!」
こんな会話も、よくあるものだ。そろそろバイトをしようか、金欠で楽しめないのは流石にごめんだ。
「ごめん。そこ通っていい?」
あの美青年が俺に話しかけてきた。何かと思えば、単純に邪魔だったから話しかけてきただけだった。
「あぁ、ごめん」
美青年は横を爽やかに去って、廊下の先に消えていく。横を通ったときに漂ったいい匂いがそこに残っていた。
「やっぱイケメンは匂いもいいんだなぁ」
気づかずに寄ってきた戸口がそう言う。
「そーだなー」
特に興味もわかずに、校門まで俺達は歩いていく。
***
そこからはただ普通に青春を謳歌して、俺は卒業を迎えた。
「元気で…っ…やっ、てけよ」
「ははっ、お前もな〜」
ぐすぐす泣いた戸口と一緒に写真を撮って、他の友達とも写真を撮る。その際に見えたあの美青年は女子に沢山写真をせがまれていた。
「……相変わらず、だな……」
小声で呟いて、同じクラスのやつがクラス全員で写真を撮るよと告げ、俺もその場へと向かう。
続々と並び、俺の隣に来たのはあの美青年だった。相変わらずイケメンだ。
クラス全員で写真を撮って後日打ち上げをすることとなり、俺の卒業式は幕を引いた。
勿論、あの美青年と話す機会など無い。
10年が経過し、もう20代後半の俺は…。
「おはよう、修くん」
「おー。おはよう」
無事に彼女ができ、結婚に至っている。彼女は同級生だったあの、角松だ。
「今日、仕事休みだよね」
「どうする?どっか出かける?」
「うーん。特に、無いかな〜」
「今日は、家でのんびりしようぜ」
「おっけ〜」
「じゃあ朝食食べよ〜」
「うーい」
住み慣れたこのマンションも、彼女と一緒に朝食を食べるのも、俺なりの普通なのだろう。それと、やり甲斐がある仕事にも就いて。
「あっ、そうだ」
そう言って席を外し、部屋から持ってきたのは高校生の時の卒業アルバムだった。
「これ高校の…」
「そう、懐かしいよね〜」
パラパラとページをめくると、クラス写真の中にいた、あの美青年が一際目を引いた。
「こいつ、白川っていうのか」
「そうだよ、名前知らなかったの?」
「ずーっと美青年なやつだと思ってた」
「こいつ、どんなやつだっけ?」
「…うーん…なんか、凄い爽やかな人だった気がするなぁ」
「あー、確かに。そうだったな〜」
「芸能人とかになってそうじゃない?」
「あるかも、調べてみよ」
調べてみると、モデルとして名前が出てきた。そう言った仕事に就くには彼なら申し分ないだろう。
「……あっ」
「今、失踪してるって」
「マジか…」
「心配だな」
「な〜」
例え失踪していたとしても、俺にできることはない。
その後も卒業アルバムに見入り、思い出に浸っていた。
「…あっ。もうこんな時間」
「買い物行こ。車だして」
うちの彼女…。いや、妻は買い物が長いからこのイベントだけは憂鬱だ。
「はいはい」
準備を済ませ、俺達は買い物に出かける。扉を閉め、鍵をかける。
あのときの普通の思い出からは変わり、今の普通を俺は生きていく。
当たり前の、普通の未来を。
